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ヤンキーな魔女  作者: 伊川有子
本編
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第二十八話 オーティスでの生活




住む場所を貸してほしいと頼めばあっさりと受理された。たぶんあたしが百の友達だからなんだろう。

侍女の仕事がある百と別れて、ヒューバート(だっけ?)に案内されたのは敷地内にある小さな木造の小屋だった。他の塔からはずいぶん離れているしかなり質素。


中に入ると埃の匂いがぶわっと広がった。かなり汚れている。埃は積もり放題だしクモの巣はかかってるしかなり薄暗いし。一体何年掃除してないんだ。


「こんな部屋でいいなら使うんだな」


鼻で嗤うヒューバート。なんだよ、嫌がらせのつもりか?百が居なくなった途端態度変えやがって!


「別に平気」


後で魔術でどうとでもなるし、人が寄り付かない場所のほうが動きやすい。ヒューバートはあたしの返答が意外だったのか少し悔しそうな表情をしてあたしを睨む。


「言っておくがモモの友達だからと言って特別扱いはしない。モモはいずれ王妃の位につく女性だ。だがお前はただの一般市民。それを忘れるな」


「・・・・百を王妃に?聞き捨てならねえな。本人の許可なく決めるなんてずいぶん傲慢じゃねえか」


「そうせざるを得ないんだ。魔女の国―――ドローシャがモモらしき人物を探してる。もしもの話だが、レオナード王が王妃にモモを望めば余の力ではどうにでもならない。殺すと言われても・・・逆らうことすらできないんだ。オーティスの国力では3日もあればやられてしまう、それほど国の力が違い過ぎる。だから奴らの手が及ぶ前に王妃として迎えてしまえば、さすがに簡単に手出しはできないだろう?異世界から来たお前には理解できないだろうがな」


なるほどね。まさか公に探していたのが裏目に出るとは。彼らなりに百を守っていたんだろうから、匿っていたことは不問にしてあげよう。まあ、もちろん本人の意思なしに結婚なんて絶対許さないけど。


「とにかく百を助けてくれたのは感謝するけど、もし嫌がるようなことを強要するんだったら許さないからな」


「・・・わかってる」


ヒューバートは赤くなってボソリと呟いた。からかったら背中を思いっきり叩かれた。











ヒューバートが寝所のある塔に戻ると、笑顔の全開の百が駆け寄って来た。ヒューバートは嬉しそうに目尻を下げる。


「ヒュー!恵里ちゃんはどう?」


「疲れてたらしくすぐ眠ってしまったよ」


そっか、と百は肩を撫でおろして息を吐く。


「恵里ちゃんはものすごく強くてかっこいいんだよ。きっとヒューともすぐ仲良くなれると思うの。美人だしそのうち玉の輿結婚しそうだよね」


ヒューバートは心の黒い部分を押し殺して笑顔を向けた。そんなマネはさせない、自分が幸せにするのは百だけだ、と。彼女の権力に縋って寄って来た寄生虫が幸せになるなど、どうしてもヒューバートは許せなかった。


「あの女は本当に友達で間違いないんだな?」


「うん、もちろん間違いないよ」


百は仕事があるから、と手を振って部屋から出て行った。入れ替わりで金髪の男が入ってくる。どこか廃退的な危うさを持った、水色の瞳の美丈夫だった。


「アレフ、あの女に見張りは付けたな」


「はい、滞りなく」


金髪の男――――アレフ・ダグラスはしっかりと頷く。

例え百の友達であろうと、ヴィラに心を許すつもりは微塵もなかった。敵国の・・・ベルガラの回し者である可能性もあるのだ。あの並みはずれた美貌も怪しいし、出自も定かでないヴィラは疑われて当然だ。

今は次の戦に備える大切な時期。情報漏れを防ぐためにも、絶対に間者を入れるわけにはいかない。


「不審な動きがあればすぐに報告しろ」


「御意」


もし敵側の人間だったら迷わずに殺す。それはヒューバートの王としての宿命。たとえ百に泣かれても頼まれても、それだけはどうしようもできない。

ヒューバートは大きなため息を吐くと、政務のために部屋を出た。










起きたらもう外は薄暗くなっていた。だいぶ時間をロスしたなぁと思いながら、ベットから出て汚れた部屋を見渡す。狭いし家具は痛んでるし・・・まあよくも城内にこんな小屋があるもんだと感心しながら、泥人形に入れ替わると掃除を始めさせた。本体はあたしを見張っている人たちに見えないよう、減術を使ってこそっと小屋の外に出る。


