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ベーダーマン  作者: マカロニサラダ
9/37

⑨朝の微妙な会話

     ◇


 だが、俺は首を横に振る。


「いや、気が変わった。今日はもう疲れたから、その話は明日にしよう」

「は、い?」


 言うが早いか、俺は風呂からさっさと上がり、更衣室へ向かう。

 当然とばかりに、俺の後ろ姿をシーアは凝視した様だ。


「って、待ちなさいよ! ここまで引っ張っておいて、今更出し惜しみする気ッ? ……それとも、まだソノ話をするほど私に気を許してないって事?」


 彼女の追求を前に、俺は気のない返事をする。


「そんな事は知らん。これは単に、気分の問題だ。でも、そうだな。お詫びに今日はおまえが俺の部屋のベッドを使っていいぜ。俺は客間で布団を敷いて寝るから、どうかお気遣いなく」

「……というか、何で帝の方が私よりボインなの?」

「へ? 何か言ったか、シーアさん?」

「べ、別に何でもないわよ! 良いわ、わかったわよ。アンタなんて、さっさとク■して寝ればいい!」


 ……何だか、また嫌われてしまった。

 シーアさんに、嫌われてしまった。

 ま、それはそれとして、俺は速やかにこの場を後にする。

 二分かけて宿題を終わらせ床に就き、この長すぎた一日を漸く終わらせたのだ。

 ああ。因みに、ちゃんとク■もしましたよ。


     3


 俺が目覚めたのは、それから六時間はたった頃。

 午後十時には眠った俺は――午前四時にはもう目を覚ましていた。

 俺はセーラー服に着替え、伸びをした後、客間を出る。

 取り敢えず早朝の日課を果たすべく、シーアを叩き起こす。

 まだ寝ぼけている彼女を剣の柄に乗せ、外に出て家のドアを施錠し、走り込みを行う。

『重』の概念を纏いながら西へ移動し、沖縄まで行ってから家に帰る。

 凡そ二時間ほどでその作業を終え、今度は朝食と学校で食べる弁当作りに勤しんだ。

 戸棚から重箱をとり出し、俺は思い出した様に手を叩く。


「ああ。そう言えば、シーアは学校にもついてくるのか」


 俺から二十メートル以上離れられない以上、当然そうなるだろう。

 そのシーアさんと言えば、未だパジャマ姿で顔をしかめている様だ。


「ちょっと待って? 今、明らかに変な事があった様な? あなた、たった二時間で沖縄から家まで往復したって言った……?」

「言ったけど、それが何か?」

「あの、リニアモーターカーだって沖縄まで四十五分はかかるのよ? なのに生身のニンゲンが、それに近い真似をした?」

「いや、細かい事は気にするな。こんなのは基礎練習の一つだ。現に、世に名高きバソリー皇も、一秒未満で地球から太陽まで往復したって話だしな」

「バソリー皇って誰っ? 急に私の知らない皇様が出現したんだけ、一体どういう事っ?」

「それよりシーアは弁当、和風が良い? それとも洋風?」


 俺が話をガラリと変えると、シーアもソレに乗っかってきた。


「なら……和風で」

「オッケー。じゃあ、居間でゆっくりしていておくれよ。すぐ片づけちまうから」


 エプロンをつけ、鼻歌交じりに調理を開始する。

 シーアは気持ち悪そうに俺を一瞥した後、居間に赴く。

 テレビをつけ、朝のニュースなどを見ている様だ。


「そう言えば、一応訊いておくんだけど、帝の学校って共学?」

「ゲハハハハ……! まさか。そんな訳ねえだろ? 女子高だよ、女子高。それも、かなりのお嬢様学校」

「……うわ。そう聞くと蝶の群れの中に、ウジ虫が紛れ込んでいる感じね?」

「だれがウジ虫だ。そのウジ虫に養ってもらっているのは一体誰だ? わかっているか? おまえ、昨日から俺が稼いだ金で飯食わせてもらっているんだぞ?」

「すんませんでした――っ!」


 謝ったっ?

 意外にも、シーアさんはアッサリと頭を下げてきた!


「んん? と言う事は、やっぱおまえちゃんと飯食わないと餓死しちまうのか?」

「ええ。そう設定されているわね。どうもマスターになった人間と、同じ栄養摂取法をしなければならない様だわ、私。つまり、マスターがヘソの穴で物を食べる生き物だったら、私もそうなっていた」

「……フーン。気持ち悪っ!」

「――それって誰がッ? 私じゃなく、その謎生物がよねっ?」


 それで、朝の会話は終わった。

 シーアに朝食を提供した後、俺は一時間かけて弁当を仕上げ、ソレを鞄に詰める。

 万全の態勢を整えた後、俺はシーアの傍に向かう。


「と言う訳で、いよいよ登校です。……うぷぅ。マジで吐きそうです!」

「何でッ? 何でそんなプレッシャーを感じている訳っ? 日本の学校って、もっと楽しい所じゃないのッ?」

「少なくとも、私にとっては違います。シーアさんが例えた通りですよ。私の本性はウジ虫なのに、皆に合わせ蝶を装わなければならない。バレれば、即社会的に葬られる。私にとってはそんな危険地帯ですね、あそこは」


 俺が危機感を募らせる中、逆にシーアは意味不明と言った表情で眉根を寄せる。


「ま、良いわ。そこら辺の事情は実際お目にかかればわかる事でしょうし。と言う訳で、帝、私に対して跪きなさい!」


 え? こいつ、朝から何言ってんの?

 ついに、頭が狂った?

 と、そうか。シーアは俺が立ったままだと、柄に乗れないんだった。


「わかりました。私もシーアさんのあんな姿は二度と見たくないので、要求に従います」


 因みにシーアさんの〝あんな姿〟とは、必死に柄によじ登ろうとしていたあの痴態である。


「うっさいわね! せっかく新しい機能を引き出せる様になったのに! もう教えてやらないわよっ?」

「……新しい機能ですか? 驚いた。シーアさん、ちゃんとお仕事していたんですね? で、それは一体どんな機能?」


 シーアはわかりやすくドヤ顔になる。


「ふふん! 聞いて驚きなさい! 何とこの剣の大きさを三メートルから一メートルに縮める方法を発見したのよ、私は!」

「………」


 違っていた。

 俺が期待していた物とは、全く違った返答だった。


「……で、この剣の正体については?」

「アハハハ! そんなの、一日やそこいらでわかる訳ないじゃない! アハハハ!」


 このシーアさんの余りの態度に対し、俺は思わずある種の忠告を口にする。


「じゃあ、私も一応教えておきますね? 私達の世界は本当の意味で男女平等なんです。男女の間に、筋力差とかありませんからね。女性を労わるって気持ちが薄いんですよ、私達って。

 シーアさんも、これからはそういう事を念頭に置いた上で発言した方が良いですよ?」

「アハハハ! なにを言っているの帝は? 私、全然意味がわかんない! アハハハ!」

「………」


 何と言う、鉄壁なる理解力。

 どうも俺ではこの防壁を突破するのは無理だと判断し――さっさと登校する事にした。


 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 マカロニサラダは皆様の、評価をお待ちしています。


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