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ベーダーマン  作者: マカロニサラダ
7/37

⑦それがあるミスに繋がって

     ◇


 ドスンと彼の躰が倒れる音が周囲に響く。

 俺は背後を振り返り、件の大男が昏倒する様を目撃した。


「……と、しまった」

《は、い?》


 俺の呟きを前に、シーアは不思議そうに首を傾げる。

 このとき彼女は、俺に唖然としたような視線を向けた。


《って、帝って、やっぱけっこう強い? でも、なかなかつまらない仕事ぶりね。私、あなたなら、もう少し出来ると思っていたのだけど?》 

《………》


 それが、アレほど取り乱していた女の言う事か?

 俺の事なんて、これっぽっちも信用してなかったじゃねえか。

 

 そうは思いつつも、俺は真逆の返答をシーアにする。


《いえ、違います。やりすぎました。今のは明らかに、感情的になった私のミスです》

《へ?》

「……って、このバカチンが。私は〝引っかけ〟って指示したよね? なのに、何アンタが倒してんの、神代?」


 頭を抱えながら、周防絵里が私に近づいてくる。

 彼女の背後には、瀬谷敬吾も居た。


「というか、驚いたな。神代、おまえ、そんな事も出来たのか?」

「いえ、偶々。偶々ですよ、瀬谷先輩」


 例によって営業スマイルを浮かべながら、謙遜する。

 この間に、俺は〈大概具装〉を使って服を復元する。


「偶々、ね。おまえはやつの体勢を崩し、止めは俺が刺す予定だったんだが。その予定が狂ったのも偶々か?」

「そうですね。これは、私の不手際でした。この通り、謝罪します」


 両手を前に組んで、しおらしく可憐に、頭など下げて見せる。

 ソレを瀬谷敬吾は、感情が無い目で眺めた。


「ま、良い。神代には何時も、おいしいところを譲ってもらっているからな。今日のところは貸しにしとく。だが――次は無いぞ」

「それは、どうも」


 酷薄な笑みを浮かべながら、瀬谷敬吾は踵を返す。

 そのまま彼は、闇の中に消えて行った。


《ね、言ったでしょ? 出る杭は打たれる。若輩者が前に出すぎると、背後から味方に刺されかねないんですよ、この業界は》

《……はぁ。というか、あのヒトも強そうね? 一体何者?》

《彼は、瀬谷敬吾。私より五つ年上で、町保の中では周防先生についでナンバー2の実力者です。それが何か?》

《いえ、ただ訊いてみただけなんだけど》


 つーか、本当にそれだけっぽかった。

 シーアさん的には、余り関心がない様だ。


「で、其方の首尾は? 上手く行きました?」

「ああ。予定が狂ったのはオマエの方だけ。あからさまに囮っぽいソノ大男はやっぱり囮で、斥候がこの街に潜むのを確認した。今、智年と小菅が尾行中だ。と――丁度時間切れか」


 周防絵里がそう告げるのと同時に、この町の景色は一変した。

 具体的には、崩壊した筈の家々が次の瞬間、再生する。


《……なにこれ? これもあなた達の妖術?》

《そんなところです。一時的にこの空間を、別空間に『隔離』しました。尤も、維持できる時間は五分程ですが。でも、この結界のお蔭で、人的被害も器物破損も零に出来る》

《正直、たまげた。あなた達って、そんな事も出来るんだ?》


 が、感心するシーアを余所に、俺は周防絵里に視線を向けた。


「それで、周防先生的にはどう考えています? さいきん頻繁に起こる襲撃は、大規模な侵攻が起こる前触れだと思いますか? それとも、彼等の狙いは別にある?」


 俺が訊ねると、周防絵里は数秒ほど物思いに耽る。

 彼女の表情は、些か深刻そうに見えた。


「だな。私的にもこれはブラフだと思っているよ。この白波町に対する攻撃はほかの町の目を欺く為の陽動。私としては鴨鹿町が本命だと睨んでいるんだけどアンタも同じ意見、神代?」

「ですね。鴨鹿町は、ほかの町とはレベルが違いますから。楔島側としては、一刻も早く陥落させたいところでしょう。しかもその鴨鹿町は今、弱体化しているとの事。なら、私も大規模侵攻があるとすれば――鴨鹿町だと思います」


 俺の推理が引き金となり、周防絵里はまたも頭を抱える。


「でもだからと言って、此方の戦力を回す余裕は私達には無い。ホント、頭痛いわー。やってられないわー。……鴨鹿の連中、上手くしのぎ切ればいいんだけど」

「はい。ぶっちゃけ鴨鹿町が落されたら――この国の『異端者』は終わりですから」


 俺は溜息交じりに応対し、周防絵里はその時点で踵を返す。


「ま、良いや。今は様子見だ。受け身な様だけど、今後の方針は敵が動いたあと決めるべ。そういう事だから、アンタは明日ちゃんと学校に行く事。命令無視までしといて、今日の事を理由にサボるなんて許さんからな」

「ええ。周防先生も、くれぐれもご自愛下さい」

《………》


 あ、なんか、シーアさんが俺の事を冷たい目で見ている。

 余程いまの俺が普段の俺と違いすぎて、気持ち悪い様だ。

 彼女の露骨な視線に晒されながらも俺は周防絵里を見送り、この場を後にする。

 今日の事が後にとんでもない事態を招くと知らぬまま――俺達は自宅に戻った。


 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 マカロニサラダは皆様の、評価をお待ちしています。

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