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ヤンキーな魔女  作者: 伊川有子
番外編
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番外編・浮気騒動その2



レオナードと喧嘩することは稀にある。

原因は些細な勘違いだったり嫉妬だったりと、大体アタシが悪いんだけど・・・。


今回ばっかりは―――――アタシ悪くねぇから!!

















ちっこいランスはもう4歳になる。

赤ん坊の時もレオナード似だなぁとは思ってたけど、歳を重ねるにつれてさらにレオナードの面影を増した気がする。

茶色でサラサラの髪、クリクリした可愛らしい目に青の瞳。子どもらしいプニプニの頬と小さな手足。


もちろん完璧なそっくりさんじゃないけれど血の繋がりをしっかりと感じる我が子を、アタシはできる限りの愛情を注いで育てていた。


しつけに、勉強にと、この子もドローシャの王子としてちゃんとがんばってくれて。


躾に厳しいレオナードの言うことはよく聞くんだけど、アタシの言うことは素直に聞いてくれない。どちらかというとアタシは遊び相手のように思っているらしい。まあ、アタシ放任主義だからね。

まだ4歳なんだから、勉強より遊ばせた方がいいと思ってる。


ランスは外で遊ぶのが大好きで、脱走しては大人を困らせるヤンチャな子だ。

しかも頭がいいらしく、結構痛いところをズバッと突いてくるときもある。そういうところは憎たらしいほどに嫌味なガキである。


それでも可愛いものは可愛い。

だって最愛のわが子。


だから、アタシは悪くなかったんだってば。




「ママー、投げて!」


「行くぞー!おりゃ!」


抱えてソファに投げてやればキャッキャッと嬉しそうにはしゃぐランス。


久しぶりに時間が取れて、今はレオナードの部屋で親子3人水入らずの時間だ。

レオナードは紅茶を飲みながら静かにランスを見守っている。

アタシはしばらくランスの遊びに付き合わされ、疲れて来たのでソファに座るとランスが膝の上によじ登って来た。

後ろからぎゅうーっと抱きしめれば、さらにキャッキャと喜ぶ。


普段あまり甘やかせてやれないから、今日くらい好きなだけ一緒に居てやろう。


「ママ、ママ!」


「うん?」


「大好きー!」


ああ、クソ可愛い・・・!!

親バカと言われてもいい!!

とにかく可愛い!!


「アタシも好きだぞー!」


後ろからランスの髪をわしわしと乱暴に撫でると、「止めてよー」と言いながらも嬉しそうに身体を捻る。


「ママ」


「なんだ?」


呼ばれて顔を覗きこめば、ランスはキラキラした笑顔で振り返った。


「大きくなったらママと結婚する!」


そしてほっぺたにちゅっと可愛らしいキスをして来て。

アタシは思わず大口を開けて笑った。


「あはは!そうか!ママ嬉しいよ!」


「結婚してくれるよね?ね?」


「大きくなったらね~」


そんな定番でお決まりの親子の会話。


しかし。


――――――――ガッシャーン!!

と大きな音がして、アタシは即座にランスを守るよう抱き抱え音がした方を見れば。


そこにはワナワナと手を震わせているレオナードが居た。


「レオナード?どうしたんだ?」


レオナードの足元には割れたカップと、カーペットにじわじわ広がる紅茶のシミ。

心なしか顔色が悪いように見えて、アタシは心配になってレオナードに近づいた。


「大丈夫か?」


「ヴィラ」


「ん?」


やっと口を開いたかと思えば低い声。

そして彼は信じられないことを口にした。


「浮気するとは・・・いい度胸だな」


は・・・・?


浮気?


はあああああああああああ!?


「浮気って今のが!?ランスとの会話のことを言ってんのか!?」


眉間に盛大な皺を寄せたレオナードは超不機嫌顔で。


「他の男と結婚の約束をしたじゃないか」


「はああああああああああああ!!?」


久しぶりにアタシの大絶叫が城に響いた。


















何かの冗談かと思ったけれど、冗談でもなんでもなくマジらしかった。

その証拠にレオナードはずっと拗ねたままで口利いてくれないのだから。


「ってか子どもと結婚の約束して浮気!?

どんだけ心狭いんだよ!!」


アホかぁ!!


「まあまあ、そう責めないでやってくださいって」


怒りまくるアタシを宥めようとするのはアルフレッド。

夫婦喧嘩が起こるたびに彼にはお世話になっている。


「でも、本当に子供と結婚する親っていることにはいるんですよ。

孫と祖父母とかでも探したら居ますし」


「・・・マジで?」


親子で夫婦?母親と息子、父親と娘ってか!?

