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ヤンキーな魔女  作者: 伊川有子
番外編
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番外編・浮気騒動(前編)




「待てコノヤローーー!!!」


ドローシャの王城の廊下を慌ただしく駆けて行くこの国の王妃であり魔女であるエルヴィーラ。黒い髪と瞳の美しい女性だ。

そして彼女の追いかける先にはちょこまかと動く小さな生物。


今年で4歳を迎える王子、ランスである。

茶髪と青い瞳は父親譲りだが、頑固で融通の利かないところは母親似であろう。


「待て、ランス!!勉強の時間だっつってるだろうが!!」


「やだー!シーと遊ぶもん!」


「シルヴィオは仕事中だ!諦めろ!!」


「やだー!」


可愛らしい抵抗もその逃げ足は速く、ヴィラにとっては憎たらしいほど。

そして追いかけっこが5分近く続いたところで、突如ランスの足が宙へと浮かんだ。


「脱走癖までお前にそっくりだな、ヴィラ」


「レオナード!助かった!」


ヴィラは素早くレオナードからランスを受け取ると、向い合ったまま頭突きを食らわせる。


「いて″っ!!」


「てめー!!よくも逃げやがったな!!

今日はおやつ抜き!!」


「えええええ!!?」


「てめーの所為だろうが!!」


不満の声を上げるランス。

しかし・・・


「ランス、あまりヴィラの手を焼かせるな」


「はーい」


レオナードが言いつけるとコロッと態度を変え、愛嬌のある返事を返した。

完全に舐められていると、ヴィラは震える拳を握る。


「やっと捕まりましたか」


そこへ現れたのは教育係のルードリーフ。

ヴィラは逃げないようにしっかりとランスを引き渡し、しぶしぶルードリーフに連れられて部屋へ戻るランスを見送った。


「大変だな」


「まーな。でも子どもは子どもらしいのが一番」


幸せそうにクスリと笑うヴィラに、レオナードも口角を上げて口付けた。

その流れのまま廊下のど真ん中でイチャついていると、影で見守っていた騎士たちが見かねて2人を引き放す。


「はいはい、そこまでー。

公共の面前でイチャつかないでくださいねー」


「・・・・放せ」


途端に不機嫌になるレオナードはアルフレッドを引き離し、ヴィラの手を引いてさっさとその場を後にした。


大きなため息を吐くのは残された騎士たち2人。


「政務はどうなるんでしょう・・・」


「サボリだな・・・あの様子じゃ・・・」


ガクリと項垂れ、もう一度大きなため息を吐いた騎士の後姿はとても情けなかった。























王妃としても政務も子育ても忙しいながらに充実した毎日。

あたしは世界一幸せだって胸を張って言える。そりゃぁ、ランスの世話は大変だしレオナードはレオナードで嫉妬深くて大変なんだけどさ。それすらも幸せの一部なんだから、文句あるはずがない。



事件が起きたのは突然だった。


軍の資料を頼まれて執務室へ戻って来たけれど、既に先客が居たようであたしは無意識に足を止める。


「ねえ、レオナード。

今度わたくしのために家に来てくれるでしょう?」


艶めかしく色気のある声は明らかに女性のもの。そこで中に入ればよかったんだけど、あたしの好奇心が疼いて足が動かない。

チラリとドアの隙間から中を覗きこめば、スタイルの良い赤髪の女性がレオナードの腕に巻きついていた。


ドキッと大きな音を立てた心臓を宥め、レオナードの様子を窺う。

驚いたことに、レオナードは全く嫌な素振りを見せていない。表情はよく見えないけれど、振り払う気もなさそうだった。


これはもしかして・・・・浮気か!?

あたしの疑いも余所に、彼女はぐいぐいと胸を腕に押しつける。


ここまでしてレオナードが嫌がらないなんてまずあり得ない。幼馴染のアルフレットでもくっつこうとしたら殴られる始末だし、部屋にも侍女を近づけないくらいなのに。


彼女は一体何ものなんだろう。


「ねえねえ、いいでしょう?レオナード」


彼女の声はすごく愛情に満ちて、それだけでもレオナードに対する好意が窺えた。


「ああ」


そして短いレオナードの肯定。

女性はきゃっと嬉しそうにレオナードに抱きついた。


「ハンハナ嬉しいっ!!

レオナードだーいすきっ!!」


そしてチュッとレオナード頬にきききききききききキスを・・・・!!!


決 定 的 ! !


それでも引き剥がすことをしないレオナードにも腹が立ち、ドアを派手に蹴り飛ばしてその場から消えた。


















「師匠ーーーー!!」


あたしが駆け込んだのはもちろん師匠の家。


相変わらずヘンテコな物でゴチャゴチャだけど、それが懐かしくてとてもホッとする。


「なんじゃ、ヴィラか。

あの男とケンカでもしたのかえ?」


「け、ケンカって言うか・・・」


見目麗しい師匠は裁縫の手を止めて、呆れた視線であたしを出迎えた。

あたしはもごもごと口ごもってどう説明するか迷う。


そもそもレオナードの浮気はとってもショッキングではあったけれど、別に王様に妃が何人いようと恋人が誰であろうとそれは法律的に問題ないのであって・・・・。


つまり、あたしが一方的に嫉妬して怒ってるだけなんだ。


レオナードの深い愛情があたしだけに注がれてるだなんて、どうして今まで勘違いしていたんだろう。

第2王妃のローゼリアをあんまりながいしろにしてるものだから、すっかり安心しきっていた自分がいる。


「師匠、先代の王様って側室何人いたんだ?」


「15くらいかのう」


15!

