アレクシア嬢、勇者を治療+αする。④
どうやって、ではなく、なぜ。ということは、動機を聞かれているのだ。
(……前世がどうこうなんて話、大っぴらにしていいもんなのかな)
世界観的に、そういう観念もあり得なくはない。が、もしそうでなかった場合、迷惑をかけてしまうだろう。ただでさえ苦労している人だ、余計な心配はさせたくない。でも出来るだけ嘘もつきたくない。
あれこれ考えた末、今度は反対側の手を取りながら、おもむろに口火を切った。
「――わたくし、小さい頃は身体が弱くて。熱を出して寝込むなんてしょっちゅうでしたから、外遊びなんて夢のまた夢でしたの。そんなときに触れたお話が大好きで」
『お話?』
「ええ。セリオン様のように、勇敢で心優しい方がたくさん出てこられましたわ」
……正確には『今の』幼少期ではないが、内容は事実なので勘弁してもらいたい。とにかく繊維を巻き、それをヘラから出る光線で定着させながら、話を続けていく。
「強くて優しくて、弱い人たちを命がけで護って下さって、家族とも仲間とも強い絆で結ばれていて……とっても憧れたし、羨ましかったし、いつかわたくしもこうなりたいと思いました。
だから出来ることから頑張ろうと、ものを作ったり修理したりする技術を学んだんです」
これも本当だ。作ったものを褒められたとき、修理して喜んでもらえたときはうれしかったし、自分にも出来ることがあるんだなぁと幸せな気持ちになった。
そして、そうやって身につけたものは、生まれ変わった後も有効だったわけだ。芸は身を助く、という格言を身をもって知ったアレクシアである。
「まあ憧れの皆様に比べれば、ごくごく些細なことではあるのですけれどね! 今思い出してもとにかく素敵でしたから!!」
『……そんなことはないだろう』
明るく締めくくったつもりの言葉に、静かな声が続いた。視線を上げると、今仕上がったばかりの手を開いたり閉じたりして確認するセリオンがいる。琥珀に似た色合いの瞳で、まっすぐにこちらを見て、
『前線で敵を倒すことだけが戦ではない。相手の攻撃から味方を護ること、怪我をした者を癒やすこと、出来るだけ犠牲者が出ないように策を献ずること。そもそも戦自体が起きぬように知恵を絞ること……
表には出なくとも、陰から支えてくれる者が多くいる。彼らがいてくれるからこそ、全力で戦える』
いつも考えていることなのかもしれない。今までになく饒舌にそう言い切って、勇者は左手を胸に当てて背筋を伸ばした。これが騎士の礼なのだ。
『アレクシア嬢。貴女は勇敢で、聡明で、とても強い人だ。貴女には貴女の戦い方がある、自分の知恵と能力に誇りを持ってほしい。――少なくとも私は、貴女の言葉に救われた。ありがとう』
(ひ、ひええええええ!?)
……正直に言おう。真正面から褒められるってめちゃくちゃ照れくさい!
腰掛けた状態だし、至近距離で向かい合っているので物理的に不可能だったが、出来るなら確実に跪いていそうな雰囲気である。いや、この人だったら確実にそうする。突然の騎士モードは勘弁して下さい、心臓に悪いです!!!
「…………そっ、そう言っていただけてありがたいですわ! さ、次に参りましょう!! 今度は左側頭部のお怪我です!!!」
『ああ、よろしく頼む。名匠』
「まっ!? セリオン様、結構冗談とか仰るの!?」
『ん? 本当のことだろう?』
(実は天然ボケかこの人ー!?! しかも完璧騎士ムーブとの併せ技って!! タチ悪いなこんちくしょう!!!)
こないだまでの照れ屋さんはどこやった!? と、首を傾げるセリオンに内心八つ当たりしまくる本日の匠だった。
恋愛モノだからお砂糖を……しばらく紅茶もコーヒーも無糖でいいや、ってなるくらいにはお砂糖を……!! と、わりと必死に念じて書いています。日々修業です。『呪われ~』は当社比でちょっとは甘くなってるかな……??




