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ベーダーマン  作者: マカロニサラダ
4/37

④帝の新しい日常

     2


「つーか、ミニスカハイソックスとかありえねえし。ただの羞恥プレイだろ、アレ? ぶっちゃけ、アレだけ無防備な女子の気持ちが俺には全くわからん。テレビでは〝自分の露出願望を満たす為にしている〟とか評論家が言っていたが、それこそただの変態じゃねえか」

「ああ……そうなんだ?」


 意味のない不満を、ここぞとばかりにブチまける。

 恐れ多い事に、俺は前時代の女子高生のファッションセンスにケチをつけていた。


「って、もしかして帝の守備力が高いのって、その所為?

 肌を晒すのが厭だから、そんなに重武装なの?」

「ま、当たらずとも遠からずだよ。いや、実はもっと明確な理由があるんだけど」


 パスタを茹でながらソース作りに没頭し、ついでに俺は苦々しい表情をする。

 背後でその様子を見ているらしいシーアは、不思議がっている様だ。


「はぁ。もしかしてそれも、〝追々話す〟ってヤツ?」

「あー、どうだろう。知りたければ教えるけど、余り気持ちのいい話じゃないぜ?」


 因みに俺達が今ドコにいて、何をしていると言えば、当然の様に一階の台所に居る。

 そこで俺は料理をし、〝不審者〟から〝食客〟に昇格したシーアは現在待機中だ。

 直ぐ後ろにある机に隣接した椅子に座り、俺が料理をし終えるのを待っていた。


「しっかし驚いたね。誰かと会話していると、時間が経つのがはやいのなんのって。気が付けばもう六時だぜ? 何時もはこの時分まで、どう時間を潰すのかが俺の一番の問題なのに」

「そう。思った通り、あなた話し相手も居ない寂しいヒトなのね? というか、それは意図的に話を逸らしているの? さっきの話とか、実はしたくない?」


 背後を振り返れば、そこには頬杖をつきニヤニヤ笑いを浮かべるシーアが居る。

 この露骨な邪笑を前に、エプロン姿な俺はパスタにソースを絡めた。


「はい、カルボナーラ、二丁上がり」

「………」


 ソレを皿に盛って差し出した途端、シーアさんの目は明らかに死んでいた。

 現に、彼女は不思議な事を口走る。


「……アノ、コレ、あなたが作ったのよね?」

「あ? なに言っていんだ? おまえだって、一部始終見ていただろ? これはどう見ても、俺が作った物に間違いねえよ」

「だから、心配なのだけど……」

「はい?」


 彼女は小声で何か呟くが、それ以上何も言わない。

 ただ俺が席に着くのを待つ。


「何だ、食べないのか? 多分だけど、口に合う筈だぜ? ま、保証はしねえけどな。ゲハハハハ……!」

「………」


 しかし、彼女は尚も動かない。

 この間に席についた俺は、自作のパスタを口にする。


「んん? ちょい甘すぎたかな? ま、良いか。許容範囲だろ、これ位」

 と、漸くシーアは恐る恐るフォークを取って麺を絡め、ソレをジッと眺める。

 彼女がソレを口にしたのは、タップリ十秒は経った頃だ。


 その途端、彼女は何故か仰天する。


「はっ? 美味しいですって――っ?」


 今まさに懐妊を告げに来た天使と遭遇したような表情で、やつは驚きの声をあげる。

 意味不明と言った様に、彼女の頭の周囲には疑問符が乱舞しているみたいだ。


「それは美味いに決まっているだろ。何せ、俺様が作ったんだから」

「だから信じられないんでしょうが! なんで、帝みたいな危険人物に、こんな繊細な味がつくり出せるのっ? これ、明らかに商売とかできるレベルよッ?」

「ああ。必死で勉強したからな。完璧な女に化けられる様に。料理も、裁縫も、日舞も、ピアノも、華道とかまで手を出してさ。今となっては、〝俺、何がしたくてこんなに頑張ったんだろ?〟って、途方に暮れる毎日さ」

