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アレクシア嬢、過去の因縁(?)と対峙する。⑥



 雨は結局降りやまず、出来る作業だけでも進めたり、騎士団の面々と雑談をするうちに夕刻となった。いつもならほどなくセリオンが帰邸して、当番二人は入れ替わりで隊に戻る、ということになるのだが、


 「え、残業で泊りになるんですの? セリオン様」

 「そうなんですよー。急遽だったし奥方のこともあるんで、明日の朝にはいったん帰れるようにするから、って隊長さんが」


 こちらも一日別の用事で出かけていて、帰りがけに様子を見に行ってくれたロイが、タオルで頭を拭いながら困ったもんだ、という風情で伝えてくる。いちおうフード付きの雨よけマントを着ていったのだが、走り回る馬の背中では限界があったか。


 「で、騎士のお二人にもお言伝です。セリオンが戻るまでは引き続き護衛を任せる、出来るだけ近い部屋に留まって奥方を見守ること、だそうで」

 「うむ、了解じゃ。任せてたもれ」

 「あ、オレらが泊まるための準備はいらんぞ? 携帯食料があるしな」

 「いいえ、とんでもない! 腹が減っては戦は出来ん、がっつり夕飯食べてもらえ!! って、旦那様からメッセージ預かってますんで!」

 「……最近奥さんに似て来てないか、あいつ」

 「うむ、仲良しの証拠じゃの! 善哉善哉っ」

 「ふふふ、ありがとうございます」


 元気よく言い切った侍従越しの同僚のセリフに、やや遠い目になったグレンの隣でやけに嬉しそうなリリベットだ。先ほどの会話を思い出すと有り難くもあり、何だかちょっとくすぐったくもあるな、これは。


 「それにしても、一晩ご不在ですのね……この子のこともご報告したかったですのに」

 《現在の雨雲は明朝には去って行く見込みです、ご夫君の帰還の妨げにはならないでしょう。ご安心を》

 「まあ、クリスティアナさんって万能ですわね。助かりますわ、ねぇ」

 《恐縮です。……ところでマダム、そちらの東洋人形は如何されますか》


 顔や手足を拭いて髪も梳かして、ちょっとさっぱりした市松人形に話しかけるアレクシアに、『核』から改まった調子で質問がなされる。そうだ、この子の疑惑は晴れていないんだった。同じ部屋に置いておくのはちょっと危ない、かもしれない。こんなに可愛いのに残念極まりないが。


 「うーん、そうですわね……向かって左側のお部屋がいいかしら。人形造りの資材置き場になってますし、開いてる箱もいくつかあったはずですわ」







 ――というやり取りをしたのが、確か日没の前だった、はずだ。


 (う~~~ん、まさかいきなり金縛るとは……!)


 テンプレ過ぎる展開に、ベッドの上でピクリとも動けないアレクシアは思った。名残惜しいけどちゃんと離しといたんだから悪くないぞ、わたしは!!


 首が動かせないので確認不可能だが、体感だと数時間くらいは眠っていたようだ。部屋の中は真っ暗で、外からは相変わらず雨の降る音がしている……はず、だ。金縛りの影響か、耳鳴りのようなものがするせいであまり自信はない。


 (ええっと、こういう時って大概、部屋の外には異変が伝わらないんだよね……どうしよ、早速詰んだかも)


 どうやって助けを求めよう、と、動かない眉間を寄せるイメージで考えていたとき。ふっと、視界の端を何かが掠めた。



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