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ヤンキーな魔女  作者: 伊川有子
本編
24/66

第二十三話 キリエラの正体





始まりの鐘が鳴る。

審問会は神に誓い真実を話すという由来から、神殿で行われるのが慣行となっていた。8千人を収容できる神聖な広い空間、一番奥には片手に杖を持った神の銅像、その少し手前には王のイスがある。もちろんそのイスに座っているのはレオナード、そして騎士であるアルフレットがその横に控えていた。それぞれの貴族の当主と政庁の要人しか出席できないこの会は、剣技大会のような熱気はなくピリピリした空気が漂う。


「では、これより審問会を行う」


審問会で口を開いてよいのは王または王妃、そして審問にかけられる罪人のみ。よって取り仕切るのも質問をするのも決定を下すのも、全てレオナードが行うことになる。


「連れて来い」


扉の前で控えていた兵士たちが、オルドリッチと黒のローブを着た女を中に入れた。女は黒いフードを被っており、表情どころか肌さえ見えない。2人は中央に敷かれた白いカーペットの上を歩き、決められた位置まで来ると跪いた。


「お前はキリエラ、という名で間違いはないな」


「はい」


高く澄んだ、迷いのない声だった。オルドリッチは横目で彼女を見やる。


「では、フェルディナンド・オルドリッチ、キリエラの審問会を始める。まず初めにオルドリッチ、お前とジキルド・カトレアとの関係を聞かせてもらおうか。ここにいる皆も知っていると思うが、彼は先日ホラージュの州軍を動かして王と王妃の命を狙った罪人である。その彼が死に際に魔女の名を幾度も口にしていた。つまり」


周りの厳しい視線がオルドリッチに集まった。


「お前の所有するそこの魔女、キリエラのことで間違いはないだろう」


「お待ちください陛下。キリエラは魔女ではございません」


オルドリッチの否定にレオナードの眉がピクリと動き、それを見逃さなかったオルドリッチは口早に続ける。


「本当でございます。私が新しい王妃に紹介しようとしていた女はこの者ではございません。それに魔女ならば他におりましょう?なぜ彼女がカトレア財務長官の言っていた『キリエラ』と同じ人物だと言えるのです?名前などいくらでも偽れます」


「その女が魔女ではない証拠は?」


「ではその剣でこの女を貫いてごらんなさいませ」


ざわざわと辺りが騒がしくなり、女はオルドリッチの方を向いた。


「剣技大会の時、陛下はご覧になったでしょう。エルヴィーラ王妃が矢に貫かれても全く傷を負わなかったのを。魔女ではないキリエラは確実に死ぬでしょう」


「この女を殺しても構わぬというのか?オルドリッチ」


「身の潔白を証明するためでございます。大変気に入っていた女ではありますが、陛下に信用していただくため・・・・涙を飲んで耐えましょうぞ」


オルドリッチは今がチャンスだとばかりに女に目配せをし、女は頷いて歩を進め階段を1段づつ上って王座の目の前まで来ると、ゆっくり片膝をついて頭を下げた。

レオナードは皮肉そうに笑う。


「そんな趣味はないのだがな」


「陛下・・・そんなことをおっしゃらず。キリエラ、今だ」


女は頷くと、ローブの下から長剣を取り出してそれをレオナードに向けた。辺りが騒然とし兵士が慌てて駆け寄るがそれをレオナードは制止する。


「罪を認めるか、オルドリッチ」


「残念でございましたなぁ、彼女が魔女だと気づいていたならもっと警戒するべきでございますよ陛下」


アルフレットが剣を抜く暇もなく、女は高く振りかぶって勢いよく切った。レオナードは腰の剣を抜いてそれを受け止めたが―――、魔術を使ったのかレオナードの剣をすり抜けてしまう。

ぐさり

と重たい音をさせてレオナードの身体を剣が引き裂いた。真っ青になり怒号の声を上げる観衆、まさか王が切られるとは思っていなかった兵士は混乱状態に陥る。


オルドリッチは満足そうに高笑いをした。


「よくやったキリエラ!私は王座を簒奪した!王はこの私だ!同志よ、今こそ立ち上がるとき!」


観衆の一部―――貴族と政庁の要人の一部―――はオルドリッチと共に歓声を上げた。困惑しますます動けなくなった兵士へ追い打ちをかけるように、兵士の一部からさえも歓声を上げる者が現れる。


「同志よ、新時代だ!神などいらぬ、これからは人の国を作るのだ!」


オルドリッチは恍惚とした表情で天を仰いだ。アルフレットが彼に切りかかろうとしたが、どこからか現れた黒い布に金の刺繍がある服を着た連中が、素早く取り囲んでアルフレットの動きを封じた。


「今ここに宣言しよう!私、フェルディナンド・オルドリッチはこれよりドローシャの国王に就任する!反対する者は国外追放、しかし私について来る気がある者は歓迎しよう!」


金切り声が上がった。世界の理を信仰するこの国ではとても受け入れられない考えだった。神が王を決め、選ばれた王が治めることのない国などドローシャではないのだ。オルドリッチは天敵の魔女を引き連れてはいるが、やはりゾロア教徒だと知らしめるには十分な言葉。


