表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ベーダーマン  作者: マカロニサラダ
8/37

⑧ディープな話題

     ◇


 俺とシーアが家に戻ってきたのは、午後七時半を回った頃。

 俺はドアを開けて靴を脱ぎ、玄関に上がり一度だけ大きく息を吐く。


「じゃあ、明日も忙しいし。今日はもう風呂入って宿題して、ク■して寝よう」

「そして家に帰ってきた途端、本性まる出しか。あなた、マジで何者なの……?」


 けれどソレには答えず、俺はそのまま脱衣所に入る。

 浴室が隣接されているその場所は、正にこれ以上ないプライベートルームと言えた。


「……え、あれ? ちょっと待って? まさか帝ってば、私ごとお風呂に入るつもり?」

「んん? 勿論そのつもりだけど、何か問題が?」

「………」


 シーアさんは沈黙した後、剣の柄から飛び降り、唐突に俺の顔面をグーで殴った(けど、全く痛くなかった)。


「このド変態! あんた、私があんたの中身はおっさんだってわかっているのに、一緒に風呂に入ると思うっ? ちょっと可愛くて美人でおちゃめさんだからって、調子に乗らないで!」


 ……え? 俺、今、貶された? それとも褒められたのか?

 後、俺は多分おっさんではない。


「いや、そうは言うが、俺、今更ながら気付いちまったのよ。初めて遭遇した時はイキナリだったから、おまえの裸に気が動転したけどさ。実は俺、女の躰とか、全然興味ないって。

 だってそうだろ? 俺はもう、かれこれ十一年は女として過ごしているんだぜ?

 だったら胸だろが■だろうが、もうどうでも良いっての。

 いい加減、見慣れちまって今じゃ屁も出ねえ位だ。

 だから、安心して良いぜ。おまえの身の安全は、俺が命を懸け保証する」

「わかった」

「………」


 え? わかったの? 今の説明で?

 こいつ、ここまでアホだっけ?


「なら、これで手を打とうじゃない」


 途端、シーアの服は、黒のビキニに変化する。

 続けて彼女はギロリとした視線を、此方に向けた。


「ええ。帝にはまだまだ訊きたい事があるし、丁度いいわ」


 さっさと一人で浴場へ向かい、彼女は扉を閉める。

 俺は意味不明とばかりに首を傾げた後、シーアの如くセーラー服を変化させる。

 一糸まとわぬ様に変え、俺も彼女の後に続いたのだ。


「って、本当に何も着てないッ? あなた、その子に対して何の罪悪感もないのっ?」

「……罪悪感? ナニソレ? だって、これは俺の躰だろ?」

「た、確かにそうだけど、あなた、自分は男だって自覚はあるんでしょう? そ、それなら、タオルの一枚でも纏うべきじゃ……?」

「いや、おまえの言いたい事もわかる。でもなー、コレが俺の躰だって言うのも紛れもない事実なんだ。もうどうしようもない、宿命なんだよ。この宿命から逃れる方法があるとすれば、ソレは俺が自殺する位? でも、それで喜ぶやつって居るのかな? 俺の父や母は、大歓迎してくれる?」

「………」

「それとも、この躰の持ち主は、命より貞操を重んじる性格なのか? おまえはそう言い切れる? そう保証してくれるのか? だったら確かにこの状況は、俺も不味いとは思うけど」

「……わかった! わかりました! 本当にあんたは、口を開けば屁理屈ばかりでマジでムカつく~~!」

「ああ。でも安心して良いぜ。俺は神に誓って、性的な事だけはまだした事がねえから」

「うるさい! 力一杯うるさい! あんた女子の尊厳を一体なんだと思っているのっ?」


 相変わらず、きめ細かいツッコミを連発するシーアさん。

 いや、無駄な会話で時間を浪費した感は否めない。

 その埋め合わせる様に俺はシャワーで汗を流した後、沸かしておいた風呂に浸かった。


「……って、何で私の方がドキドキしてるのよっ」

「は、い? 何か言ったか、シーア?」


 背中越しに、何故か俺の方をチラチラ見てくるシーアさんに問う。

 なぜか返事は返ってこなかったが、そんな彼女に俺は極自然な提案をした。


「で、話って何だ? というか、立ち話もなんだし。おまえも浴槽に入るか、椅子に座って体でも洗えば?」

「はいはい! 余計なお心遣いをどうも!」


 どうやら後者を選んだらしいシーアは、木製の椅子に座って体を洗い始める。

 俺に背を向けたまま、彼女は口を開いた。


「で、結局、帝や周防とかいうヒト達って何者なの? なんで学生の帝が、あんな危険な仕事に就いているのよ?」


 一体どんな心持なのか、珍しくシーアは真剣な顔で聞いてくる。

 俺は眉をひそめながら、フムと頷く。


「それを説明するには、俺達の事をもう少し知ってもらう必要があるかもしんねえ。

かなり長話になるけど、それでもオーケー?」

「こんな状況で、長湯する気はなかったんだけどね。……良いわ。話てみなさいよー」


 どこか拗ねる様に、シーアは告げてくる。

 その様子がおかしくて、気が付くと俺の頬は気持ち緩んでいる様だった。

 この正体不明の心境を脇に置き、俺は言葉を紡ぐ。


「時に、シーアは超ヒモ理論って知っている?」

「超ヒモ理論? それってあらゆる事象は、超極小のヒモの振動によって形作られているってアレ?」

「簡単に言えば、そう。更に言うと、ヒモにはその事象を形作る特有の振動パターンがある。重力には重力の。斥力には斥力の。そう言った感じで、事象ごとに各々振動パターンが違うんだ。なら、その振動を起こさせている指令はどこから送られてくるのか? なんでも、全十一次元にも及ぶ別世界かららしいぜ」

