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アレクシア嬢、勇者とともに登城する。①




 伝説と神話に護られた古き国、ローディニア。その中枢に位置する王城は、朝からざわついていた。理由はいたって明白だ。


 「……なぁ、今日来るんだよな。勇者殿」

 「うん、午前中の早いうちにってことだったぞ」


 城は王都の北側、堀に囲まれた城郭の中にある。その一階部分、正面エントランスに入る大扉の前で、左右に並んだ兵士がこっそり話していた。二人ともそろって元気がないというか、どうにも不安そうな表情だ。


 ――先の魔獣大量発生、今はテンペストと名付けられているが、とにかくその際に一騎当千の働きをしたという若き騎士。まさに英雄、勇者と呼ばれるに相応しいといえよう。


 その後ひと月あまりを経た先日、かの勇者が登城するとの知らせが舞い込んできた。いわゆる凱旋報告であり、本来なら関係者全員で歓迎すべきこと、なのだが。


 「挨拶に来れるんなら、呪いもちょっと落ち着いたってことかな……」

 「オレ、虫ダメなんだよなぁ……特に這うやつ……」

 「まだ呪いがそれ系って決まってないだろ。ていうか、絶対顔に出すなよ?」

 「わかってるって。もし自分がやられたら泣く自信あるし」

 「泣くのかよ……まあ気持ちはわかるけど」


 何せ花嫁候補があまりの恐怖にそろって寝込んだとか、夜ごと邸からすさまじい咆哮が聞こえるとか、すでにして人の心と姿を忘れ去っているとか、恐ろしい話しか聞かないのだ。自分たちは城と王族を守るのが仕事だから、逃げるわけにもいかない。所属は違っても元は騎士団の同僚で、年齢的には多分同期だ、出来るだけ平常心で乗り切らなければ。大丈夫、怖くない怖くない。


 そろって死地に赴くような覚悟を決めたとき、低い地響きのようなものが聞こえた。一番近い城門が開く音だ。そちらに視線を向けると、軋みながら開門した向こう側から、鹿毛の馬が四頭立てで引く馬車がやって来るのが見えた。華美ではないが品のある設えで、扉に紋章が入っている。個人、それも相応の家筋が所有するものである証だ。


 元気に走ってきた馬が、御者の指示に従って行儀よく止まった。操り手の青年はすぐに御者台から飛び降りて、踏み台をドアの前に持っていく。なんだかとても楽しそうだ。


 「ご主人、奥方様、着いたっすよ! ドア開けますっ」

 『ああ、ありがとう。――ごほん。お手をどうぞ、アレクシア』

 「ふふふふ。ありがとうございます、セリオン様! ロイさんも」

 「いえいえ! そんじゃオレ、馬車留めまで移動してますね~」

 「よろしくお願いいたしますねー。あっ、おはようございます! 本日謁見を賜ります者なのですけれど」

 「……ふぁっ!? あっはい、おおおおおはようございます!!」

 「ええええ謁見の間までは侍従がご案内いたします、どうぞ!!」

 「まあ、ありがとうございます。お仕事頑張ってくださいませね」

 『お手数をおかけします。お勤めご苦労様です』

 「「恐縮ですッ!!!」」


 いたって和やかな主従、およびご夫婦の会話から、流れるように確認とねぎらいの言葉をかけられた兵士たちの声がひっくり返る。見事にハモった返事とともに敬礼した二人に、軽く一礼したお客人たちは廊下を先導されて遠ざかって行った。寄り添う後ろ姿が仲睦まじくて、大変うらやましい……じゃ、なくて。


 「…………勇者殿、だよな……?」

 「うん、名前がそうだったな……」

 「……こわくない、よな……?」

 「うん、よかったな……」

 「…………奥さん、めちゃくちゃかわいかったな」

 「うん、ホントそれ」


 思ってたのとだいぶ違った、という衝撃にプラス、思ってもみなかった新事実に動揺を隠せない兵士コンビであった。






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