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ベーダーマン  作者: マカロニサラダ
36/37

36全ての終わり

     ◇


 そう。私だけ。

 もう私の後ろにはシーアは居らず、私だけが、そこに居る。

 なら、後の事は、全て私が終わりにしないと。

 だから、私はアパトルテの躰をベーダーマンの掌に乗せた。


「……ええ。もしかしたら、貴女が全面的に正しいのかも。それでも、悪い。私とシーアは、貴女のユメには、つき合えない」


 そう告げた後、今――全ての世界を再生する。

 アパトルテが起爆した空間全てを元通りに再構築し――私は三次元宇宙に帰還した。

 ベーダーマンを私の中に収納し、その場所に降り立つ。

 楔島に行き着いた私達を待っていたのは、少し意外な女性だった。


「正直、なんて声をかけていいかわかりませんが、とにかくお疲れ様でした」

「その声。あなた、もしかして?」

「ええ。直接会うのは、初めてですね。私は、ファミリア・フェレンス。アパトルテ・グランクラスの暴挙を止めようと、レジンスタンスを組織していた者です」


 亜麻色の長髪をなびかせ、ツリ目の女性はそう告げた。

 パイロットスーツらしき物を着た彼女を前に、私は素直に虚を衝かれる。


「驚いた。あなた、アパトルテの部下じゃなかったんですね?」


 てっきり、そうだと思いこんでいた。

 だが、成る程。そのレジンスタンスとしては、アパトルテよりはやくリード・グエルムを奪取したかったのだ。

 その為に、彼女達は私達を襲撃したのだろう。


 それもその筈だ。

 アパトルテがリード・グエルムを手にしたら、全てが終わる。

 なら、彼女達もなりふり構っていられなかった、という訳か。


「では、アパトルテは、私達の手で封印させてもらいます。そこで神代殿にはリード・グエルムを使って、その手伝いをお願いしたい。実に虫が良い話だと思いますが、私達では彼女を完全に封じる事は不可能です。故に、どうか御助力願いませんか?」


 虫が良い、か。確かに命を狙われた私の立場からすれば、そうだろう。

 けど、私は頷く事で、それに応える。


「わかりました。でも、一つだけ約束して。決して彼女を粗末に扱わない、と。私は彼女が何をしてきたか知りません。でも、彼女をこれ以上、傷付けるのだけは止めて下さい。もし、そう約束出来ないのなら、私も何一つ約束できない」

「いいでしょう。その申し出は、このファミリア・フェレンスの名において必ず果たします。では、さようなら、神代帝殿。貴女にとっては面映ゆく聞こえるでしょうが、この世界を救ってくれて本当にありがとう」

「……そう、ですね。本当に、それは、面映ゆい」


 それと、もう一つだけ訂正。

 アパトルテは、私なら妹さんも助けられたと言っていたが、それは違う。


「ええ。そんな訳ないでしょうが、アパトルテ。星良やシーアを犠牲にしてきた私が、そんな奇跡、起こせる訳がない、わ」


 それで、終わった。

 私は彼女に背を向け、さよならを告げる。ファミリアさんも、もう一度さよならと告げる。

 私と彼女の接点は、こうしてアッサリ途切れていた。


 それから――別の少女が私を出迎える。


「ほう? アパトルテさんを封じるという事は、リード・グエルムの性能もかなり落ちる事になる。帝さんも、もう先ほどの様な力は、振るえなくなりますね」

「そうね。なら、あなたが私を倒して、これを奪ってみる?」

 

 私の目の前に出現した、キロ・クレアブルに問い掛ける。

 彼女は笑って、ソレを否定した。


「まさか。寧ろやる気なのは帝さんの方でしょう? 貴女はこれを機にわたくしを倒し、楔島を解放しようとしている」

「……………」


 が、私は何も答えず、天を仰ぎ、ただ彼女の事を想った。


「ええ。たった五日間だったけど、楽しかったよね。楽しんでくれたよね、シーア?」


〝うん〟


「…………」


〝じゃあ、またね――帝〟


 そんな声が聞こえた気がして正面を向くが、当然の様に、其処にはキロ以外いない。

 それでも私は、ぎこちなく笑って、彼女に告げる。


「うん。またね――シーア」


 今、もう一度だけ彼女の為に涙しながら、そんな答えを返していた。

 それが、サイゴ。

 こうして、神代帝とシーア・クレアムルの別離は―――呆気なく終わりを告げたのだ。


 そして、キロ・クレアブルが口を開く。


「というか、帝さん、後ろ、後ろ」

「……は?」


 意味不明と思いながら、私は背後に視線を向ける。


「え……? は……?」


 其処には、何処かで見た覚えがある、少女が居た。


「あははは! えっと。一定時間さえ過ぎなければ、私達、分離は可能だって言ってなかったっけ?」


 ……右手を頭の後ろにやりながら――シーアさんは、そんな事を告げる。

 私は呆然としながら、それでも、シーアさんの後ろに回り込む。


「痛いっ?」


 蹴った。奴の尻を、蹴り倒した。

 そのまま地面に這いつくばった奴を、何度か蹴りまくった。


「お前は、私が、どんな思いで……いや、もういい。もう、どうでもいい」


 私は、今度こそ本題を果たすべく、キロ・クレアブルを視界に収めたのだ。


「そうね。あなたの言う通り、よ。私はこれから、あなたを倒して楔島を征服する。もし降伏する意思があるなら、今だけど、どうする?」


 だが、『皇中皇』の答えは、思いもかけない物だ。


「いえ、その必要はありません。そろそろお別れです。わたくしは楔島ごと消滅する」

「は?」

「これも毎度毎度おこるある実験の失敗による結果です。故に、わたくし達以外のニンゲンを安全な所に転移して下さい。今の帝さんなら、容易い筈なので。それと、最期に言っておきましょう。貴女は、誰にも成せなかった大事を成し得たのよ。だから、胸を張りなさい――帝」

「ああ……」


 そこで、私は、何故か瞼が熱くなる。


「そう、だ。私は今でも貴女を、嫌悪している。貴女は、ただの害物だ。でも、それでも世界中の誰もがそう思っていたとしても、私だけは貴女に感謝する。あの時、助けてくれて、ありがとう。私にアパトルテを倒す力を与えてくれて、ありがとう。姉さんの願いを叶えてくれて本当にありがとう」


 途端、キロ・クレアブルも意外そうな貌をした。


「そう。そうです、か。では叶うならわたくしも一つだけ、お願いが。紅音さんに会えたなら彼女によろしく言っておいて下さい。貴女とのあの出会いがあったからこそ、今、この世界はあるのだと」

「ええ。必ず――伝える」


 それから、キロ・クレアブルはこの場から、消失する。

 私も、彼女達を除いた全てのニンゲンを近くの島に転移させる。


「さようなら――キロ・クレアブル。アパトルテには悪いけど、原型空間に行き着いたのが貴女だったら、多分、私達は勝てなかった」


 こうして私とシーアの五日間に及ぶ戦いの日々は、遂に終わりを告げたのだ―――。



 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 いよいよ、次は終章です。

 私の約五時間に及ぶ苦闘に決着が。

 いえ、マカロニサラダは皆様の、評価をお待ちしています。

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