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蛍奇譚  作者: 玉楼抹茶
6/6

登校準備

「ああ。心地いいなあ」


 ゆったりとベッドで寛ぐ蛍。もう、二日以上こうしているのだ。いつも、シングルサイズの簡素な寝台で寝る、それが今日からはクイーンサイズのベッド。広々として、マットレスも上等のものを使っていた。

 しかし、蛍の居心地をよくするものは、それだけではなかった。


「遠くの方だけど、女の悲鳴が聞こえたなあ…ククッ」


 それを子守唄にでもするように、蛍は目を瞑る。 








 

「坊っちゃん。朝ですよ。今日は学校の日です」


 言い方は穏やかだが、ノック音がうるさい。蛍は不機嫌そうに目を覚ます。確かに朝だ。


 地獄にも朝はある。だけど、こんなに明るくないし、鳥も煩く鳴いたりしない。うるさいのは三吉だけだ。


「全く…」


 仕方なしに、貰った制服に袖を通す。シャツにベスト、ネクタイ、スラックス。ジャケットはまだ暑いので、羽織りたくない。人間界じゃ、もう六月初旬で梅雨に入るらしい。


「ほら、ご飯を食べて、荷物も用意して、閻魔様から頂いた小箱、入れときますからね」


 自分の代わりに、ご飯も食べてくれればいいのに…気だるそうにトーストを齧る蛍。


 大体、蛍は閻魔の子である。数年先は何も食べなくても大丈夫だ。なのに、三吉は毎回ご飯を用意してくるのだ。それを蛍はぶつくさいいながら食べる。


「坊っちゃん。そういえば、あの箱何でしょうね」


 そういえばと、蛍も気になった。守りたい者とはどういう意味だ?


「さあ?僕も中身見てないし…」


 気にはなったもののさして興味はないせいか、蛍は砂糖とミルクを入れたコーヒーを飲み干し、荷物を手に取る。荷物は少し重く感じたが、リュックサックになっており、そこまで負担には感じない。


 拘束時間は、九時から十五時半の七時間半。そして、二十分前に教室に入るのが、暗黙のルール。ここから、学校まで徒歩二十分で近い。地図もスマホに入っている。


 だけど、蛍はこれを使うのがあまり好きではない。何だか使いにくいし、兄だけではなく、最近これを持ち始めた妹のネリネからも連絡が来る。


一度、血の池に放り投げたことがあるが、地獄製のこれは、次の日に蛍の枕元に戻って来ていたのだ。


 地獄の住人ですら怯える呪われたスマホともにこれから、初登校となる。









 

 春が終わり、夏が近づこうとしている六月。今日はすっきりとしたいい天気で、なずなは店が定休日の父に洗濯を頼んだ。


「じゃあ、お願いね、パパ。いってきます」

「いってきます」


 まだ、眠そうな良介はあくびをしながら、返事をする。しかし、娘が昨日の夜あれだけ怯えていたのに、朝になるとあっけらかんとしていて、ほっとした。良介は洗濯機が回る間、ソファーに座り新聞を読む。



「令和の切り裂きジャック現る」



 街で二十代の女性が、深夜に切り裂かれる事件の全容が、新聞に掲載されている。


「喉、腹、腕を切り裂かれ…怖いな…」


 ピピっと洗濯機のエラー音が鳴る。良介は腰を上げて、浴室の洗濯機を見に行く。何故かガチャガチャと音がした。


「ん…っ?なっ…⁈」


 小さな鬼のような生き物が良介に飛びかかって来た。


「なんだ⁈」


 良介は咄嗟の事で、身を屈める事しか出来ない。すぐさま、状態を戻すが、もうそこには何もなかったのだった……。

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