「……だから、なんで、そこまでして?」


 依然、理解不能と言った体でシーアは首を傾げる。

 俺は思い出した様に、冷蔵庫から特性サラダを取り出す。


「で――〝俺が男を毛嫌いしている理由〟だっけ? 何? そんなつまらない話、本当に聞きてえの?」

「いえ、私、ソレ初耳なんだけど? 帝、男の人、嫌いなの……?」

「ああ。嫌いっちゃ嫌いだね。というのも他でもねえ。アレは今から、十年くらい前の事だ。俺ってこの通り、可愛いだろ」

「……はぁ。確かに可愛いけど。そうやって自分で自分の事を可愛いって言うヒトは、性格的に問題があると思う」


 けれど、その御意見はスルー。

 俺は、話を続ける。


「で、公園で、一人で遊んでいる時、イキナリ見知らぬ男に押し倒されてさ」

「……ちょ、ちょっと待って? 今更だけど、その話最後まで聞かなきゃダメ?」

「こう、貌をベロリと舐められた訳よ」

「――だから無視しないで! それ、どう考えても食事時にする話じゃないから!」

「でも、俺ってこういう性格じゃん? だから余りの気持ち悪さに、思わず近くにあった石を手に取って、そいつの頭をガンってしてさ」

「………」

「結果、そいつは生死の境をさまよう事になった訳。でもなー、その後がよろしくなかった。周りの連中は〝明らかに過剰防衛!〟とか俺を吊し上げやがって。もう非難轟々で、学校でも俺に話かけてくる男子とか居なくなってさ。気が付けば男のエロい視線とか、もう気持ち悪くて仕様がなくなったって訳よ。俺の守備力が高いとすれば――それが原因かね」


 残念ながら、そういう事だ。

 俺は自分の身を守っただけなのに、周囲の大人達はこぞって俺を叱りつけた。

〝何も死の一歩手前まで追い込む事ないだろう〟と、俺の方が加害者であるかの様に扱った。


 俺が男の性欲と言う物に嫌気がさしたのは、間違いなくそれからだろう。


「つ、つまり、あなたはマジモンで男の人が嫌いだと?」

「ああ、嫌いだね。出来れば――滅びてくれと思っている位に」

「……ヤバイ」

「んん? 何が? 何がヤバイんだ?」

「あ、いえ、このサラダもヤバイくらい美味しいなーと思ってー☆」

「そうだろう。そのドレッシングも、お手製なんだぜ。しかしなんだね。他人に料理を振る舞うなんて初めてだけど。喜んでもらえると、存外嬉しいもんだな」

「……へー。驚いた。帝にも、そんな人並みの感性があったんだ?」


 アレ、マジでビックリしている顔。

 シーアは、真剣に意外そうな表情を見せる。


「だな。俺自身が一番驚いている。まさか、俺がこんなつまらない事を言うなんて」

「ダメだ。皮肉も通じないなんて……最早処置なしね」

「はい?」


 この様に会話が噛み合わないまま――俺達は早々に夕食をすませたのだ。


     ◇


 ソレが起きたのは、俺が食器を全て洗い終えた頃だった。

 実に唐突ながら、携帯よりメールの着信音が響く。


「って、またか。この頃、頻繁だな」


 俺は自分でも自覚する位ウンザリした貌をして、背後を振り返る。

 其処には、怪訝な顔をしたシーアが居た。


「何かあった訳? もしかして帝ってば、やっと自殺する気になってくれたとか?」

「――何で俺が自殺しなきゃいけねえんだっ? それは、この剣が危険な物だった時の話だろっ? 第一――俺が死ねばおまえも死ぬんだぞっ?」

「あー。そういえば、そうだったみたいな……?」

「………」


 こいつ、偶にポンコツじみたこと言いだすよな。

 実は、バグってんじゃねえか?

「で、何なのよ? まさかこの私の、優雅なテレビ鑑賞を邪魔するなんて事態じゃないでしょうね?」

「というより、あなた、何時の間にかこの世界に馴染んでいますね……?」


 某アイドルがMCを務める番組を、枕を抱えて熱っぽく眺めるシーアさんに物申す。

 なんだかもう、完全に某アイドル会社の信者と化している感じだった。


 だって今もイケメンさんがアップになっただけで〝おー!〟とか〝ラッキー、キラ☆〟とか声上げているし。


「ま、一応。何せ私はこの世界の平均データなら生まれた時点でインストールされるから」

「……この世界の平均データを? 要するにこの星の言語や、世界情勢に、テレビ業界のあれこれとかも頭の中に入っている?」


 俺が問い掛けると、シーアは鼻で笑いながら頷く。

 気の所為か? なんかこいつ、ドンドン態度がでかくなっている気が?


「というか、帝ってば何でいきなり〝余所行き口調〟なの? もしかして、本当にどっか出かける気?」

「ええ。不本意ながら、緊急事態です。仕事が入りました。本来なら絶対についてきて欲しくないのですが。シーアさんは私から二十メートル以上離れられないんですよね?」 


 だとしたら、彼女にもついてきてもらわざるを得ない。

 問題は、マジで足手まといになりかねない点だ。


「あー、それなら大丈夫。たぶん帝が感じている問題点は、全てクリヤーできると思うから。それで、仕事って何なのよ? もしかして、やっぱりアレな感じなの……?」

「はい。その〝やっぱり〟です。あなたの私に対するイメージ通り――ちょっとした荒事ですね」


 そう告げながら――俺は身に着けていたエプロンを脱ぎ捨てたのだ。


 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 マカロニサラダは皆様の、評価をお待ちしています。

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