それって近親なんちゃらってやつか!?


「マジです。

ほら、魔女さんの世界と違って、ここは寿命長いし老いがないですから」


なるほど・・・。

確か結婚の法律も厳格じゃなかったから、血の繋がりに対する制約はないんだろう。

遺伝子がどうのこうのって話しも、こっちの人たちが知ってるはずがないし。


「でもなぁ、ランス4歳だぞ?」


聞き流せよ、それくらい!

アルフレッドもそれ以上フォローできないのか、あはははと苦笑いで誤魔化していた。


とにかく浮気かどうかは置いてといて、問題はレオナードの機嫌が悪いということだ。

どうやって彼の怒りを解くべきか。

アタシはうんうん唸りながら悩む。


「ランスに訂正させるわけにはいかねぇしなぁ」


ランスに悪気はこれっぽっちもなかったのだから。

自分の一言で両親の夫婦喧嘩が始まったなんて、心の傷にならなきゃいいけど・・・。


はあ、と大きなため息を吐くと、「御苦労さまです、魔女さん」とアルフレッドは憐みの視線でアタシを見た。



















「レオナードー!!!」


意を決して部屋に飛び込めば、ソファですやすやと眠っているランスを見つけて、慌てて口を噤んだ。


一方、肝心な本人はやはり不機嫌な様子で本を読んでいた。

ランス・・・よくこの状態のレオナードと同じ部屋で眠れるな。侍女たちだったら真っ青になって部屋飛び出すのに。


我が子の図太さに感心しつつ呆れていると、レオナードと少し視線が交わって、しかしすぐに逸らされてしまった。一瞬で逸らされてしまった。


絶賛お怒り中である。


「レオナード、いい加減機嫌直せよ」


「・・・・」


「ランスはレオナードの子じゃんか」


「・・・・」


彼の無言に負けじと、アタシも必死で説得を続ける。


「まだ4歳になったばかりだぞ?」


「・・・・」


「レオナードにだってあっただろ?

お母さんと結婚するーってやつ」


「ない」


清々しいほどに綺麗さっぱりと否定したレオナード。

アタシは困り果てて、座ったレオナードの前に立ち肩に手を置いた。


「機嫌直してよ、アタシは本当にランスと結婚するつもりなんて微塵もないんだから。

アタシの夫はレオナードだけ」


頬を撫でてキスすると、やっとレオナードは視線を合わせてくれる。


「レオナードだったら断れるわけ?」


「何がだ」


「もしアタシそっくりの娘が生まれたら」


うっ、とレオナードの眉間に皺ができる。


「もし、その子にパパと結婚するーって言われたら」


レオナードの視線が少し泳ぐ。


「その時、レオナードは断るわけ?」


「無理だ」


即答だった。


アタシはほっとして肩の力を抜き、溜息を吐いて苦笑する。


「ね?

ランスはまだ4歳、子供だ。まだ自我が出てきたばっかりのね。

これくらいの歳は父親と母親が大好きで全て。

だからずっと一緒に居たいって言う意味で、簡単に“結婚する”って言うんだ」


わかる?というとレオナードは無言でアタシを抱き寄せた。


「ランスが大きくなれば、それはただの思い出話。

覚えてもいないかもしれない。

だから今のうちだけ、甘えることくらい許してやってよ」


「・・・・わかった」


その一言に安堵のあまり、ここ最近出なかったほどの大きな大きなため息を吐いた。


「まったく、それくらいで怒るなよな」


「大人げないよね」


「そうそう・・・ってランス!!」


後ろから高い声で返事が聞こえたかと思えば、ランスはいつの間にか起きてこっちを向いている。


え?もしかして聞かれてた?

しかも「大人げない」って、えええええええええ!!?


「ランス!?どこから聞いてたんだ!?」


「機嫌直せよ、から」


最初からじゃん!!


ランスはコロッと愛想のいい笑顔でレオナードに言い放った。


「パパ、娘ができたらママの気持ち分かるよ。

それに僕、妹欲しいな」


「任せろ」


「はいいいいいい!?」


レオナードはさっとアタシを担ぎ上げて歩き出した。

笑顔で手を振るランスに見送られて。


ああ、親としてこれでいいのだろうか。

なんか涙出てきた。


「ヴィラ、娘を作るぞ」


「ぎやぁああああああああああああ!!」


そして今日も絶叫が城に響き渡るのだった。






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