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ベーダーマン  作者: マカロニサラダ
34/37

34帝とシーア

   ◇


「……あああぁ、ああああぁぁ!」


 いや、蹂躙劇どころの、騒ぎではない。

 アレは、駄目だ。

 アレは、不味い。

 アレを武器に変えた一撃を受けただけで、恐らく自分達は、消滅する。


 アレは、そう言った類のモノ。

 何物をも消滅させる、正に真なる絶対命令権。


 俺はソレを見た瞬間、そう直感した―――。


「つッッッ!」

 

 それでも、俺は必死に考える。

 この劣勢を、挽回する方法を。この窮地を、脱する手段を。


 だが、空間操作能力では、まず負ける。

 今まで空間と融合し、力を増してきた彼女と同じ真似をしても、俺は勝てないだろう。


 なら、どうすれば良い?

 どうすれば、この怪物を――どうにかできる? 


「そうね。では最後に一度だけ通告しましょうか。貴女達――私にひれ伏すなら今よ?」

「くっ、つ……っ!」

 

 微笑みながら、アパトルテ・グランクラスは謳う。

 俺はただ、その姿を、愕然と眺めるしかない。

 いや、それは彼女も同じだった。


「……ああ、これは、もう駄目ね。私達の……完敗だわ。そう――このままでは」


 シーア・クレアムルの声を聴き、俺は漸く我に返る。

 彼女はリード・グエルムの柄から降り、俺の前に立って、意味不明な事を告げた。


「ええ。帝、さっき言っていたでしょ? 私の強さは、生き汚いところだって。でも、だとしたら今の私はただの弱虫だわ」

「な、に?」

「……えっと、だから、あー、もう……やっぱ冴木さんの様に格好よくはいかないわね」

「な、何を、言っている?」

「うん。もしかしたら、何時の間にか、帝は私の気持ちさえ侵略したのかも。……そう。貴女をもう一度、お姉さんに会わせるまでは、貴女を死なせる訳にはいかない。なら、私がするべき事は一つよね?」

「だから、何を、言っている――?」

「いえ、帝も気付いている筈よ。今の貴女の脳だけでは、リード・グエルムの情報を全て受け入れ、制御する事はできないって。なら残された方法は一つだけじゃない。リード・グエルムの情報を全て帝にインストールする為に――私は帝と融合する」

「は……? でも、それって、お前の存在が無くなるって事じゃ?」


 けれど、シーアは答えない。

 彼女はただ、俺を見つめるだけ。

 だから、何を、言っているんだ、此奴、は?


「バカか、お前は! お前はあんなに死にたくないって言っていたじゃないかっ? だから、俺は、私は、こうして、お前と一緒にやってきたのにッッッ!」


 けれど、シーアはただ首を横に振る。


「いえ、私はきっと、貴女が本当の自分を取り戻す為に、生まれたのよ。……その使命が果たせて、本当に良かった。……帝が、私のマスターで、本当に良かった。だから――私が言うべき事は一つだけ」


〝なんだかとんでもないヒトをマスターに引き当てたみたいだわ、私〟

〝やっぱり私、あなたのこと嫌いだわ〟


「ああ……あああ」


 嘗てそう口にしていた筈の少女は、今……笑顔を浮かべながら私にこう告げた。


「だから、絶対に勝ちなさい―――帝」


 多分、私はそのシーアの微笑みを、一生忘れない。

 いや、頼まれたって、忘れてやるものか。


 だが彼女が私の肩に触れた瞬間、シーア・クレアムルは一瞬にしてその姿を、消す。


「あああああぁ、ああああああああああぁっ……!」


 その光景を見て、気が付けば、私はそんな声を、上げていた。

 余りに呆気ない、シーアの最期を見届けたというのに、そんな声を上げる事しか出来ない。


 今、戦場の真っただ中に居る事さえ忘れて、私はもう一度だけ呆然とする。


「な、に? シーアの気配が、消えた……?」


 その、アパトルテ・グランクラスの声を聞いて、私は漸く物を考えられる様になっていた。


 ……そうだ。話は、実に簡単な事。

 私はアパトルテに、自分達の姿を重ねたのだ。

 神代帝と神代紅音の姿を、私は彼女達姉妹に重ねた。

 だから、無意識に彼女に勝つ事を、躊躇った。

 アパトルテのユメと、妹を尊ぶその姿を心の何処かで共感していたから。


 けど、きっとそれは私にとって、最大の過ちだ。


「……そうだ。お前は、シーアは、私にとって全人類の代表みたいな奴だった。自分の命を一番に考えながら、それでも最期は他人の為に、命を投げ出したお前は――っ!」


 なら、答えは一つ、だ。

 同性だとわかっていながら、惚れた女が居た。

 そんな私を、尊く思ってくれた奴が居た。

 私や星良や姉さんの為に、涙まで流した奴がいたのだ。

 私達の為に全てを擲ってくれたバカな奴が、さっきまで私の目の前に居た。

 そんな奴を、そんな敬愛するべき少女を、私は自分達の世界を守る為に失ったのだ。


 なら、この条件で負けでもしたら、私は彼奴以上の大バカ野郎だろうが――!


「帝さんの気配も、変わった? いえ、これは、まさか――?」


 ああ。今なら、わかる。

 シーアが、アパトルテが、見ていた世界がハッキリ知覚できる。

 だから、私は吼えた。


「全記憶および、リード・グエルム――全開放―――ッ!」


「まさか。ただのニンゲンが、プロトディメンションまで召喚した、ですって……?」


 私の背後にも、アパトルテと同規模の原型空間が現れる。

 そのまま私は、ベーダーマンは――ソノ空間と一体化する。


「そう。そういう事? あの生きたがり屋のシーアが、命を擲ったと? これは、その産物? ならば、私とて容赦はしない」


 アパトルテが、私と同じ業を為す。

 彼女が駆るヴァルグ・レイも、原型空間に吸収された。


「貴女は――私が全力を以てこの世界から排除する」

「なら私は、いえ――〝私達〟は、貴女を全力でブチのめす」


 ここに、私達二人の最後の戦いは幕を開けた。



 ここまで読んで下さり、誠にありがとうございます。

 いよいよ物語も、ラストスパート。

 いえ、マカロニサラダは皆様の、評価をお待ちしています。

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