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ベーダーマン  作者: マカロニサラダ
6/37

⑥帝の死闘

     ◇


 いや、話はまだ終わってなかった。

 シーアは憤慨とした声で、続ける。


《だったら、そんなやつ、島の皆で倒しちゃえばいいじゃない。キロが帝の言う通りの危険人物なら、島民は皆そいつを嫌っている筈でしょ? 喜んで袋叩きにするんじゃないの?》

《ええ。それも試したのですが、伝承によるとこうです。かの『皇』は、たった一人で二十万に及ぶ反乱軍を皆殺しにしたとか。

 ぶっちゃけ、私達とは強さの次元が違うんです、キロ・クレアブルというのは。

 恐らくですが、私やシーアさんの想像を遥かに超えている筈ですよ》

《そ、そうなんだ? てか、今更だけど、なんでテレパシーでも敬語? 誰にも聞かれてないんだから、普段通りでいいんじゃあ?》

《いえ、油断はできません。この念波だって、誰に傍受されているかわからない。そう言った意味では、現状を維持するのがベストです。

 私の正体は、何者にも勘付かれてはならないのだから》

《あ、そ。で、ここからが肝心なのだけど、その侵略者って強いの?》


 些か声を震わせながら、シーアは問い掛ける。

 俺は、フムと頷くしかない。


《物によりますが、大部分がこの町の町民より遥かに強いです。一応、この町の人々も何らかの能力を使えますが、楔島の住人はレベルが違う。絶えず生死のやり取りをしている彼等と、この町の一般人では大きな差がありますから。例えば――あんな風に》

 

 と、俺はここから五十メートル離れたソノ場所を指さす。

 見れば其処には、身長三メートル程の筋肉の塊が五メートル以上ある鉄の棒を振っていた。


《……え、嘘でしょ? あいつ、棒を一振りしただけで、二階建ての一軒家を一つ吹き飛ばしたわよ? ……帝は、あんなのと戦うつもり?》


 引きつった笑みを浮かべながら、シーアは問うてくる。

 俺は、勿論とばかりに首肯した。


《一応。それと、これ以降は戦いに集中したいので、会話は最小限でお願いします》


 実際、俺は一気にその肉塊向かって、走り出す。

 最中、此方に並走する影があった。


「遅い――神代。何をしていた?」

「すみません、特に何も。最大最速を以てこれです、周防先生」


 些か嘘をつきながらも、真顔で断言する。

 周防絵里は当然の様に、今はそれ以上追及しなかった。


「にしても、今回はずいぶん派手なのが来ましたね? 見るからに強そうですが、周防先生はあんなのを候補生にぶつけるつもりですか?」

「ああ、私は自分の教え子を信頼しているからね。平気、平気。神代なら何とかか出来るよ、多分。それとアンタ、無知を装うのは良くないな。神代もとっくに気付いているんだろ?」

「まあ、一応」

「なら、話は簡単だ。私達は潜むから、アンタは〝引っかけ〟に専念。良いね?」


 周防絵里が跳躍し、気配を消す。

 即ちこの場に残されたのは、俺とシーアだけ、という事になる。


《うわ、うわ、うわ! 死ぬ、死ぬ、死ぬ、これ、ぜったい死ぬって――っ!》


 唯一の標的である俺に気付いたのか、例の肉だるまが此方に振り向く。


 愉快な事に件の肉塊は、駒の様に回転し始めた。


《だから、会話は最小限でお願いしますと言った筈ですが、シーアさん?》

 

 その度に、面白い位の勢いで、次々家々が薙ぎ倒される。

 かの暴風は一直線に俺へと向かい――俺は当然の様に踵を返して逃走した。


《とか言いつつ、あなたも必死に逃げているじゃない! 帝ってば、あいつに勝てる自信があるじゃないのッ? というか、掠った! あいつの棒、今、私の髪に掠った!》

《そういえばシーアさんの事は計算に入れず、逃げていました私》

《だからソコ! ソコが一番大事なところでしょっ?》


 いや、別に良いだろう?

 あんたはバリヤーとやらで、守られているんだから。

 但し、どれほどの強度かは知らないが。


 と言う訳で、この際シーアさんの事はいったん忘れる事にする。

 俺は何時もの調子で事を運ぶべく、ひたすら敵から逃げ出す。

 そのまま、やつを広場まで誘導する。


 だが、その前にやつが動く。


「やはり、そう上手くはいかない、か」

 

 例の暴風は飛び跳ね、直下して、俺の行く手を阻む。

 つまりは、袋小路だ。

 この細い路地でやつの相手をするのは、正に自殺行為と言って良い。


 故に、俺は大男の放ってきた一撃を何とか避けながら――秒速一キロメートルで跳躍。

 三時の方角にある、民家の屋根へととりつく。

 大きく息を吐き出し、果たしてソノとき俺は見た。


 その肉塊が能力を使う――かの瞬間を。


「――不味いっ!」

《はッ?》


 歯を食いしばりながら口角を上げ、俺は眼を広げる。

 名も知らぬ肉塊は、雄叫びを上げながら振り上げた鉄棒を一気に振り下ろす。


「おおおおおおおおおおおお……っ!」


 ソレは『再生』と言う名の――颶風。


『彼が今まで行ってきた暴力の歴史を一点に集中し、放つ事が出来る』――暴力の権化。


 お蔭で、俺の目前にある家々は軽く百棟は消し飛び、当然の様に俺の躰も吹き飛ばされる。

 ならば、神代帝は――その時点で死んだ。


 いや――死んだ筈だった。


《……はッ? アレっ? 今、どうやったの……ッ?》


 だが、シーアが呆けている間に、俺は目指していた広場に着地する。

 完全に死んでいる筈の俺は、何とか百メートル先にある広場に逃れていた。


《いえ。今のはただの、レベル一の〈大概具装〉です。

 脳の処理速度を『加速』させ、それに見合った『身体強化』を行っだけ。

 要するに認識レベルと、膂力の一時的な向上ですね》

《――そ、そんな事ができるなら、さっさと使いなさいよ!》

《いえ、余り意味はありませんから。何せ、これは私達なら誰でも使える業なので》

《はい……? で、でも、それなら何で? ……って、もしかしてそういう事?》


 意外にも、謎の理解力を見せる、シーア。

 ソレに驚きながら、俺はやつへと視線を向けた後、自分の姿を顧みた。


《……というか、予定変更。〝引っかけ〟は止めです。ここは、シーアさんのご期待に沿う事にしましょう》


 ボロボロに破れた右半身のセーラー服を見ながら、俺はただ棒立ちする。

 男に肌を見られた屈辱に唇を噛み締めつつ、俺は標的の到来を待つ。

 徐に、十歩ほど、後退しながら。


《それに、もう時間も無い》

《え……?》


 終焉の時は、事もなく訪れた。

 この戦いは、実に呆気なく勝敗が決したのだ。


 此方に向かって突撃してくる、巨躯。


 だが彼が『ソレ』を踏んだ途端――彼の躰はまるで地雷を踏んだかの様に吹き飛ばされる。

 上下を逆転させながら宙を舞い、俺の躰を通過した彼は、大きく体勢を崩される。


「バカ、なッ?」

 

 神代帝は、無傷の左肘を、背後に居る彼の躰に添える。

 同時に俺は――能力を発動した。


「ええ。悪いのですが――これで終わり」

「がぁぁあぁ……っ?」


 瞬間、俺の二倍近くある大男は、この時点で意識が停止したのだ―――。


 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 マカロニサラダは皆様の、評価をお待ちしています。

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