めっちゃ多いじゃん!


「嫌だったりしないのか?

自分だけじゃないだなんて」


「それは仕方なかろう。それも王の務めじゃ。

わらわも陛下も好き合って結婚してたわけではないしの」


「王の務め、か」


所謂政略結婚てやつね。


結婚なんて一大事を仕方ないからって割り切れる師匠はすごいや。


「まさか浮気でもされたかえ?」


「う・・・浮気っていうか・・・」


「なんじゃ、図星か」


図星です・・・。


師匠は呆れた表情のまま深いため息を吐いた。


「あの男に限って浮気はあるまい」


「でも・・・・見たもん」


「お前のことじゃ。どうせ確かめもせず飛び出して来たんだろう」


「うっ・・・確かにそうだけども・・・」


「あやつは女嫌いじゃ。心配せずとも他の女に現を抜かすことはあるまい」


うーん。でも嫌がって無かったしなぁ。


「いざとなれば、“私以外の女に触れないで”とヴィラが迫ればイチコロじゃ。

できれば裸で―――――」


「うわああああああ!!そういうのはいいから!!」


大声を出して師匠の言葉をかき消す。

師匠が言うと妙に生々しいんだよ!!


そうか?と師匠はケロッとして話を続けた。


「まあ、疑惑はあくまで疑惑じゃ。悩むのは全てが分かってからでも遅くはないじゃろう」


「でも怒りが収まんない。

あたしだけ怒って悲しんで悔しがって、振り回されてるみたいで」


考えれば考えるほどふつふつと沸き上がってくる怒り。

あたしは震える拳を握って天を見上げた。


「こんなの不公平すぎる!

レオナードだって存分に困ってしまえばいいんだ!」


「なにをするつもりかえ?」


「ランス連れて逃げてやる!!」


こうなったらじっとしてはいられない。

あたしはテレポートでランスの部屋まで飛ぶと、昼寝しているランスの小さな肩を揺すった。


「ランス!!起きろ!!」


「ん~?」


ランスは目を腕で擦り、眠気眼であたしを見上げる。

その姿はまるで小さな無垢のレオナードみたいで、一瞬キュンとしたが今はそれどころじゃない。


「・・・・ママ?」


「家出するぞ!!一緒に来るか!?」


「え!?行く!!」


良い返事だ。


一気に覚醒して飛び起きたランスの手を握り、今度は2人でテレポート。


行先はもちろん―――――あの場所。

















突然現れた客人にオーティスの一同は顔を引きつらせた。

客人である当の本人、ヴィラは陽気に「よっ」と手を上げる。


「久しぶりだなぁ、お前ら」


「「「お前ら、じゃない!!」」」


オーティスの王であるヒューバート、騎士のアレフ、宰相のザックの声が見事に揃う。


中心の国の王妃が王子を引きつれて突然現れるなど、非常識にもほどがある。

ヴィラの存在自体が非常識ではあるが。


「まったく、どうしてこうお前は急に・・・!!」


「おお、懐かしいキャンキャン吠える声」


一時見ないうちにヒューバートはすっかり幼さが抜けて大人の男になっていた。

しかしいじりやすいところは相変わらずで、ヴィラはにやにやと笑う。


「ほら、ランス、挨拶」


「はじめまして、ドローシャの第1王子、ランスです」


ぺこりと頭を下げる幼い子どもに、3人は大きな声を出すのを止めてそれぞれ丁寧に挨拶を返した。

子どもに弱いのはどこの世界でも同じらしい。


「ところで、毒女。

一体何しに来たのよ」


そう訊ねるのはザック。


んー、とヴィラは言葉を濁しつつ笑う。


「いろいろあって、遊びに来た」


「へ、へぇ・・・」


「恵理ちゃん・・・!!」


「百ーーー!!!」


奥の部屋から飛び出て来た百に、ヴィラも駆け寄って抱きしめ会う。


一瞬だけヒューバートは面白くなさそうに顔を歪めた。

しかしそんな彼も蚊帳の外で、2人はきゃっきゃと久しぶりの再会を喜んだ。


「久しぶり!!

突然でびっくりしたよ!!」


「元気だったか!?

だいぶお腹大きくなったな!」


そう、百はただいま妊娠中。

えへへ、と照れくさそうに頭を掻く百は、すでに母親の顔になっていた。


「そうか、お前も母親になるのか・・・。

あのドジで目を離すとすぐにトラブルを起こす百が・・・」


「も、もうドジ克服したもん!

ねえ!ヒュー!」


同意を求められたがヒューバートは明後日の方向を向いて遠い目をしていた。

彼も相変わらず苦労が絶えないらしい。


ヴィラは納得してうんうんと頷く。


「ランス、おいで。この人があたしの友達の百だ。

会うの初めてだろう?」


「はじめまして」


頭を下げるランスに、百も膝をつき目線の高さを同じにして微笑んだ。


「はじめまして、オーティスの第1王妃の百だよ。

ホントにドローシャ王にそっくりだねー」


「でも性格はあたしに似たんだよなー」


「・・・・なんと性質の悪い」


あははと笑い合う影でボソリと呟くヒューバート。

もちろん頭の上にタンコブを作ることになったが。


ところで、と百は首を傾ける。


「恵理ちゃんはいつまでオーティスにいるの?」


「1か月くらい?」


「「「はい!?」」」


オーティスの災難はまだ続く。







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