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4話 佐倉家会議

説明しよう!佐倉家会議とは、佐倉家代々に伝わる伝統的な会議である!家族内で揉め事やトラブル、交渉などをする時に一切の嘘偽りなく話し合い解決するというものだ!


「要は家族会議ってやつだ。おま…えーっと…」


「翠でいいわよ」


「俺は桜の誤解を解くから、翠も佐倉家会議に参加して俺への用件を嘘偽りなく話せ。正直信用したくはないが」


「安心しなさい。私も佐倉家会議はよくやってたから。嘘はつかないわ」


「その発言が既に信用しがたいが…それも全部佐倉家会議で判断する。翠が何者なのか、信用していい奴なのかもな」


俺、桜、翠は階段を降り、リビングのテーブルを囲み佐倉家会議を始めた。俺はさっきまで翠と何があったのかを説明した。


「ということだ」


「じゃあ、お兄ちゃんと翠ちゃんはそういう関係じゃないんだね」


「断じてないな」


「そうよ。まあ未来のパパではあるんだけど」


「…わかった。お兄ちゃんを信じるよ」


「ああ」


俺と桜は握手する。解決の証だ。


「で、次はお前の番だ。翠」


「ほんとに翠ちゃんは未来から来たの?」


「ええ本当よ。私は未来から来たの」


「て言われてもな…何か証拠になるものとかないのか?空飛べる竹とんぼとか、どこへでも行ける扉とか」


「あのね、そもそもそんな遠い未来から来たわけじゃないの。そうね…20と数年後の未来から来たわ」


言ってることは嘘としか思えないが、翠の表情や口調からは嘘を感じられない。


「うーん、やっぱり証拠がないんじゃな…」


「ぐぬぬ…」


翠が頭を抱えて悩んでる姿を見て、ふと疑問に思ったことを聞いてみる。


「それにしても、仮に翠が本当に俺の娘だとして、俺と似てなさすぎじゃないか?」


「たしかに、お兄ちゃんと似てる要素1つもないよね」


黒髪黒目、平々凡々な俺と比べて金髪緑目、容姿端麗な翠とはお世辞にも似てるとは言えない。

血が繋がっている娘なら、少しくらい似てる所があってもいいはずだ。


「見た目の話なら安心して、これは私の趣味でやってるものだから」


「趣味?」


趣味でここまで変わることが出来るのか信じがたいものだが。


「お化粧はママの趣味でね。私が小さい頃から

いつもおめかししてくれたの。その影響を受けて私もやってきたから、可愛くみせることには人1倍こだわってるわけ。だから目はカラコンだし髪も染めただけよ」


化粧の域をゆうに超えてると思うが。今どき、いや、近未来どきの女子からしたらこれくらいが普通なのだろうか。


「あっ、そうだった!」


そんなことを考えていると、翠がまるで解決策を思い出したかのように大きな声を出し、背負っている俺でも知っているような有名高級ブランドのロゴが入ったリュックを下ろし、中をがさごそ漁り出した。


「あった!」


「「なにそれ?」」


翠がリュックから取りだしたのは、俺と桜は見たことも聞いたこととのない物体だった。その物体は手のひらサイズの球体で、光沢のあるピンクゴールド色をしている。


「これはポイファって言うの」


「ぽいふぁ?」


どこか間抜けな聞き慣れない単語がこの球体の名称らしい。


「ポイッと投げるスフィアでポイファよ」


そういうと翠はその球体を投げ捨てる。おい!と声をかけるようとする寸前で球体は空中で止まり、次第に半透明になり、目のようにも見える2本の縦線が浮び上がる。よくみると中心部に光り輝くコアのようなものもあるな。


「な、なんなんだそれ…」


「わあ…なにそれ!」


未知の物体を見て恐怖を感じている俺に反して、桜は新しいおもちゃを買ってもらった子供のような表情をしている。


「ポイファはなんでも出来る便利なロボットみたいなものよ」


「なんでもって?」


「そうね、電話とか、ゲームとか、調べものとか、ほんとになんでもできるわ」


「スマホみたいだね」


桜の言う通り、機能的にはスマホのようなものらしい。しかし、半透明になったり、浮いていたりと、現代の技術で作れるものとは思えないな。


「博士がなにか困ったらポイファのメモを開きなさいって言ってたの」


「博士?」


「博士はすごい人でね、私がタイムトラベルする時に使った装置を発明した人なの」


「え、お前そんな凄いやつと知り合いなの?」


「そうよ。とにかくメモを開いてみるわ」


そう言うと翠は、右手人差し指にはめている球体と同じ色の指輪をクイッと回す。そうすると、ポイファの目らしき所が光る。


「お帰りなさいませ。佐倉 翠様」


「ポイファ、メモを開いてちょうだい」


「かしこまりました」


翠はポイファから発せられる執事のような口調の機械的な音声と会話している。おそらくポイファには高性能なAIが搭載されているのだろう。メモを開くよう指示されたポイファの目は青色に変わった。


