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ヤンキーな魔女  作者: 伊川有子
番外編
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番外編・浮気騒動(後編)





レオナードの浮気疑惑に飛び出してオーティスへ向かったヴィラ。



一方ドローシャの王城では――――――――吹雪が吹き荒れていた。



「ハ、ハンハナこわーい。

そんなに怒らないでよ、レオナード」


茶目っ気たっぷりに言いながら、プニッとレオナードの頬を人差し指で刺す赤毛の女性。

ぴきっとレオナードの額に青筋が浮かび、シルヴィオとアルフレッドの騎士2人言葉にならない悲鳴を心の中で叫んだ。


ちなみに執務室はヴィラが蹴飛ばした扉と衝撃で悲惨な状態になっている。


レオナードを最初に宥めるのは幼馴染のアルフレッド。


「だ、大丈夫ですって。

魔女さんきっと帰ってくるって」


「で、でもランス王子の姿もないし・・・これはマズイんじゃ・・・」


凍てつくような冷たい空気を受け、アルフレッドは慌ててシルヴィオの口を塞ぐ。


「ば、ばか!

こんなときに本当のこと言うやつがあるか!」


「でも本当に帰ってこなかったときのことを考えると、そっちの方が危険な気が・・・」


確かに!!


吹雪が止む気配はなく騎士2人がもたついている間に、執務室へルードリーフが足を踏み入れて固まる。


「な・・・何事ですかこれは・・・」


手をわなわなと震わせ、レオナードと目を合わせたルードリーフは冷や汗をかいた。


「レオナードがぁ、奥さんに逃げられちゃったのよー」


「「あんたの所為でしょうが!!」」


「えー、ハンハナ悪くないもーん。

レオナードがあんまり無愛想で愛情表現に乏しいからでしょー?」


なんて怖いもの知らずだと一同は心の中で叫ぶ。


そしてレオナードは未だに吹雪を止める気配がなく、口を開き低く響く声で命令を下した。


「3日以内にヴィラの居所を割り出せ」


「いくらなんても無茶っすよ!!」


なにせ相手は世界の端から端までを一瞬で移動できる魔女だ。そんなにすぐに居所がわかるとは思えない。

3日じゃドローシャの首都を調べるだけで精いっぱいだろう。連絡に時間のかかる国外は論外である。


たとえ奇跡的にすぐ見つけたとしても、無事に連れ帰ることができる可能性は低い。


「見つけられなければ首が飛ぶと思え」


そのときのレオナードの目はマジだった。

真っ青な顔でシルヴィオはこくこくと頷き、アルフレッドは返事する。


「わわわかったよ!!わかりましたよ!!

探せばいいんだろ!3日以内に!!」


「がんばってねー」


「あんたも手伝えよ!!!」


「えー」


「ハンハナ様、エルヴィーラ王妃が誤解なさっているなら、陛下からだけではなく貴女からの説明も必要になると思います。

陛下から説明されても言い訳としか捉えられないでしょうから。

特に頭に血が上っているあのお方には・・・・」


「ルードリーフが言うなら仕方ないわねぇ。ねえねえレオナード、魔女ってどんな感じなの?

やっぱり美人なのかしらー、会うの楽しみだわー」


吹雪が止まない中のんきに笑う彼女に、一同は一気に脱力した。

後はヴィラが無事に見つかり帰って来ることを願うしかなかった。

















遊び疲れてぐっすり眠ってしまったランスを抱え、ヴィラは百と向かい合ってお茶を飲んでいた。

ランスの遊び相手をさせられた男性陣の屍が床に転がっている。


「元気だね、ランス王子」


「遊び盛りだからな。

最近物心ついてきたし」


「レオナード陛下は元気?」


「う・・・ん、たぶん」


レオナードの名前に一瞬ヴィラは動揺を見せ、百は首を傾げる。


「どうしたの?上手くいってないの?」


「そんなことはないんだけど・・・」


どもるヴィラは怪しさ満載で、さすがに鈍い百でも見当がついた。


「もしかしてケンカしてオーティスに来たとか」


「ケンカじゃないんだ。ちょっとあたしが一方的に怒ってるだけで・・・」


「何かあったの?」


「あったと言うか・・・見たと言うか・・・」


カチャッとカップの音だけが静かに響く。


ヴィラの脳裏にレオナードと赤毛の女性の姿がフラッシュバックして、「ああああああ!!」と叫んで転がっていたヒューバートを踏みつけた。


「その話題はやめろ!思い出したくねぇ!」


「でも恵理ちゃんがここに居ること、レオナード陛下は知ってるの?」


「いや・・・・知らない・・・・・と、思う」


「なんだと!?」


急に真っ青な顔をして飛び起きるヒューバートは、立ち上がって大きな声を出す。


「毒女!!今すぐドローシャに帰れ!!」


「ヤダよ」


「レオナード陛下に見つかったとき、余たちの身が危ないんだよ!!」


もしオーティスが匿っていたとでも思われたら。

あまりの出来事に起き上がっていたザックが再びひっくり返った。


「なんだよ、ドローシャの王妃の命令が聞けないわけ?」


「な・・・なんて性質の悪すぎる脅し・・・」


焦ったヒューバートは百に目くばせする。

意味を誘った百は頷いてヴィラに詰め寄った。


「恵理ちゃん、一度ドローシャに戻った方がいいよ」


「でも・・・」


「ずっとレオナード陛下のいない生活に耐えられる?」


無理、と項垂れるヴィラ。

にっこりと百は笑ってヴィラの手を両手で握る。


「きっと恵理ちゃんなら大丈夫。

なにがあっても私は恵理ちゃんの味方だから!」


「百ー!」


抱きしめ合う2人にホッと胸を撫で下ろしたのもつかの間。


ドン!!


