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アレクシア嬢、勇者とともに登城する。④


 「……ごほん!! 陛下、お話の続きを」

 「ああ、待たせてすまない。本当は王太子にも同席させたかったんだが、まだゴンドアから戻って来れなくてね。顔合わせはまた後日、ということでいいかな」

 『陛下が仰ることに否はございません。――僭越ながら、テンペストの件でしょうか』

 「うん、実はそうなんだ。あちらも西の国境地帯にかなり被害を受けたから」


 そっと訊ねたセリオンに答えて、国王陛下は眉を下げた気遣わしい表情になった。何せこの時期だ、単身で国外に赴いている太子が心配でないはずがない。


 ――ゴンドア王国は、ローディニアの東隣に位置している。規模も歴史も同じくらいで、新興国が攻めてきた時や異常気象に襲われた時など、なにかと助け合って乗り越えてきた良き隣人のような国だった。今回の魔獣大量発生事件は、双方の国境に当たる大森林で起きたため、地続きのゴンドアにも無視できない被害が出ている。そのことについて、今後の補償などの交渉に赴いているのだと思われた。


 (あっちは山や森が多くて、林業とかが盛んなんだっけ。良い木材や薬草がいっぱい採れるから、それを使った魔法道具作りとか錬金術の研究とかも盛んなんだよね……いっぺん行ってみたいな~)

 「……なかなか本題に入れなくて申し訳ない。あちらの件は置いておくとして、今は君たちの話をしようか。セリオン、怪我と呪いの影響はもう良いのかい?」

 『はい。怪我については良き協力者を得まして、全て治療済みです。呪いは、現状では今以上打つ手がない、というのが正直なところでして……やや改善した経緯は、先日の書状で申し上げた通りです』

 「ああ、とても興味深い内容だった。その制服を模した装備、と言っていいのかな? 良く似合っているし素晴らしい出来栄えだ、それも同じ方が作製を?」

 『はい。――、アレクシア。こちらへ』


 振り返って名前を呼ぶとき、セリオンの口元が一瞬強張ったのは、絶対アレクシアの気のせいではない。うん、やっぱりそうなりますよね。


 (……まあ、嬢って付けるのだけは改善できたから、ぎりぎり合格ってことで!)


 本来なら付ける必要はないのだが、生真面目な勇者は結婚してから初めて会ったアレクシアを律儀にもそう呼んでいる。でもいざ陛下の御前で呼ぶときに、普段のクセが出てしまうのはちょっと、いやかなりマズいだろう。陛下の方は気にしないだろうが、やらかしたセリオンがへこみまくるのが容易に想像できる。


 そんなわけで登城までの少ない時間で、とっさに呼び捨て出来るように、またしたとしても照れが顔に出ないように、皆さんの協力の下で猛特訓した勇者殿なのだった。結果が出せて良かった良かった。


 「お初にお目にかかります、アレクシアと申します。国王陛下におかれましてはご機嫌麗しゅう」

 「初めまして、お会いできて光栄です。書状の文面で散々聞かされていたが、こうして功績と功労者を目の当たりに出来るとは」

 「いえもう、お恥ずかしゅうございます。夫がどうにか社会復帰できるようにと必死でございましたので……わたくしの技術がこうしてお役に立って、本当によろしゅうございました」


 もちろん緊張はしているが、褒められたのは素直に嬉しい。出来るだけ控えめににこにこしつつ、丁寧にお辞儀をした、のだが、


 しゅううううう……


 「……ん? セリオン、何か湯気が出ていないか??」

 『もっ、申し訳ございません!! 未だにその、そういう呼称に慣れておらず……!!!』

 (ああああ、やっぱりこうなったー!!!)


 やっぱり付け焼刃じゃ無理だった!! と頭を抱えたくなったアレクシア、およびきょとんとしている陛下の視線の先では、真っ赤になって謝るセリオンのマントが勢いよくたなびいていた。輿入れ当日にも見た、照れるあまりに噴出する蒸気によるアレである。夫って呼ばれただけなのに!?


 さすがに余所行きの顔が続かず、遠い目をして視線を逸らしたところ、同じような顔をしていた宰相殿と視線がかち合った。すみませんうちの旦那様が、というつもりでちょっと頭を下げたところ、『うちも似たようなものです、お気になさらず』とありありと表情に出して頷かれる。うん、想像通り苦労してらっしゃるらしい。



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