「私が未来から来たことを証明するにはどうすればいい?」


「やあ翠君。それに、現斗君と桜君もいるかな」


翠が質問すると、ポイファの口調が変わり、目から映像が浮かび上がる。そこにはイスに座っている白衣を着た人の首から下が映っている。


「現斗君と桜君って、こっちのことが見えているのか?」


「いや、見えていないわ。これは博士が私のポイファに残したメモ。おそらく私が未来から来たことを証明するのに手こずることを予測してこの音声を残したのね。膨大な量のメモがされてるから、きっとどんな質問でも会話するように答えてくれるわ」


翠の話を聞く限り、どうやらこの映像に映っている人が博士らしい。


「現斗君、混乱していると思うが、僕が今から全てを説明しよう。翠君が未来から来たことを証明するには、ポイファを見せるだけで充分だとは思うけど、この動画を見てほしい」


博士がそういうと映像が変わる。


「これは…」


「未来の映像ね」


映像には、沢山の花に囲まれた俺っぽい写真が映し出されている。周りには大勢の喪服を着た人がおり、涙を流している人もいる。俺の名前を呼ぶ声もちらほら聞こえる。


「これは1週間前に行われた現斗君の葬式の様子だ。ここ1ヶ月音信不通だった玄斗君は、警察の捜索によって自宅で亡くなっていたのが見つかったんだ。あまりに急なことだったんで、僕も驚いたよ」


葬式?死ぬ?未来の俺が?


「そんな中、昨日僕の元へ一通の手紙が届いてね。紙に文字を書くのが珍しい時代に誰からかと思ったら、驚いたよ。現斗君からの手紙だったんだ」


「俺、から?でも俺は死んだんじゃ…」


「ああ、君はたしかに死んだ。だが君は自分が死ぬことを知っていたんだろう。それを見越して死んだ後僕の元へ手紙が届くようにした」


「なんでそんなこと…てか手紙にはなんて書いてあったんだ?」


「手紙には『嫁、探し、やり直せ、変えろ→SSu2022.03.25→SG2020.04.07』

と書いてあった」


「それだけ?」


「いや、その下には6人の女性の名前が書かれていたよ」


「女性の名前?」


「ああ、手紙は翠君に渡してあるから、後で確認してみてくれ。そして僕は君からの手紙を読んで、意図を推理した。現斗君が死んだ原因には君の奥さんが関係していて、死ぬ結末を変えるために2022年3月25日に現斗君の元へ翠君を向かわせ、更にそこから2020年4月7日に高校生の現斗君を向かわせるのだとね」


確かに、俺が死んだこと、佐倉翠のこと、タイムトラベルできることを知っていたらその推理に辿り着くだろう。ただ、純粋にひとつ気になることがある。


「なんでそんな分かりにくい謎解きみたいな文章なんだ?」


「それは僕が作ったタイムトラベルできる装置が極秘だからだろうね。この装置について知っているのは本当に限られた人だけだ。そこら辺の人に過去に戻れるなんて言っても頭のおかしいやつだと思われるだけだろう。きっと現斗君はこの手紙が流出しても大丈夫なように配慮してくれたんだろうね」


未来と言っても20と数年。どうやら誰もがタイムトラベルできるわけではないらしい。


「しかし、2つばかり分からないことがあってね。1つは複数の女性の名前が書かれていること。きっと君の奥さんもこの中に含まれているのだろうけど、それなら奥さんの名前だけ書けばいいはずだ」


「ちょっと待て、俺の奥さんが誰なのかは分からないのか?」


「そう、そこが問題なんだ。そもそも現斗君が結婚していた事を知ったのが葬式のときでね」


「いやいや、娘の翠なら分かるはずだろ」


「私がママに最後会ったのは物心つく前で、残念だけど名前は覚えてないわ。覚えてるのは優しかったことといつもおめかししてもらってたことだけ。それ以外は何も知らないわ」


「葬式にも出席していなかったし、相当上手くいってなかったのかもしれない」


「葬式に出席してた人に聞けば1人くらいは知ってるんじゃないか?」


「現斗君の言う通り、聞けば1人くらいは知っているかもしれない。しかし、僕の立場的には聞けなかったんだ」


「立場的にってどういうことだ?博士は犯罪者なのか?」


「博士は葬式の少し前、非人道的な発明をしようとしているって報道されたのよ」


「それって事実なのか?」


「根拠のないまっぴらな嘘よ。きっと勝手にライバルしてる研究者がどこかでタイムトラベルの発明をしてるって噂でも聞いて、才能の差に嫉妬したとかで嘘の情報を記者に流したとか、そんなところでしょうね」


