アレクシア嬢、勇者を治療+αする。⑦
「う~~~~~~~ん」
「……あのう、奥様? どうかしましたか、そんなにうなって」
「あ。ごめんなさい、つい」
横からそうっと呼びかけた侍女の声に、ようやく我に返ったアレクシアはすぐあやまった。どうやら無意識に口に出ていたらしい。
輿入れからずっと使っている、三階の明るくて広い居室での会話である。ここに来てはや半月ばかり、実家ではあり得なかった快適すぎる空間にもだいぶ慣れてきた、と思う。……ただ、問題はそこではなくて、
「ねえメグさん、セリオン様はどうなさってます?」
「旦那様ですか? 今日はですね、お城に書状を送るご準備をなさってますよ。お怪我が治ったののご報告と、いつ頃ご挨拶に伺います、ってご連絡をするとかで」
「……お元気そうでいらした? なんだか眠そうとか辛そうとか、そういうことは」
「いいえ、全然! 朝も私が行く前にきちんと起きておられました! 奥様のおかげですねっ」
元気よくふるふる、と首を振ってお下げ髪を揺らし、メグは嬉しそうに笑って見せた。最初から親切だった彼女だが、実は同じ十七歳だと分かって以降はますます懐いた感がある。ちょっと照れくさい。
(……ってことは、最初にぶっ飛ばしてからは出てないんだ。あのもやんとしたの)
怒りと勢いに任せてぶん殴り、廊下の窓がえらいことになってしまった、あの黒っぽい謎の物体。治療を続けながらそれとなく様子をうかがったり、ときにはセリオン本人に直球で聞いてみたりもしたが、今のところ出現した形跡はなかった。
(でも油断しない方がいい、よね。ちょっとハンマーでドつかれたくらいであきらめるなら、そもそもちょっかいかけてこないはずだし)
いやちょっとではなかろう、と、この場にいない勇者が聞いたらツッコミを入れそうなことを考えて腕を組む。まあそれについては、何かしら動きがあればわかるだろう。今一番、個人的に気になっていることは――
「……メグさん、正直な意見を聞かせてくれる? 今のセリオン様、何か物足りなくありません?」
どこかの最高司令官のごとく、テーブルに肘をついて両手を組んだポーズで重々しく訊いてみる。するとメグはきょとんと首を傾げる、かと思いきや、
「……!! 思います、すっごく思います!! あの、とってもキレイになったんですけど、なんていうかこう、地味だなって気がしてて!!!」
「分かっていただけまして!? そうなんですのよ、今はいわば基礎状態!! 何かしら仕上げというか装丁というか、とにかくあの方らしい個性を持たせないことには完成とは言いがたいですわ!!!」
ものすごい勢いで同意が返ってきた。我が意を得たりと力説するアレクシアに、ほっぺたを赤くしてぶんぶんうなずいてくれる。ありがたや。
前世で大好きだった某シリーズでは、ロボットたちの製作途中の姿――まだ表装がついていない、機械部分だけの状態が登場する話があった。今のセリオンはまさにあれだ。
もちろん今のままでもカッコいいのだが、強いていうなら色気がない。というか、色味と個性が足りない。ここまで来たら最後までこだわって仕上げたいのが限界オタク、もといメカ愛づる姫君ってものだろう。
(表装つけたい、表装! 赤とか白とか黄色とか……あ、目の色的には青系が似合いそうだなぁ)
挨拶に行くとは、すなわち国王陛下に謁見するわけで、そうなればいろんな人に姿を見せることになる。つまりは誰にも会いたくないと引きこもっていた時に比べて、かなり前向きに考えられるようになってきた証拠だ。
ここは生還報告にプラス、復帰祝いも兼ねてうんと男前にしてあげたい。姿形は変わったけど、こんなに格好良いなら無問題、と思ってもらえるくらいには。
「資材はまだまだ余裕がありますから、まずはデザインを決めなくては! メグさん、セリオン様が今までよく着ていらした服とか、可能なら前のお姿を描いた絵とか、そういったものはありまして!?」
「もちろんありますよ! 執事さんとマリエッタさんに確認してきますね!!」
言うが早いか廊下に飛び出し、元気のいい足音があっという間に遠ざかる。あまりばたばたするとベテラン侍女にして上司でもあるマリエッタに叱られるのだが、今はすっかり頭から吹き飛んでいるようだ。それだけ夢中になってくれているということだろうか。
(心強い味方が出来たかも……よし、後はいろいろ決めるだけ! 待ってて下さい勇者様!!)
『…………ん? 今、アレクシア嬢の声がしたような』
なおこの後、味方は当のセリオン以外の全員となり、四の五の言わせず追加作業に連行される家主の姿が目撃されることとなる。
第二話終了です。無事に怪我が治ってめでたしめでたし、とはならないのがうちの子クオリティです。もうちょっと付き合ってあげてくれ旦那(笑)作者が好きだったのだと、カラーリングはそうでもないんですが、性格というかキャラクターがほぼ一貫してました。そして恐ろしいことに、今でもほぼ変わりません。三つ子の魂百までとはよく言ったもんです、はい……




