アレクシア嬢、近衛騎士団を見学する。②
ローディニアを護る王立騎士団は、大きく二つに分けられる。
ひとつは一般部隊。全体の七割以上を占め、市民からの志願者が大多数だ。職務は所属する市街の見回りや、住民からの相談事の対応といったものから、犯罪者の取り締まり、魔物の退治までと幅広い。
そして今ひとつが近衛部隊。国王麾下の精鋭と名高く、武具の扱いに一際秀でたもの、高度な魔法を操るもの、或いは他に類を見ない術を持ったもの――と、構成員は多種多様。国の内外において王家を直接守護するため、貴族階級の出身者が多いことも特徴だ。
が、双方に例外はある。一般部隊で戦果を上げ、その功績を称えて近衛に籍を賜った騎士は幾人もいる。それと前後しての叙爵や、その身分に相応しい花嫁を迎えた者も。つまり珍しいことではないのだ。
しかしながら、甚大な功績にもかかわらず叙爵を辞退し、呪いのせいで褒美代わりの縁談もなかなかまとまらず、かと思えばその付加要素を気にも留めない令嬢が嫁いで来てくれて、色々な事情込みで近衛部隊への昇進が決定した――つまるところセリオンのようなケースは、わりと前代未聞だったのである。
「……だから、お仕事の様子はどうかしらって気になってますのに、まっっったく教えて下さらないんですの! いえ、軍規に触れるようなことまで話せっていうのではなくて! ただ単に職場の皆さんと仲良く出来てるかなあっていう、ごく普通のお話がしたいだけですのにっ」
「うんうん。だから私のとこまで押しかけてきたんでしょ、アレクシアは」
「その通りですわ!! さすが分かってらっしゃる!!!」
「分かってる、っていうかねぇ。見てたら嫌でも分かる、の方が近いかも」
テーブル越しに身を乗り出してくる相手に、さっきから話を聞かされていた部屋の主は頬をかいた。やれやれ困ったな、と顔に書いてあるようなその様子に、アレクシアは拗ねたように、いや、実際に拗ねて唇を尖らせる。
「そりゃあお仕事中に押しかけたのは、申し訳ないと思っておりますわよ? でも、自分では思いつく限りのお願いしたり宥めたりすかしたりを達成済みですし、お邸の皆さんは執事さんを筆頭に、すでにあれこれサポートしていただいてますし、実家に関してはご存じの通りですし。だからエミーリア様にご相談に参りましたの」
「うん、まあ、貴女のことだから、ほんっとーに万策尽きなきゃ他人を頼ったりしないだろうしね……じゃ、なくて。別に迷惑だなんて言ってないでしょ」
「……え、そうですの?」
「そうですわよ。この前だって、何でも頼ってねって言ったでしょ? ――私が気にしてるのはね、うちの子の一部がまためんどくさいことになりそうだなぁっていう、わりと今そこにある未来予想図なわけで」
「はい??」
何やらぼそぼそ呟いているエミーリアに、二回連続で左右に首を傾げる。そんなアレクシアにぱたぱた手を振って、
「あー、何でもないから。気にしないで。――よし、そういうことなら一肌脱ぎましょう!」
「まあっ、ホントですの!? ありがとうございます!!」
「どういたしまして! あ、その代わりと言っては何だけど、アレクシアもちょっとだけお手伝いしてね」
「はい、それはもちろん! わたくしに出来ることでしたら何なりと!!」
「ありがとう! じゃ、早速行ってみましょうか!!」
さっきまでもごもご言っていたのから一転、景気よく請け負って立ち上がる。なにがどうなったのかイマイチわからないが、引き受けてもらえたのだから細かいことは言いっこなしだ。
ドアを開けたところで待ってくれているエミーリアを追いかけて、アレクシアは元気よくドレスの裾を翻した。




