アレクシア嬢、勇者を治療+αする。②
本日、天気晴朗にして微風アリ。絶好のお散歩日和のさなか、元気な最終確認の声が上がっていた。
「資材の配合、よーし。道具の整備、よーし。使うお部屋の掃除、よーし。そしてセリオン様とわたくしの体調、よーし!
と、いうわけで! さっそく治療に取りかかりますわ!!」
「「「わ~~~~っ」」」
ぱちぱちぱち、と盛大な拍手を送ってくれる家人一同に、準備万端なアレクシアはVサインで応えた。
思いがけないほど早く良い返事をもらった後、アレクシアは全速力で支度に取りかかった。
まず、セリオンがどこをどのくらい負傷しているかの確認。それが済んだら、身体を作っている素材の分析――素となるオリハルコンや鋼はすでに届いていたので、どちらがどのくらいの割合で混ざっているかを調べて、同じものを作るところからスタートしたのだ。
「あんまり複雑な組成じゃなくてよかったですわ。材料が増えるほど比率の再現が難しくなりますもの」
『……そういうものなのか』
「ええ。もし間違えると、やたらと硬くて加工しにくくなったり、逆に柔らかすぎて形を保てなかったりしますの」
『ふむ、なるほど。繊細な作業だ』
治療室として設えた空き部屋で、ストレッチャー代わりの簡易寝台に上がってもらったセリオンとの会話である。防炎処理を施した清潔な布を、台の上と足元にしっかり敷いてあるので、少々火花が散っても邸に燃え移ることはない。
元来適当な性格のアレクシアに、こういう細かな仕事は向いていないはずなのだが、何故か彼女は素材の準備から形成するまでの流れが大得意だった。その理由はまあ、今更言うまでもないが、本人の趣味に起因するものだったりする。
(実物を作れないならせめてそれに近いもの、って、プラモ作りとか球体関節人形の自作とかに燃えたよね~前世のとき……なんかやたらと好評でうれしかったっけ)
代替行為の副産物ではあったが、作ること自体はとても楽しかったのもあるだろう。何であれ、本人が伸び伸びと楽しくやった作業というのは良い結果を生み出すものだ。
それが今、紆余曲折を経て本物のリペアを任せてもらえることになろうとは……人生何が起こるかわからない、って本当だった。いやたぶん一回終わってるんだけども!
「うっふっふっふ……今こそ、長年培った技術を開放するとき! わたくしの夢と勇気とあこがれと希望、そんでもってロマンと凝り性が火を噴きますわ!! どうぞ大船に乗ったつもりでお任せくださいませ!!!」
『あ、ああ、それは全面的に任せる、が……随分いろんなものが籠っているんだな……??』
「それはもう!!! 満漢全席のてんこ盛りでしてよ!!!!」
作業開始前にして、すでにテンションは最高潮である。熱くぶち上げる本日の匠と、彼女に信頼を示しつつ若干退いている勇者を、廊下に待機してくれている家人一同がほのぼのしく眺めていた。善哉善哉。