アレクシア嬢、勇者を治療+αする。⑤
……とまあ、少しばかり名誉挽回できたかに見えた勇者、だったのだが。
「セリオン様ー、そろそろよろしいですかー」
『い、いや、もう少し』
「もーっ、わたくし一度診てますでしょう!? ここに来て肌をさらすのが恥ずかしい、ってどーいうことですの!!」
『うう、申し訳ない……何というかこう、改めて見せるとなると抵抗が……!』
あきれた風情のアレクシアに言い訳しながら、セリオンは簡易寝台の上ですすす、と後ずさりして距離を取ろうとする。すでに真っ赤になった顔の左側面は綺麗に傷が癒えていて、それがよく見えるのは嬉しい。
――一気に治療を進めると、セリオンの身体に負担がかかるかもしれない。そこで、初日は頭部を含めた細かい傷を治し終えたところでいったん終了。次の日はまるごと様子見と休憩に当て、問題なしと判断して治療を続行する運びとなった。ここからは大きな傷に取りかかるため、一カ所に半日から一日はかかる計算だ。
ここまでは本当に、いたって順調に予定を消化していたのである。……当の勇者の恥ずかしがりがぶり返したせいで、ちょっとだけ手間を取られているが。
「わかりました、二者択一で参りましょう。上と下、見られてマシなのはどちらですの? ちなみに拒否権はナシです」
『う、…………その、脚から頼む……』
「はいオッケー! お願いいたしますわロイさん!!」
「了解っす姐さん!! すいませんねご主人~」
『ああああああ』
呼ばれてすっ飛んできた侍従が元気よく羽交い締めにする。さらに赤くなって意味不明なうめきを漏らしているが、無理矢理振り払ったりしないのがセリオンのえらいところだ。時間を稼いでもらっている間に、さっさとローブをたくし上げて怪我を確認する。
(……それにしても、何度見てもひどいな、これ)
表には絶対に出さないが、心の中で顔をしかめるアレクシアだ。
セリオンの怪我のうち、深手だったのは三カ所。肩と腹部、そして大腿部だ。いま目の前にさらされているのは大腿部――右脚の付け根に近い部分だが、上側の装甲が大変なことになっていた。
クレーター状に陥没した傷を中心に亀裂が走り、不用意に触るとぼろぼろと剥がれ落ちそうだ。傷口から垣間見える、おそらく血管や神経に当たるであろう配線も、いくつかが千切れそうになっていた。
これが普段持ち込まれるような人形たちなら、イチからパーツを作り直して交換した方が早いレベルの損傷だ。しかし仮にも生物であるセリオンに、そんな大手術を麻酔ナシでやるわけにはいかない。そこで、
「事前にご説明したとおり、まずは傷の内側を治します。使うのはこちらですわ」
「おー、キレイっすね! 銀糸? でいいんですか、これ」
「うふふ、惜しいです。ミスリルの繊維ですの、魔力の伝導率が非常に高いことで知られていますわね」
『……なるほど、だから血管や神経の代わりになり得るのか』
「ご名答ですわ! ただですね、いくら感覚が鈍くなっていても、少し痛いかもしれません。身体の内側をいじるわけですから」
『分かっている。貴女に手間をかけないように善処しよう』
辛かったら無理しないで、と言外に伝えてみると、セリオンは緊張した様子ながらしっかりとうなずいてくれた。
マシンの修理をこういう世界観に落とし込んでいくの、思ってた以上に楽しいな! とウキウキの作者です。そのうち他のものも修理させたいなぁ。