と大きな音がして部屋に入って来たのはなんと――――。


「レオナード!!?」


茶髪に青い瞳、間違いなくドローシャ王のレオナードだった。


レオナードの鋭い視線にヴィラは硬直。


「早く戻るんだ」


「や、やだ!」


「ヴィラ」


「嫌だってば嫌なんだ!!」


オーティスの王城の執務室でまさかの夫婦喧嘩勃発。

ヒューバートらは恐ろしさに身を竦めながらも見守るしか手はない。


ヴィラの大声で目を覚ましたランスはぽかんと呆けている。


「何故急に家を出て行ったんだ」


「いいじゃん!そんなのあたしの自由だ!」


「さっさと機嫌を直せ」


うっ、とヴィラは言葉を詰まらせたその時、また執務室へゾロゾロと客人がやって来た。

シルヴィオにアルフレッド、そして浮気疑惑の原因となった赤毛の女性――――――ハンハナである。


彼女はヴィラを見るなり目を輝かせて抱きついた。


「やっだーーー!!噂よりずっと美人ーーー!!」


「うおっ、あんたは・・・!」


「あたしはハンハナって言うのー。よろしくねー」


そしてヘラリと笑うその様子は、どう考えても恋のライバルに対する態度ではなくヴィラは混乱した。

















そしてなんやかんやでドローシャへ帰宅後。


「母親ーーーーーーー!!?」


ヴィラの叫び声がいつものごとく王城に響く。


ヴィラはハンハナを指さすと皆は頷き、次にレオナードを指さすともう一度頷かれた。

とんだ勘違いに、ヴィラの肩がガクリと下がる。


ハンハナがレオナードの母親。

そう、すっかり忘れていたがこの世界では25歳で見た目の年齢が止まるのであった。


ハンハナは元気よく手を挙げる。


「そうでーす、母親でーす」


「似てなさ過ぎだろ・・・」


容姿も性格も共通点を見つける方が難しいほど似てない2人。何処から見ても親子には見えない。


「そうなのよー。せっかく綺麗に生んだのに笑ってくれないのよー。

こう口角を上げてニコッと」


ハンハナは指で無理やりレオナードの頬を引き上げた。

他人には出来ない芸当だが、さすがに母親は怖いものなしらしい。


レオナードもレオナードで嫌がってはいるが、ぞんざいな扱い方はしないようだ。


「あの・・・ごめんなさい、はじめまして、エルヴィーラです」


「ホントに美人だわー。

こんな綺麗な奥さんもらえたなんてレオナードは幸せねー。

細い身体ねー。やだ、胸あたしより大きいんじゃない?」


にこにこしながらヴィラの身体をベタベタ触ってくるハンハナ。あんまり触りまくるものだから、レオナードの顔が引きつる。


「え、あ・・・・・ども」


「あたしはハンハナよ。お母さんって呼んでね」


「お・・・お母さん・・・?」


「きゃーーーかわいいーーー!!」


照れながら控え目に呼ぶヴィラに、ギュムッときつく抱き締めるハンハナ。


母親に抱き締めてもらった記憶がないヴィラは、照れくさいやら嬉しいやらでうっすらと頬を染めた。

またそんなヴィラの珍しく殺人的に可愛い姿にレオナードは鼻血が――――(自主規制)


「やっぱりレオナードは帰ってこなくていいわ!

あたし娘が欲しかったのよお!」


声高らかに言う面喰いのハンハナは大層ヴィラが気に入った様子で、慌ててレオナードがヴィラからハンハナを引き剥がす。


「勝手に触るな」


「ずるーい、レオナードだけずるいー!!

いいじゃない自分の義娘なんだから!!」


「ダメだ」


「レオナードのケチんぼーーー!!」


ハンハナはその言葉だけ言い残すと、風のようにその場からフェードアウトして行った。

残された一同は一気に疲労を感じて溜息を吐く。


「ヴィラ」


ヴィラの腰に後ろからレオナードの腕が巻きつき、久しぶりの抱擁に安心感と嬉しさを覚えた。


ヴィラは言いにくそうに口を開く。


「・・・勝手に出て行って悪かった」


「ああ」


「別に怒ってたわけじゃないんだけど・・・」


「そうか」


ラブラブモード突入。

騎士2人は当てられまいとさっさと部屋を出て行った。


ヴィラとレオナードは邪魔者のいなくなったところで、正面から抱きしめ合い唇に噛みつく。


きっとこれからも周りの人々はこの2人に振り回されることになるであろう。


そしてまた、オーティスも同じく災難は続いて行く。





終わり


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