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アレクシア嬢、近衛騎士団を見学する。③




 近衛部隊の隊舎は、当然のことながら王城の敷地内にある。二重の城郭の外側、堀に面した場所がそれだ。

 三つある隊のそれぞれに十分な広さが割り当てられており、共通の訓練場もある。日頃から仲間同士で鍛錬に励むものの姿が見られるのだが、今日は少々様子が違っていた。


 (……だいぶ賑わってきたな。近衛第二隊の模擬試合となると、熱気が違う)


 思い思いの得物を手に、意気揚々と集まってくる同僚たちを眺めて、セリオンはそっと息をついた。先ほど借りたばかりの、刃を引いてある模擬剣を持ち直して、柄の感触を確かめてみる。

 その間に数名、目が合った騎士たちが会釈したり、軽く手を振ったりして挨拶してくれた。いずれも親し気な笑顔であり、いたって和やかで友好的な雰囲気だ。今更ながらこそばゆくなる。


 (アレクシア嬢はしきりに気遣ってくれるが、今のところなんの問題もないんだよな……) 


 そうなのだ。いや、何くれとなく気を回してくれるのは大変有り難いし、嬉しくもあるのだが、本当に何の困り事もなかったのである。それはもう、本人も驚くくらい見事に、何っにも。

 もっとも全員に聞き取りをしたわけではないし、心の中まではさすがに分からない。が、少なくとも表立って敵意や悪意を向けられたことは、昇格以降一度もなかった。これもひとえにアレクシアの技術力と、隊長殿の人徳のたまものだろう。強いて困っていることを上げるとするなら――


 「――おーいっ、セリオーン! こんなとこにいたー」

 「なんじゃなんじゃ、浮かない顔しとるのぅ。具合でも悪いか?」


 ぱたぱた、と軽やかな足音に続いて、最近聞き覚えたばかりの声が飛んで来た。向こう側から走ってくるのは、こちらに配属されてからいちばん密にやり取りをしているメンバーだ。同じ班に属する、第二隊の先輩騎士たちである。


 『いや、何でもないよ。模擬試合なんて久しぶりだから、少し緊張しているだけだ』

 「なんだ、そんなことかぁ。元気がないから奥さんとケンカでもしたのかと思った~」

 『っ、は!? 待てハル、何でそうなった!?』

 「えー? だって仲良いんでしょ、ものすごーく。ねっリリベット」

 「うむ、というかみんな言うとるぞ? そりゃあもう、オシドリ夫婦とはこうもあろうかと」

 『嘘だろう……!!』


 ねー、なんて目を見合わせてうなずきあう二人は、共に十代半ばの女性騎士だ。ハルは萌黄色のふわふわした髪に猫を思わせるヘーゼルの瞳、リリベットはもうちょっと小柄でさらりとした明るい金髪につぶらな水色の瞳。雰囲気は全く違うがたいそう仲が良く、どちらも大変に元気が良かった。毎日顔を合わせるたびに元気をもらっている、のだが、


 (この二人は特にそうだが、なんだってこう私の家庭事情に詳しいんだ、皆して……!!!)


 …………どちらかというと目下の困り事(と言っていいレベルかどうかは置いておいて)、隊内でいつの間にか流れている、こういった流言飛語の方の対処だったりするのだから笑えない。いや、思っていたよりははるかにマシだが、ひたすら居たたまれないというか恥ずかしい。こんな話、ウワサの元になっている当人になんて絶対に出来ないじゃないか。



その頃の旦那。新婚さんがからかわれるのってあるあるだと思うんです、はい←

連作短編と言いつつ、何かこのエピソードは思いのほか長くなりそうなので、のんびりお付き合いくださいませ~。

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