アレクシア嬢、古の歌姫を魔改造する。①
――これはもう、だめかもしれない。そう思った。
自分たちのような存在に、そうした『思考』や『感情』が存在することを信じられない、または良しとしない。そういう人々が少なくないことは、何とはなしに知っていた。開発の初期段階からこぞって作られたような、戦うことを目的とした者たちについては、特にそうだ。
(……思案の外、というのだったか。感情が理性を凌駕するのは、ままあること)
厳格な三原則が設けられているし、製造段階で『核』にも叩き込まれているから、滅多なことで人間を傷つけたりはしない。だが、それでも可能性があるというだけで、恐れ忌まれる。なんと理不尽なことか。
(それでも、私は幸いだ。こうして世が移ろっても、変わらず役目を任せてもらえたのだから)
己を創り上げた文明が消え去って、新たに立った国の長は、大層聡明で開明的だった。もはや過去の遺物といって差し支えない自分を重宝してくれた上、王城を守ってほしいという命まで与えて下さった。もしも他の同朋にまみえることが出来たなら、きっととても羨まれるだろう。
自分だって、とても誇らしかった。いつか時の流れの果てに朽ちていくまで、――出来ることなら、この世の終わりまで役目を担っていたかった。けれど、
(……声が、出ない)
あれからどれほどの時が経ったか。人目につかぬように過ごしていたし、実際見つけられない『仕様』にもなっているのに、あれは迷わず狙ってきた。しかも術の媒体である、己の喉だけを的確に潰したのだ。
唄と詩は術の核であるだけでなく、自分の存在全体を支えるものだ。現に満足に唄えなくなってから、思うように動くことが出来ない。誰かに注意喚起をしようにも、元々の機能と今の外見のせいで上手く行かない。……そして今、倒れ込んだまま身を起こすことも出来ない。
(どうしよう。どうすれば――)
「もし! ねえ、貴女どうなさったの!? わたくしの声が聞こえますか!?」
焦燥で灼け付きそうになった思考に、澄んだ声が沁み通ってはっとした。陰ながら多くの声を聴き続けてきたが、こんなに綺麗な響きには出会ったことがない。
横たわったまま視線を動かす。すぐ傍らに声の主がやって来て、こちらを覗き込んでいる。まごうことなく心配して、気遣ってくれている。本当に長らくぶりの、自分に向けられた優しい感情だった。
(……嗚呼。『生きた』まま、天使を見るとは)
己が生身であったなら、きっと涙をこぼしただろう。深手を負った時すら、こんなにも感情が揺れることはなかったのに。
そんな他愛のないことを思いながら、出ない声を振り絞って。傍らの小さな救い主に、どうにか応えを返した。




