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ヤンキーな魔女  作者: 伊川有子
スピンオフ・レヴィナ編
61/66

4話・立ち聞き

夜会の翌日、当然のように噂はそこかしこで囁かれていた。

しかし思ったよりも冷静に2人の関係について語られていたのは、レヴィナが怪我をしていたことも同時に知れ渡ったからだろうか。想像していたような背びれ尾びれはなく、せいぜい胸びれに毛が生えたようなものだ。


結果として一番興奮していたのは噂好きの侍女たちではなく、レヴィナの騎士であるリズだった。レヴィナが怪我をしてしまったことで、ドローシャに帰ったらレオナードに何を言われることか。リズは想像しただけで冷や汗が止まらない。


とにもかくにも、もっと慌てふためく皆の姿が見たかったレヴィナには少々物足りないものに。


そして散々探し回っているハンバーガル卿も未だに見つかっていない。この案件が終わらないことにはドローシャに帰ることもできず、レヴィナは足止めを食らってオーティスに滞在する他なかった。

できるだけ早く終わらせたいがそう思い詰めても無駄なものは無駄。せっかくオーティスにいるのだから新しい貴金属を新調してもいい。


レヴィナは城下へ降りる許可をもらうため必要な書類を揃え、リズを伴ってヒューバートの居るであろう執務室へと向かった。


ところが部屋の中から聞こえてきた会話に、レヴィナの足はピタリと動くのを止めてしまう。


「やっぱりな、余はおかしいと思っていたのだ。あのレヴィナに男と恋愛などできるはずがない。その上お前が相手など・・・」


「ちょっとヒュー、それじゃあレヴィナにもザックさんにも失礼だよ」


ヒューバートとモモの声。しかも会話の内容はレヴィナについてだ。


リズはぎょっとしてレヴィナの背後で身体をガチガチに固める。本人がこの話を聞いているとは思っていないヒューバートたちに、そして立ち聞きしているレヴィナに気まずさ満載だ。

リズは動かないままのレヴィナを心配したが、彼女の顔を後ろから覗き込んでみれば眉ひとつ動かさない無表情。


「だが怪我をしたレヴィナを部屋まで抱き抱えるとはなかなか男前なことをしたな。

レヴィナがそれを嫌がらなかったのは驚きだが」


「ザックさんはレヴィナには甘いからね。レヴィナもザックさんはどちらかというと“中間”的な扱いだし」


「モモ様、あたし男なんだからね、これでも」


ザックの声が続いた。中間とはもちろん男女の間という意味。やんわりと否定するザックも中間的扱いをされている自覚があるのであまり強く言えない。


「もしレヴィナに春が来るとしたら相手は相当の変わり者だな。例えレヴィナが妥協しても相手はなかなか現れないだろう。超えるべき壁が高すぎる・・・」


「なーに言ってんのよ、あの子はモテるわよ」


「そうだよ、レヴィナは可愛いよ」


「見た目はな。だが、性格的な問題がだな」


リズは心の中で大きな悲鳴を上げた。このような悪口とも言える会話、レヴィナとて聞きたくないはずだ。

しかし主人が間に入って会話を止めない以上、騎士として出しゃばって先に入室することもできない。ただ固唾を飲んで「お願いだからレヴィナ様の話題はやめて」と願うしかなかった。


「あの我が儘は相当曲者だろう。ドローシャの王女としては許されても、嫁ぎ先で上手くやっていけるとは思えん。

そしていつも落ち着き払った態度とあの可愛げの無さが痛い」


「あのくらいの我が儘なんて大したことないじゃない。性格も可愛いわよ、レヴィナは」


ヒューバートとモモの視線がザックに突き刺さる。

末娘として散々周囲の大人に甘やかされて育ってきたレヴィナの我が儘は、大したことないというレベルではないからだ。あまりにも振り回されて長続きする騎士は少なく、辞めていく侍女は多い。仕事であれど男に対する扱いはぞんざいでどれだけ困らされてきたことか。


「大したことないだと?お前の目は節穴か。モモとてフォローできずに黙ってたんだぞ」


「わかってないわねえ陛下。レヴィナは賢くはなくても馬鹿じゃない。我が儘は人を見てちゃんと選んでるのよ。誰がどこまで許すか、試してるだけじゃない。

振り回して優位に立たないと相手に舐められるだけだし、王女という立場じゃ他人との線引きも大変なのよ」


これ以上にない素晴らしいフォローに、リズは声に出さず感嘆のため息を漏らした。いい感じだ。この調子で悪口もどきから遠ざかって欲しい。


しかしそう言われたところでヒューバートやモモには理解できず。

納得できないヒューバートは眉をひそめて不満げな顔をした。


「そこまで言うならお前が嫁にもらってやればいいだろう」


「有り得ないわね。毒女が義母になるなんてあたしには絶対に無理」


「あー・・・、確かにそれは別問題だな」


「ちょっと!恵里ちゃんはそんな意地悪じゃないよ!」


「モモには甘いからな、あの人」


リズは早鐘のように響く心臓を押さえ、震える体で恐る恐るレヴィナの様子を確認した。やはり表情に変化はないが、止まっていた足は急に動き始める。


バタン!


勢いよく扉が開き現れたレヴィナに、一同は一瞬にして硬直した。まさか聞かれた!?と手に汗を握る3人に、レヴィナは可憐ににっこりと微笑む。


怒ってない、とホッとしたのも束の間。




――――――バサッ!!




