終章 そしてその一歩を
ベーダーマン、終了です。
これが最初の改稿および分割作業ですが、大体計算通りの大変さでした。
やはりどう足掻いても、二日はかかりそうです。
これが後十七回続くと思うと、今から何とも言えない気分になります(笑)。
終章
で、その翌日の放課後の事。
髪をポニーテールにした私は、なだらかに伸びる坂の上からこの一帯を眺める。
「じゃあ、始めます、か」
その姿を見て、何時もの様に剣の柄に座ったシーアが呆れた。
《って、リード・グエルムを使えば、簡単なのに。本当、帝って非効率的よね?》
《いえ。やっぱこういうのは、自分の力でやらないと。私だってはやく済ませたいけど、物には順序があると思うのよ》
一日かけ、漸く機嫌を直した私は、シーアに向かって快活に答える。
彼女は苦笑いしながら、ふんぞり返った。
《後、帝、気付いていた? 貴女――今日一日でえらく人が変わったって噂になっていたわ。頭を打ったとか、不治の病にかかったとか、色んな噂が飛び交っていたわよ。ま、そうよね。アレはまるで、白鳥から宇宙怪獣になった様な変身ぶりだったし》
《だったけ? そんな事、もう忘れた》
うん。昨日までの私とか、もう覚えてない。
自分じゃない自分を演じていた私とか――きれいサッパリ忘れてしまった。
だからだろう。
「あ、居た、居た。神代さんー」
彼女――冴木星良が私の名を呼びながら近づいてきても、私はそれほど驚かなかった。
どうもリード・グエルムは一度成立させた願いは、キャンセルできないらしい。
その為、星良の記憶も結局、消えたままだった。
そんな彼女に、私は何とか普通に笑いかける。
「良かったー。なんか私、今日、あなたに会いにいかなきゃいけない気がして」
「………」
いや、前言撤回。
このエスパー並みの勘の鋭さには、素直に驚愕するしかない。
此方の驚きも察する事なく、星良は腕組みした。
「改めて、四日前のお礼を言わなきゃならないと思ってね。私はこうして君のもとに、馳せ参じた訳だよ」
「……はぁ」
つーか、なんでこんな偉そうなんだよ、この女?
ちょっと、キャラ変してないか?
「と言う訳で、ありがとう、神代さん。なんだか神代さん、今日を境に人が変わったって噂が私のクラスでも持ち切りになんだけどさ。これを機に、私達も――もっと仲良くならない?」
「ああ……」
もう一回だけ、前言撤回だ。
そうだ。忘れていた。
彼女は、星良は、そういう奴だった。
一度結んだ縁を、そのまま素通りする様な奴ではなかったのだ。
そんな初歩的な事に今ごろ気付きながら、それでも私はただ前を向く。
「なら、貴女の事――星良って呼んでいい?」
私は、永遠に果たされないと思っていた、その願いを口にする。
彼女はキョトンとした後、悪戯げに微笑む。
「ええ。私も――帝って呼ばせてくれるなら」
こうして、交渉は成立した。
私は二つ返事で了解し、彼女の脇を通り過ぎる。
「いってらっしゃい、帝! もちろん、直ぐに帰って来てくれるよね?」
「ええ。必ず帰ってくる! だから、それまで待っていて、星良!」
坂の下目がけて走る私は、星良とそんなやり取りをする。
その最中、彼女は告げた。
《全く、確実に見つかるであろうお姉さんを探しに行くだけで、この騒ぎとは。このドシスコン》
《かもね、このポンコツ。というか、覚悟しておいてよ。今日だけで、この星全てを捜索するつもりなんだから》
背後の少女に笑いかけながら、宣言する。
それを受け、シーア・クレアムルはゲッソリした表情をした後、楽しそうに微笑んだ。
《うわ。なんだか聞いているだけで、お尻が痛くなりそう。と言う訳で帝、近くのスーパーで座布団買ってきて》
《……やっぱり貴女って、ポンコツだわ》
うん。
私と、シーア。まだこの関係を、どう表現していいか私にはわからない。
けど、一つだけわかり切った事があった。
「じゃあ、行ってみましょうか! 待ってなさいよ――姉さん!」
そう。
私とシーアは確かに未来に向かって、駆け出していく。
そんな私達を、今は誰も止める事は出来ない。
そして私は彼女と同じ姿をしたあのヒトを迎えに行く為――その一歩を踏みしめた。
ベーダーマン・了
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございました。
読者の皆様には、本当に感謝するばかりです。
次回作は選挙狂想曲という事になりますが、そちらの方も宜しくお願いします。
いえ、マカロニサラダは皆様の、評価をお待ちしています。