「はあ…どんな時代にもそんなやつはいるんだな。それで、2つ目はなんだ?」


「もう1つは手紙の『探し、やり直せ』の部分だよ。最初は結婚した奥さんとの関係をやり直せと解釈していたんだけど、複数人の名前が書かれていることから違う人を奥さんに選んで、やり直せという意味にも捉えることが出来てね。こればっかりは本人に聞かないと分からないね」


「でも肝心の当人は死んでいると…」


「そういうことだね。そして、ここで最も関係してくるのは翠君なんだ」


「どうして俺じゃなくて翠なんだ?」


「考えてみてくれ。結婚する相手が変わり、もしその奥さんとの子供が産まれても…」


「…それは翠ではない」


「そう、もし君が今と違う人を花嫁に選べば、恐らく翠君は存在しなかったことになる。だから、僕としては今の奥さんを選んで欲しいと思っているよ。難しいことだとは思うけどね」


最初話を聞いていたときは、俺自身が複数人名前を書いたんだ誰を選んでもそれが俺の選んだ道だとか思ってたけど、翠が関係してきて責任感がどっと伸し掛る。これが親としての責任か。

なんで娘残して勝手に死んでんだ俺の馬鹿野郎。


「私からもお願いするわ。実際の花嫁が誰なのかは分からないから難しい問題だとは思うけど、私に出来ることならなんでも協力する。だから」


「ちょっとまって。お兄ちゃんは絶対に花嫁探しに行かないとだめなの?」


桜の言葉にはっとさせられる。


「お兄ちゃんが花嫁探しに行かないでいれば、翠ちゃんが消えることもないよ。それに、桜はお兄ちゃんと離れたくない」


少し震えた声の桜はぎゅっと俺に抱きついてくる。たしかに、過去を変えなければ翠が消えることはない。俺は死ぬけど。それに、桜を1人にするのも良くないな。俺は死ぬけど。


「それじゃパパが死んじゃうじゃない!!」


「でも、俺が過去に行ってどうなるんだ?俺が2人になってドッペルゲンガーだって話題になるくらいだろ」


「その点は心配する必要はない。現斗君が過去に行く方法はタイムトラベルじゃなくてタイムリープだからね。過去に行くのは意識だけだよ。それに、桜君のことも考慮して装置はもう1つ用意してある。その上で過去に行くか行かないかは現斗君の意思で決めたまえ」


博士の配慮のおかげで桜のことは心配なくなった。さて、あとは翠の問題だけだが。


「翠が未来から来て、未来では俺が死んで、それを変える為に過去に戻ることが出来ることはわかった。けど、正直俺はまだ実感ないし、俺が過去に戻ったとしても翠を救える自信は全くない。だから、過去に戻るかは翠が決めてくれ」


俺には翠を残して死んだ責任はあるが、翠を救うなんて無責任なことは言えない。これは俺の独断で決めていいことじゃない。


「私はひとり暮らしをしてたんだけど、パパが死んだことを知ってすごい悲しかった。パパが死なない未来を作ることができるなら、どんなにハイリスクでも、命を懸けてもいいわ。それに、私はパパを信じてる。絶対に運命の人を、ママを選ぶって」


「桜はそれでいいか?」


「桜はお兄ちゃんと一緒にいられるならなんでも大丈夫だよ!それに翠ちゃんの言うように、お兄ちゃんは絶対に運命の人を選ぶよ!だってお兄ちゃんだもん!」


「そうか。なら決まりだな!」


「ありがとう…!」


俺と翠は握手する。なんかすごい期待されてるけど、弱音を吐ける状況じゃないことはわかる。


「この理解し難いであろう状況を汲み取って君の答えを出してくれて感謝するよ、現斗君。僕も全力を尽くしてサポートするよ。それじゃあ早速転送の準備をしよう。翠君、2人にそれぞれのポイファを渡したまえ。翠君は前回と同じようにポイファを両手で下から包むように持って、現斗君と桜君は手をポイファの上にかざしてから翠君と同じようにするんだ」


「装置ってポイファのことかよ?!まじで万能なんだな…」


俺はシルバー、桜はゴールドのポイファが渡される。どうやら手をかざしただけで情報がリンクする仕組みらしい。未来すげえ。


「ちなみにポイファは君たち3人の間でしか見えないよう設定してあるから、他の人に自慢はできないよ…ククク…」


俺と桜は翠のようにポイファを持ってみる。触れている部分は次第に温かくなり、まるで人の手を握っているようだ。


「さて、準備はいいかな。といっても、もう聞こえていないだろうけどね」


ポイファを両手で包むように持っていると、なんだか吸い込まれるような感覚になってくる。目を閉じ、頭を空っぽにする。しようと思ったんじゃなく、そうするようプログラムされているかのように。


「無事を祈るよ、現斗」


こうして、俺と翠の未来がかかった花嫁探しが幕を開けた。

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