さあ、どこから探そうか。

無難に地下?国家ぐるみだったとしてもさすがに上層部の人間しか知らないだろうし、どこかに隠されてるんだと思うけど。

城内をウロウロしてみると意外と狭いことに気づいた。もちろん一般的な感覚からすればとんでもなく広いんだけど、ドローシャの王城のような気の遠くなる広さじゃない。それに造りがとっても単純だ。

中央にあるでかくて太い建物―――あれが政治の中枢になっている、政庁のある塔だ。それから北・東・西にある塔につながっていて、北は後宮、東は王の寝所、西は迎賓館。南には大きな門があって、さらに離れた王城の敷地の外に神殿や図書館がある。


一応建物内は隈なく探してみたけど、特にレオナードが閉じ込められていそうな場所はなかった。こんな時に占いの才能があればなぁと思うんだけど、こればっかりは授からなかったから仕方ない。


とりあえずある程度見回って、お腹がすいたので小屋に戻ることにした。見張ってるやつらにバレないようこっそり泥人形と入れ替わり、ずいぶん綺麗になった部屋を見回す。ちょっと奥の方に行けばかまどがあった。

かまど・・・ってどうやって火を起こすんだろう。師匠の家に居たころは魔術でパパッと何でもこなしてたし、城に来てからは厨房を覗いたことがないのでわからない。っていうかあたし、火の起こし方どころかこっちの生活様式全然知らねえかも。

かまどってことはガスコンロじゃないから手動?で火を起こすんだろうけど。まさか石の摩擦で・・・・なんて原始的なやり方じゃないよねぇ。ロウソクなら見たことあるんだけど。


何か役に立ちそうな道具はないかと見回せば、紙でできた手のひらサイズくらいの箱があった。スライドして中を見るとマッチが一回り大きくなったような棒がある。かまどの隅の方で擦ると火が出たので中に放り込んだ・・・・・けどしまった、薪がない。想像通り、火は燃え移るものがなくてプスプスと煙を上げながら消えてしまった。


「まいっか」


よく考えたら火を焚いても食糧がないし。よっぽど疲れてたのか何も考えてなかったや。もう夜中で誰も起きてないだろうから、明日街に出て何か買おう。・・・・ってあれ、オーティスのお金ってドローシャのお金と同じなのか?・・・まあいいや、きっとなんとかなる。洗って干していたシーツを取り込み、ベットに敷くとごろんと寝転がった。

次はシャワー・・・・ってどこにあるんだろう。再び立ち上がり厨房のある部屋のさらに奥に、小さいけど一応お風呂があった。かなり狭いけどちゃんと湯船もついてるし問題はなさそう。


・・・・お湯、どうやって沸かすんだろう。


ああもう、なんだこのループは!物は試しだと蛇口っぽいものを捻ってみたら超冷たい水が出てきた。温度調節できるようなそれらしいものはなし。さすがに冬に水風呂は嫌だ。

ちょっと魔術でズルしたいけど、さっきからずっと誰かに見張られてる気がする。オーティスの隠密は気配隠すのヘタだなぁ。いちいち幻術使うのも面倒だし、かと言って追い払っても怪しまれるだろうし。そもそもお風呂まで覗くなんて・・・・・・変態?


・・・・うーん・・・・、明日ヒューバートに頼んで止めてもらおう・・・ってか百に相談した方が早いかもしれない。百の頼みだとヒューバートも惚れた弱みで断れないだろうし。とりあえず今日は水に濡らしたタオルで身体を拭くだけにしよう。もちろん見張り役さんたちには幻術で誤魔化させてもらおう。


この世界に来てもう3年ちょっと経つけど、己の無知さを思い知った一日になった。明日からはもうちょっとマシな生活ができることを祈っとく。





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