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伯爵令嬢の私には、物心つく前から婚約者が居た。
自由恋愛が謳われ、貴族すらも恋愛結婚が当たり前なこの時代において、私には最初から婚約者が居た。
相手は公爵令息であり、父の親友の息子でもある。
父親たちの「子供同士を結婚させよう!」から決まったのが、この結婚である。
そこに子供である私たちの意思は関係ない。
これだけを聞くと酷い親のように感じるかもしれないが、うちの親は両親そろって「親バカ」なほどに私を
溺愛してくれている。
そして、おじさま達(公爵夫妻)からも昔から申し分ないほどに可愛がって貰っていた。
この結婚に文句などはない。
ただ一つ、相手が彼なのを除いて。
婚約者ことダービンとは、それこそ記憶のない頃からお茶会だなんだと称して交流を深めて来た。
小さい頃は一緒に遊ぶのが楽しくて会うのが楽しみだったくらいだ。
しかし、中等部に入る頃にはお互いにちょうど良く思春期が入り、向か合い座るだけで恥ずかしくなっていった。
そして高等部になる頃に、たまたま彼の本音を聞いてしまったのだ。
放課後に学校の図書館で自習をしていたら、ダービンが友達数人と一緒に入って来たのだ。
彼らは私の存在に気づかず、恋愛トークを始めてしまった。最初はお互いの恋愛状況の報告だったが、そのうちダービンと私の話になり、私との関係を冷やかされた彼ははっきりと
「レイナとの婚約なんて迷惑でしかない。親同士のあんな約束がなければ、俺はもっと自由にできたのに」
と言っていた。
決して愛し愛される関係でない事は分かっていたが、彼とは幼馴染もしくは友人として上手くやっていると思っていたのに、まさか迷惑がられていたという事がショックで、それからしばらくは彼に会う事さえできなかった。
月一で組まれていたお茶会も仮病や多忙を言い訳に断り続けていた。
しかし、私達の気持ちとは裏腹に結婚に前のめりな親たちの手によって、とうとう結婚式を上げ私たちは晴れて夫婦となった。
結婚初夜、憂鬱な私とは裏腹にウキウキな侍女が私を隅々までピカピカにしてくれた。
お陰で夫婦の寝室には少しゆったりめのナイトドレスを着て、旦那様を待つ健気な奥様が誕生してしまった。
腹を括るしかないと理解していながらも心がついていかず、ソワソワとベッドの周りをうろついていると、ガチャという音と共に扉が開き、ゆったりとしたルームウェアを纏ったダービンが入ってきた。
何か言わなきゃと思い、私が口を開いた途端、
「この結婚がお前の意思でない事は承知しているし、不満なのも分かっている。しかし、俺は後継者である以上お前には子供を産んでもらわなければならないし、何かあった時の為に1人で終わらせるつもりもない。
仕事や家の事は自由にやってもらって構わないが、次期公爵夫人となった以上他に愛人を作るような事はしないでくれ。
俺が不満なのは仕方がないが、諦めて恨むならこの結婚を組んだ親父たちを恨んでくれ!」
ダービンはそう言うとベッドに腰掛け、視線で横に座るよう促して来た。
私は反論しようと彼の横に腰掛け顔を向けると、突然唇を柔らかい何かで塞がれてしまった。
それがダービンの唇だと気づいた頃には口付けは深くなり、酸欠からか頭が上手く働かなくなり、思考は停止してしまった。
そして、心配していた初夜は難なく終えてしまった。