アレクシア嬢、過去の因縁(?)と対峙する。④
「メグさん? どうかなさったの? ……って、まあ」
あちらが開けるのを待たずにドアに駆け寄って、自分から開けてやったアレクシアが目を丸くした。あとをついてきていたリリベットも同様だ。
「これまた、ずいぶんと大荷物じゃの。セリオンかアレクシアのふぁんから贈り物か?」
「さあ、どうでしょうかしら。グレンさん、わざわざ運んでもらってすみません」
「構わねえって。大した重さはないが、こうかさ張るとメイドの嬢ちゃんの手に余るだろ。侍従の兄さんは外に行ってるしな」
「あ、ありがとうございます!」
頭を下げるメグに良いってことよ、と気持ちよく笑って返したグレンは、古めかしい木箱を抱えていた。直方体で、高さは一メートルほどもあるだろうか。装飾などは一切ないシンプルな白木のものだが、しっかりした作りになっていて、およそ安物には見えなかった。なんだろう、どこかで見たことがあるような、ないような……
「さっき少しだけ雨が弱まったので、お外に出たんです。ポーチのお掃除だけでもしようと思って……そしたらこの箱が置いてあって、奥様へって宛名書きが」
「あらまあ、置き去りになってましたのね。よくあるやつですわ、ええ」
「よ、よくあるんですか!?」
「ありますわよ? お人形作りや修繕に携わっていると、年に数件は必ず。……となると、十中八九は訳アリですわねぇ」
「ひえっ!?!」
「わわわわわ訳アリってなんじゃ!! ちょっと増えすぎたとか引っ越し先に連れて行けんとか、やむを得ず捨てられる犬猫的なアレか!? そうじゃと言うてくれっっ」
「いだだだだだ!! おい待て、二人そろって力いっぱい引っ掴むんじゃねえ!!」
しれっと意味深なことを言われた女子二人に、左右からひしっと腕にしがみつかれたグレンが悲鳴を上げている。……ううむ、また息するように怪談するクセをやってしまったか。地味に申し訳ない。
「ったくもう……で? どうするよ、奥さん」
「うーん……とりあえず、開けてみてもよろしいですか? 中を見ないことには何とも」
「了解。もし何かあったらすぐ逃げてくれよ」
慎重に木箱を下ろしたグレンが、縛ってあった組紐のようなものをほどいていく。かぶせる形の蓋を開けると、木の香りとかび臭いのが混ざったような、何とも言い難いにおいがした。
中にぎっしり詰まっているのは、木肌を削った時などに出るおがくずだ。空気を含んでふわふわしていて、まだ新しい。そうっとかき分けていった箱の中ほどに、油紙で厳重に包んだものが収められていた。アレクシアが両手で軽く抱えられる程度で、箱の大きさと全く釣り合っていないのが余計に怪しい。
取り出して机の上に置き、ひっくり返ったりしないように静かに紙を剥がしていくと――
「まあっ、市松さん!!」
「……あ、あれ? かわいいっ」
「おお、東洋人形か? 豪華じゃなぁ」
真っ先にぱあっ、と表情を明るくしたアレクシアを筆頭に、女性陣の拍子抜けしたような声が続いた。
最後に剥ぐった油紙から出てきたのは、振袖をまとった少女の人形――現代日本でいうところの市松人形だった。さらさらした黒髪がきれいに切りそろえられており、丁寧に櫛で梳いていただろうことがわかる。着物は濃紫の地に細やかな刺繍がびっしり施してあり、帯も金糸銀糸で織り上げた豪奢なものだ。本体の方も鈴を張ったようなつぶらな瞳、ほんのり桜色をした頬と唇、ややくすんではいるがアンティークであろうことを考えれば十分良い状態の肌艶と、たいそう愛らしい様子だった。
「あらー可愛い、ほんと可愛い……うふふふ、まさかこっちでも実物に逢えるなんて思いませんでしたわ~」
「こっち……ってことは奥様、ご実家でも扱ったことがおありなんですね! さすがですっ」
「えっ!? え、ええっとその、そうですわね! 数はうんと少なかったですけれどもっ」
ついうっかり口を滑らせて、しっかり聞き取ったメグになぜか褒められてしまって焦りまくる。正確には前世の実家の話なのは言うまでもない。
「……何ともない、か? とりあえずは」
「ええ、問題ありませんわ。むしろ珍しくて可愛いお人形のおかげで、テンションが天元突破する勢いですわね!!」
「突破っておい……」
「これは普通に贈り物ではないか? ちょっと年期は入っておるが、キモノも本体も綺麗なものじゃし」
「だったらいいんだけどよ。一応、隊長と勇者殿に報告しとくか」
「そうですわね、万が一ということもありますし」
普段の豪放さからすると意外なほどだが、確実に報連相を実行してくれるのはありがたい。腕組みして冷静に判断するグレンにうなずいたところで、
(…………んんん??)
現金にもすでに抱っこしている市松人形を見下ろして、ふと気づいたことがあった。しかし、今口にするのはちょっとマズい気がする。
(お人形にだっていろいろあるもんね。あとでセリオン様に相談してみようっと)
デリカシーって大切だし。自分なりにそう判断して、家主の帰還を待つことにしたアレクシアだった。




