アレクシア嬢、勇者を治療+αする。①
「――セリオンから書状が?」
「はい。早朝に使者が参りまして」
エーレンシュトラール邸でひと騒ぎがあった、その翌日のこと。日の光が燦燦と差し込む執務室で、報せを受け取った人物は瞳を瞬かせていた。丁寧に封筒を開けて、中の文面に目を通すと、威厳と知性を兼ね備えた顔立ちがほっと緩む。
「治療を受けることにしたらしい。かかる日数や経過などは追って報告する、とのことだ」
「おお、まことですか! それは喜ばしい、腕の良い錬金術師と知遇を得たのでしょうな」
「……いや、術師ではないな。歳若いが人形造りの達人で、ありとあらゆる素材の扱いに通じているらしい。
ついでに言うと、彼の細君だそうだぞ」
「…………はっ!? いつの間に!?」
悪戯を思いついた子供のような口調で付け加えると、目を剥いた相手のあごがかくん、と落ちた。そうだろうな、そういう反応になるだろう。何せ共にさんざん苦労して人選を行った仲なのだ。
国を挙げて称えるべき偉業を成し遂げながら、それと引き換えに元の姿を失った勇者はとことん控えめだった。金銭も爵位も要らないの一点張りで、しかし何も褒美をやらないわけにはいかない。ならば相応のところから花嫁を出そうという案に落ち着いて、方々に声掛けしてこちらの肝入りで輿入れを実現したら、その候補が片っ端から音を上げて帰って来てしまったのだ。もうどうしろと、と頭を抱えていたところに転がり込んだこれは、きっと朗報と言っていいはずである。
「まあそう驚いてやるな。もしかしたら、我々は余計なお節介を焼いたかもしれんぞ? 元々将来を誓い合った女性がいたとも考えられる」
「はあ、まあ、あの歳と立場なら……しかし、呪いで変わった外見を意に介さない令嬢がいようとは……」
「そうだな、実に興味深い。その内、この目で直に見てみたいものだ」
帰還してから一度も会えていないが、彼の容姿が出立のときと大きく変わっていることだけは間違いない。そんな勇者をありのままに受け入れる、女神の如き慈悲深く心根の清らかなひとか。はたまた己の専門分野に絶対の自負を持つ、職人のように確固とした芯を持つ強いひとか。
心配事は尽きないが、楽しみもまた一つ増えたな。と、手紙を持つ人物は楽しそうに笑った。