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蛍奇譚  作者: 玉楼抹茶
4/6

学校

あれからすぐに、荷物を纏め、鬼門を潜る。門番に挨拶をすると、やや緊張し過ぎた面持ちで、門番は蛍と三吉に敬礼する。

 どうやら、この門番は新入りで、先日の話を聞いているらしく、余計に顔が強張っている。

 門番が倒された話は地獄全土には広まっていないらしく、門を潜る前にある妖怪達の商店街はいつも通り、妖怪達で賑わっていた。

 多分、閻魔が混乱を招かないように口止めをしていたのだろう。





 蛍達の荷物は多く、人間界に着いた頃には蛍はへたへたになっていた。

 荷物は殆ど、三吉が妖怪商店街で買った人間界ではまず手に入らない酒類や食べ物で溢れかえっていて、蛍の荷物はごく少量だ。

 それでも、手が空いているからと言って、荷物を持たされたのだ。

 人間界に着くと、ドームハウスが山の麓に用意されていた。とりあえず、兄と住む訳ではなさそうで、蛍はそれが一番安心できた。

 ドームハウスは、蛍が使う主寝室と、他に三吉の寝室、キッチンダイニング、バスルーム、トイレ、リビングと人間達が使うのと変わりのない構成だ。

 ドームハウス故にやや、部屋の形が歪であったが、寝る所さえ確保できれば、蛍は快適である。

「坊っちゃん、食事ですよ」

 ベッドに横たわっていると、三吉の声が聞こえて来た。蛍は、舌打ちをして、ダイビングの方へ向かう。

 食事や洗濯は、基本的には三吉がしてくれる。

 でも、どうせなら可愛い女の子がいい。


「生きてる人間の女の子を飼いたい」


 ダイビングに来て、開口一番に蛍がそう言って、三吉は口を開けたまま、しばらく閉じれなかった。


「ああ、坊っちゃん。人間は犬畜生じゃありません。第一、ここじゃ人を飼う事はご法度です」


 三吉はやっと開いた口でそう言ったが、蛍は納得してないようだった。


「…じゃあ、飼わない。その変わり…攫ってくるのは?」

「もっとダメでしょうな。さあ、早く汁物が冷めてしまいます」


 蛍に釘を刺したのはいいが、三吉はこの先が心配だった。

 何しろ、世間知らずで、地獄でも浮いた存在だった。小さい頃から、地獄の看守になるよう教育されて、いざ妖怪が暴れた時の倒し方、逃げ出そうとした妖怪達の捕まえ方…色々教えたが、人間界の知識はないに等しい。


 それにしても、女に興味を示すとは。だいぶ成長しているようだ。体躯も大きくなった。ふと、三吉が感心していると、テレビの音が聞こえる。


「今日のゲストはネットアイドルの柚月さんです」


 テレビの内容は、音楽番組らしく、蛍が食い入るように見ていた。アイドルが、歌ったり踊ったりしている。


「こういう娘がタイプですかい?」


 よく見ると、アイドルの歳の頃はまだ10代。蛍も人間なら、丁度同い年である。

 蛍は質問に首を振った。


「…随分、怨まれているよ。この子…ククッ」


 蛍は、そう言って高らかに笑い出したのだ。

 

 暫くして、現れたのは一つ目坊だった。彼は目が一つしかない妖怪だ。

 だが、その目は大きく、成人男性の手くらいの大きさである。彼は大層立派なスーツを着こなしている。まるで服と一体化しているようだった。


「さて、月曜日から来て頂くのですが、一応形として、転校して来た事にします。そして、こちらが我が校の教科書、制服一式、その他諸々、学科としては進学科、普通科とありますが、蛍様は、人数調整と学力を総合しまして、普通科になります。ここまでで何か質問は?」


 一つ目坊は、蛍に聞いたが、蛍はまるで興味がなそうに欠伸をしている。仕方なく三吉が代わりに答えた。


「普通科と進学科の違いは?」

「そうですね。普通科だと、卒業すると大学へ進学もしくは、就職。進学科だと、よりグレードの高い大学へ。蛍様は、今後人間界で大学へ行くつもりでしょうか」

「興味ない」


 蛍はまるで人ごとのように応える。


「あ、いや。こりゃ失礼。まだ考え中だと言う事です」


 三吉はとりなして応える。一つ目坊は、苦笑いをするが、一つしかない目は笑っていなかった。かわりに、口元だけを歪ませていたのだ。


「まあ、来たばかりですし。そのうちに興味が湧いてくるでしょう」


 その後、制服やジャージなどの衣装合わせを行い、一つ目坊はホッとした。


「では、これにてお暇させて頂きます」


 一つ目坊が何か唱えると、彼の眼は二つになり、それに合わせて顔が変わり、中年ぐらいの男性の姿になり外へ出て行く。

 こうやって、彼は人間界に馴染んでいるのだろう。


「待ってよ。頼みがある」


 蛍が一つ目坊を呼び止めた。

 

 一つ目坊は、待機させていた車に乗り込んで、運転手に自宅へ向かうように命令する。


「…噂通りの体たらく。問題を起こさないといいのだが」


 一つ目坊は、小声で悪態をついたのだった。そして、スマホを背広のポケットに手を伸ばして、電話を掛けたのだ。

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