おばけ
ミシッと言う音が鳴ると、少女は天井を見上げる。当然、上には何も無いのだから、意味は全くないのだ。
味噌汁が沸騰しそうになり、慌てて火を消す。
味噌汁は、沸騰すると風味がなくなり、美味しくなくなる。
もうかれこれ、六年以上家の家事をやっている。それで覚えたのだ。
最初のうちは、家庭科の教科書を見ながら料理していたが、最近はスタンダードな料理なら大抵の物は本を見る事は無くなった。
焼けた鮭とサラダを三人分、皿に盛っていく。なかなか、綺麗に盛り付けられたと嬉しくなる。
スマホをエプロンのポケットから取り出し、写真を撮ろうと構えると、今度は大きめの音でパキッとなったのだ。
びっくりして、サラダの上にスマホを落とした。
「姉ちゃん、今日のご飯…うわー、それ最悪だね」
弟の弘海が、サラダの中に落ちているスマホを見て、苦笑いをしていた。
「本当…あの音、どうにかならないかしら?」
少女が怯えていると、弘海は揶揄うように笑うのだ。
「姉ちゃん、まだあんなの怖いの?」
にやにやしている弘海に少しムッとしたが、すぐに高校生にもなって馬鹿みたいだと思い直す。
「なずな、弘海。ただいまー」
父の吉永が帰ってきたので、二人で玄関で出迎えた。
なずなが、父に夕飯が出来た事を伝えると、またミシッと音が鳴ったのだ。
なずなは一瞬、天井を見上げるが首を振る。
「…お化けなんて、妖怪だなんて居るわけない」