「……はぁ。そこまでは私も知っている。で、ソレがあなた達とどんな関係が?」


 はやくも興味がない様な表情を見せる、シーアさん。

 俺はなるべく簡潔に説明できる様、頭を働かせた。


「ああ。実はこの前、この町にやって来た幼女が言っていたんだ。何でも俺達はその更に一つ上の次元、つまり十二番目の次元の指令を受信できる生き物だと。俺達が謎の能力を使えるのは、そう言った理由からとか」

「は、い?」

「うん。何でも――『七の人柱』とか言うらしいな。その指令を送っている連中というのは。だからその『七の人柱』のテリトリー外に居ると、俺達は何の能力も使えないとか。

 で、こっからがまたややこしいんだけど、俺達の能力は大きく二つに分けられる。

 それが――〈体概具装〉と〈精神昇華〉だ。

 この力のレベル一から二までが――〈体概具装〉と呼ばれている。三から六までが――〈精神昇華〉という事になる。

 両者の共通点は――世界そのものから概念を引き出し使役する事だ。そして前者の力は、主に身体能力の向上や変化だな。

 さっき説明した通り脳内の処理速度を『加速』させ、それに見合った『強化』を行う事。これがレベル一の基本的な〈体概具装〉だ。

 で――レベル二は三より難易度が高い。こう、三つ目の腕を生やしたり、肉体の一部を飛ばしたりする術でさ。肉体を弄るもんだから、それなりに習得が困難な訳よ。

 そして――後者の〈精神昇華〉だ。これを使うには、何の努力もせず、ただ契約するだけでいい。『歪曲者』とかいう、宇宙の中心で全銀河をグルグル回転させている謎存在と。

 因みに所持できる〈精神昇華〉の数は、一つの人格で最大三つだけ」


 この冗長な説明を前に、シーアは違ったところで眉をひそめる。


「……宇宙の中心で? それってやっぱり――『第三種知性体』?」

「んん? なんか言ったか、シーア?」

「……いえ、何でも。良いわ、続けて」


 やはり不機嫌な表情のまま、彼女はその先を促す。

 俺は遠い目をしながら、オッパをガリガリ掻き、ソレに応じた。


「そう。そいつに具体的な能力の内容と、発動条件を伝えれば契約は終了だ。超絶的な痛みを覚えた後、俺達はその能力が使える様になる」

「でも、その一方で余り大それた力を求めると、発動条件自体が厳しくなるのね? 下手をすれば、術者の命その物を代価にしなければならないとか、そういう事でしょ?」

「当たり。さすが。飲み込みがはやいな、シーアは」


 伸びをしながら、首肯する。

 まだ体を洗っているシーアは、何故か更に顔をしかめた様だ。


「それでレベル四は経験値を溜めて、レベル三から力を上げた状態なんだけどさ。基本、三の延長に過ぎない。ただ力の規模が増し、現象媒介ってアイテムが付属されるだけ。けどコレが厄介で、此奴はある業を使わない限り破壊出来ないとか。なんでも、ブラックホールに落ちても無傷ってふれ込みらしいぜ。その現象媒介を破壊さえすれば、術者は能力を暫く使えなくなるってのに」


 そこで、俺は一度言葉を切る。それから、目を細めながら思わず天を仰いだ。

 それだけの理由が、俺にはあったから。


「で、レベル五だけど、ぶっちゃけこれを使えるやつとは戦わない方が良い。文字通り、レベルその物が違うから。何せレベル五の使い手は―――世界の歴史そのものを自分の力に変えやがるんで」

「世界の歴史そのものを、自分の力に変える?」

「ああ。例えば、過去に某所で核実験が行われたとするだろ? レベル五の使い手はその事実があるってだけで、その過去を再現できる。平たく言えば、自分の好きな時に好きな場所で、核爆発を起こせるんだよ。それが、過去から現在に至るこの星の歴史をそのまま使役できるレベル五の能力者。『界理種』と呼ばれる――世界に五十人しか居ない化物どもだ」

「核っ? 核ですってッ? じゃあ、今日襲ってきたやつは、アレでもまだマシな方……?」

「うん。まだ、全然ザコだな。レベル四の使い手ではあったけど、ただそれだけの話だ」

「あれで、ザコ……」


 唖然としているシーアさんを尻目に、俺は重要な話をはしょっていた。


「それで最後にレベル六だけど、これは割愛して良いだろ。どうせこいつの使い手なんてお目にかかれる訳ねえんだし。ま、ここまでが俺達の能力についてだけど、何か質問あっか?」

「いえ、今のところ無いわ。じゃあ、そろそろ本題に入ってくれる? 帝がしている仕事の内容と、あなたがその職に就いている理由は何?」


 そう言ってシーアは――更に厳しい視線を俺に注いだのだ。


 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 マカロニサラダは皆様の、評価をお待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