レヴィナは手にしていた書類の束をザックに叩きつけた。




ひらひらと足元で書類が舞う。


「え!?ちょっとレヴィナ様!?待ってください!」


そしてあっという間にレヴィナは部屋から去っていってしまった。


あまりにも一瞬の衝撃にザックは一言も出せず固まったまま。ヒューバートとモモも何が起こったのか思考が追いつかず目を点にしたままだ。


3人の中で一番先に我に帰ったのはモモ。彼女は目を見開くと慌ててレヴィナとリズを追いかけるため部屋を飛び出していった。


残された男2人は顔を見合わせる。


「あれは・・・怒らせたな」


「・・・かも。でもなんであたし?」


怒りの矛先はどちらかといえば何かと悪口を言っていたヒューバートに向かいそうなものを。しかもレヴィナは我が儘だの可愛くないだの言われて怒るような人でもない。


ところが、何故か書類で叩かれたのはザックだった。


レヴィナの一連の行動に理解はできない。が、嫌な予感がする。


「とりあえず追いかけましょうか」


「そうだな、不快な思いをさせたなら謝ろう」


ヒューバートとザックは立ち上がり、モモに続いて執務室を後にした。
















ゼエゼエと肩で息をするリズがレヴィナにやっと追いついたのは、廊下の曲がり角にある開けたバルコニーだった。窓は完全に解放されていて、景色が良く風も心地いい。


「れ、レヴィナ様、ヒールなのに足速い・・・」


「鍛錬が足りないわね、リズ」


「ま、待って・・・!・・・・っ」


続いてゼエゼエと荒い息で追いかけてきたモモは、ヘトヘトな様子で腰を曲げ膝に手をつく。


「あら、モモ姉さん大丈夫?」


「うん・・・・」


モモはすーはーと深呼吸して乱れた息を整えた。なんとか会話ができる程度に落ち着くと、頭を上げてレヴィナの顔を見つめる。


「あ、あのね、これは私の勘なんだけどね、本当に大したことのない私の勘で申し訳ないんだけど、でもそんな気がしてね」


まさか、とは思う。しかしどうしても口にせずにはいられなかった。

レヴィナは特に表情を変えることなくモモの次の言葉を待つ。


「もしかして、昔好きだったちょっと嫌な人って、もしかしてザックさんのことじゃない?」


おずおずと遠慮がちに小声で言う。

彼女には思い当たる節がいくつかあった。レヴィナがオーティスへ留学してきた頃、まだ若くて右も左もわからない彼女の面倒を見ていたのはザックだったからだ。


うっそ!と白目むく勢いで驚くのはリズ。


レヴィナは表情を変えず静かに視線をモモから景色へと移す。口を閉じたまま何も反論しないところをみると、図星だったのだだろう。


何も言わず動かずになってしまったレヴィナに、心配になったモモは恐る恐る前へ出る。


「レヴィナ?・・・大丈夫?」


モモとリズはそれ以上どう声をかけてよいかわからず黙り込む。

痛々しく重く苦しい静寂に、レヴィナは溜め息を吐いて二人に背を向けた。


「別に・・・。これで二度目だもの」


二人は揃って小首を傾げる。何が二度目なのだろうか、と。


レヴィナはそんな二人を一瞥すると、今来た道の角に隠れている人影に気づき、再びリズを置いてさっさと奥の方へ消えていってしまった。


















ザックとヒューバートは部屋から出て廊下を歩いていると、レヴィナたちに追いつく前に声が漏れ聞こえてきた。すぐにでもレヴィナに声をかけようとしたが、聞こえてきた会話に思わず足が止まる。


「もしかして、昔好きだったちょっと嫌な人って、ザックさんのことじゃない?」


ザックは出るに出られない。いや、出られるものか。モモの言葉があまりにも衝撃的すぎて、声ひとつ出すことすらできなかった。


ザックのヒューバートは両手で頭を抱えた。

レヴィナが怒るのも当然だ。ザックはレヴィナとの結婚を「有り得ない」などときつい言い方で一蹴したのだから。例えそれが本音だとしても―――心の中でどう思うかは自由だとしても―――本人の耳に入れていいはずがない。


「うっそ!」


少しの沈黙の後、リズの悲鳴のような叫び声が廊下に響き渡る。


普段のザックならば今すぐに謝るべきだことだとわかったはずだ。

しかし今は手足が痺れているかのように感覚がなく、頭の中は真っ白だった。


レヴィナがいなくなっても動かないザックに、ヒューバートはチラチラと視線を寄越してくる。


ああ、だめだ。本当に頭が回らない。

ザックは抱えていた頭を振って壁に打ち付ける。


ゴツン!


「お、おい。大丈夫か」


「ねえ陛下。私さっきとんでもないことを言ったんじゃないかしら・・・」


あの時レヴィナは無表情のように見えた。けれどもその瞳に灯った光は、悲痛そうに輝いて見えたのだ。

だから嫌な予感がしたのだろう。


「とりあえず謝ったらいいんじゃないか?」


ザックは壁にもたれていた頭を離し、拳を握る。


正直レヴィナを恋愛対象として考えたことはない。年下ということもあり可愛くて可愛くて、甘えさせてやりたい、守ってやりたいと思っていただけ。これからもどうこうなりたいという願望はなかった。


しかしもし自分が彼女に辛い思いをさせたとしたら、悲しませたとしたら。

傷つけたのが他の男だったならば、すぐにでも剣を抜いて飛びかかっているというのに。


「モモ様!大変!レヴィナ様いなくなっちゃった!」


バタバタと足音と共に聞こえてきたリズの声でザックは我に返った。


「探してくる」


ヒューバートにそう言い残すと、ザックは唇を引き結んで歩き出した。




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