「そしてフェルディナンド王は、今までの功績を讃え王妃にキリエラを迎えよう!」


「嫌です」


女がさらっと言った言葉に、しーんと辺りが静まり返った。オルドリッチの表情が一瞬だけ固まる。


「キリエラ、何を言う・・・お前を王妃にしてやると言ったであろう」


「ええそうでございますね。しかし貴女の妻になるのは死んでも嫌です」


「キリエラ!?」


女はローブの下で薄く嗤うと、素っ頓狂な声を上げるオルドリッチを見下して続けた。


「わたくしの夫は生涯レオナード陛下のみでございますゆえ」


「ずいぶん大がかりな芝居を打ったものだな」


低く唸るような声を上げたのは、先ほど切られたはずのレオナード。しかし彼は肩肘をついて王座に座ったままオルドリッチを見下ろしている。実はずっと静かに様子を窺っていたのだが、驚愕と興奮に忙しかった皆は気づかなかったらしい。


「な・・・・・・ぜ?」


オルドリッチは目を見開いたまま表情を凍らせている。助けを求めて女を見たが、彼女はオルドリッチと目を合わせようともしない。


「キリエラ、どういうことだ。きちんと息の根を止めよ!」


「そろそろ察してほしいね、これだから馬鹿は困る」


フードの下から聞こえて来たのは、先ほどのようなか細い声ではなく色香に満ちた妖艶なソプラノアルトだった。黒いマントを脱ぎ棄てて現れたのは漆黒の髪と瞳を持つ美女。げっ、とアルフレットの声が響いた。


「嬉しいよ、オルドリッチ。あたしが作った泥人形をずいぶん気に入ってくれたようだな」


「・・・・なんだと?」


「お前がキリエラと呼んだ魔女はもういらないから壊したよ。悪いな、あたしの本名はキリエラではなくエルヴィーラだ」


エルヴィーラ、第一王妃の名。

オルドリッチは口をぽかんと開けたままヴィラを見上げ、レオナードは呆れたようなため息を盛大に吐いた。


「こそこそ何をやっているかと思えばお前は・・・」


「敵の中枢にいると情報ががっぽりそのまま入ってくるから止められなかったんだ。あ、前異教徒が一人脱走しただろう?あれ、逃がしたのあたし」


泳がせてみるとあっさりとジキルド・カトレアの元へ帰って行った。それからは芋づる式にどんどん繋がっている人物が分かり、オルドリッチに取り入るのは思いの他簡単だったとヴィラは言う。


「幻術でこんなに簡単に騙されるとはね・・・。ま、これで人事は一掃できるだろう?オルドリッチに加担していた奴らは自ら名乗りを上げてくれたようだしな」


先ほどまでオルドリッチの宣言を狂喜乱舞して喜んでいた連中は、顔を真っ青にして気絶する者まで現れた。王が無事であることを知り落着きを取り戻した兵士たちは、機敏な行動でそれらの者たちを素早く捕えて回る。

レオナードは目の前に立つヴィラを見て苦笑を洩らした。


「まあいい、帰ってきてくれるな?夫は生涯俺一人なのだろう?」


「・・・・戻ってもいいのか?」


心配そうにレオナードの顔色を窺うヴィラに、レオナードはいつもの優しい微笑みを浮かべた。











レオナードはヴィラの手を引っ張り神殿を去ると、部屋に戻って彼女をベットの上に落とした。覆いかぶさるレオナードの影がヴィラの顔にかかる。


「レオナーっ・・・」


噛みつくようにキスをすると、何度も何度も唇をむさぼる。身を捩ってピクリと反応するヴィラに、レオナードはその大きな支配欲を満たした。押し返していたヴィラの腕も、諦めたのかレオナードの首に回る。


「・・・もう帰って来ないと思った」


唇を離したレオナードは青い瞳を揺らし、切なげに眉をしかめる。目の前に居るのはヴィラ。会いたくて愛しくて堪らなかった、まぎれもない彼女。


「レオナード」


ヴィラは今までにない優しい声で彼の名を呼び、白く細い指でレオナードの輪郭をなぞった。口角を上げて誰もが頬を赤く染めるほど綺麗な笑みを浮かべる。


「よかった、あんな風に出て行ったから、嫌われたかと思った」


「それはこっちの台詞だ」


2人は見つめ合い、再び会えた喜びと安堵にクスクスと笑い合う。レオナードの口付けが雨のように降ってきて、ヴィラはくすぐったさに身を捩った。

レオナードは額を合わせて顔を近づけ、触れるか触れないかのところで口を開く。


「ヴィラが城を去る前、約束をなかったことにしてほしいと言って俺が頷いただろう?」


「うん」


「あれは撤回しない」


逃げてもいい、離れてもいい。


でも。


「だから新しい約束をしてくれ。帰ってくるのは必ず俺の下だと。逃げても離れても、俺はヴィラを待ち続ける」


ヴィラはレオナードの真剣な声に息を飲むと、目尻に涙を溜めて頷いた。





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