33最終決戦
すみません。
今回も少し長めです。
◇
同時に、アパトルテの背後にも、全長三十メートルに及ぶ金色の巨人が現れる。
彼女も帝達同様、その巨躯に乗り込む。
「また子に頼る事になるとは、ね。では行きましょうか。我が愛機――ヴァルグ・レイ。リード・グエルムとベーダーマンを取り戻す事。ソレこそが、貴方の最後の仕事になる筈だから」
頭部にある搭乗口のハッチが閉まる前、アパトルテはそう謳う。
それを耳にした、帝は大きく息を吐く。
「悪いけど――貴女にシーアは渡さない」
次の刹那、両者はこの宙域より消失する。
両者は申し合わせたように、あろう事か、この宇宙の外へと転移する。
両者は、万感の思いと共にこう告げた。
「ここが、貴女の――終着点だ」
「ここが、貴女達の――墓場よ」
言葉を交わすのと同時に、五百キロは離れていた両者は、互いに突撃する。
二人揃って、秒速十の一グーゴルプレックス乗光年で、宙を駆ける。
帝は雄叫びを上げ――アパトルテはただ微笑みながら。
「おおおおおおおおおおお……!」
「フ――っ!」
「くっ?」
ついで、帝は見た。
周囲の白い空間が、数億にも及ぶ剣と化して、自分に向かってくるその様を。
(空間、操作っ?)
ソレは嘗て帝自身が放った業と、同一の物だ。
空間に空間をぶつけ、空間自体を破壊する異能である。
仮にその剣がベーダーマンに届けば、彼女は空間が内包する物理法則ごと破壊される。
再生という概念自体、粉々に砕かれ、帝達は消滅する事になるだろう。
そう理解しながらも、帝は決してスピードを緩めない。
(〈同気功〉?)
逆に全ての剣を撥ね退けながら――ベーダーマンはヴァルグ・レイに肉薄した。
そのカラクリをアパトルテは、事もなく見切る。
(私が発したエネルギーに、帝さんが発しているエネルギーを同調させた? そのままエネルギーを吸収し、私の発した力を零にかえした、と?)
なら、自分の攻撃は、恐らく全て無力化される。
アパトルテは瞬時にそう見切り、だから彼女はやはり笑った。
(とすれば、恐らく摩擦エネルギーさえ、彼女は己に取り込んでみせるでしょう。つまり彼女には、そもそも攻撃事態が通らない)
この見識は正しい。
剣等の攻撃はそもそも物体と物体の間に摩擦エネルギーが発生するからこそ成立する。
このエネルギーが元となって剣や槍は物体を斬り、貫くのだ。
だが、帝はソレさえも無効化すると言う。
この前提そのものを覆されては、アパトルテとしては打つ手が無いだろう。
そう――普通なら。
「……なっ?」
その時、帝は見た。
アパトルテが、この世界の空間そのものを圧縮するその様を。
それは帝達の宇宙に換算して、一万の一グーゴルプレックス乗光年に及ぶ質量。
黒い恒星が連なる銀河を、九千十七グーゴルプレックス個、孕んだ凶器。
彼女はソレを全長二十メートルもの剣の形に圧縮し――ベーダーマンに向かって解放する。
三次元宇宙に換算して十の九千グーゴルプレックス乗度に及ぶ高熱を、帝達へと浴びせる。
この言語を絶する攻撃を前に、帝はただ目を見開き、それからあろう事か、喜悦した。
「おおおおおおおおおお……っ!」
脳内の処理速度を全開にし、彼女は右腕を突き出して〈外気功〉を展開する。
この熱量さえ自身の躰の延長とし、我が物とする為に。
「ほ、う?」
「返す、ぜ?」
事実、ベーダーマンは、右腕にそのエネルギーを収束する。
アパトルテに倣い、その力をそのまま彼女へと弾き返す。
その様を――アパトルテは初めて笑みを消しながら眺めた。
「成る程」
「はっ?」
ヴァルグ・レイが、指で弾いただけであの膨大なエネルギーを天へと吹き飛ばす。
この偉容を見て、帝も遂には笑みを消す。
「だいたい貴女の力はわかったわ。私はもう十分楽しんだ。だから、そろそろ終わりにしましょう?」
そしてアパトルテ・グランクラスは、その能力の一部を解放する。
『構築』と言う名の力を――神代帝に披露した。
「く……っ?」
途端、背筋に悪寒を感じた帝は後方へと下がるが、それさえ儘ならない。
「なっ?」
彼女の背後には既に、ヴァルグ・レイの姿があったから。
かの機体は、ベーダーマンの背を殴りつける。
「つっ!」
この圧倒的な衝撃を前に、帝の機体は激しく前後に揺れる。
同時にベーダーマンは反撃に転じ、肘をヴァルグ・レイ目がけて突き出す。
「いえ、それも、無駄」
だが、何故かその一撃は、アパトルテの機体に届かない。
まるで見えない壁に阻まれたかのように、ベーダーマンの攻撃は阻止される。
それも、当然か。
アパトルテが支配しているのは、この世界より千個上の世界だけではない。
そこから上の世界全てを、掌握している。
ソノ次元の空間自体と融合する事で、彼女は一つの知性体と化し続けた。
そんな事を彼女は三百五十回も繰り返し、漸くプロトディメンションに行き着いたのだ。
つまり、アパトルテ・グランクラスと神代帝では、自力が違う。
存在そのものが、異なっている。
文字通りソレは――次元違いの差と言えた。
それでも紛いなりにも均衡を保っているのは、シーア・クレアムルが居るから。
彼女というナビゲーションシステムが、帝に足りない知識を補強している。
そのお蔭で、まだ〝戦い〟という体裁を取り繕っていた。
現に、シーアは気付く。
「そうか! アレは恐らく――『構築』! アパトルテは今運命を形づくる能力を使っている!」
「運命、を?」
「ええ。簡単に言えば、今、私達は、彼女が想像した通りにしか動けないって事。アパトルテが右に動けと想像すれば、その通りになるって事よ! 恐らくその能力範疇は、存在レベルにまで及んでいるわ! 時間が経過する度に、私達の能力は劣化していく事になる! それでも私達が即死しないのは――帝のお蔭!」
(ええ。問題は帝さんの――『収束』ね。アレが、私の能力自体を狂わせている。私が能力を使う時、発するエネルギーさえ、彼女は三割もその身に吸収している。
即ち――能力を発動させる時、発する力を己の物に変え、能力自体を発生不能にする力。
本来なら一撃必殺であるこの『構築』を以てして、なお死に至らぬのは、その為)
ああ。だとしたら、それは何と言う、喜劇。
自力でプロトディメンションに到達したこの自分が、ただの三次元人に手こずっている。
既に一分程も戦闘に勤しんでいるが、未だに決定打には及んでいない。
ソノ事実が、コノ非常識が、アパトルテを更に愉悦させる。
(なら、これなら、どう?)
「つッ?」
彼女はその非常識さえ黒く塗り潰す様に、次の手を打つ。
あろう事か、バカげた事に、アパトルテは、今自分達が居る全空間そのものを発火させる。
それは空間自体が孕んでいるとされる――エネルギーの発火だった。
ビックバンの原因となったとさえ言われている――常軌を逸した爆発的な力だ。
「フっ!」
「ぐっ!」
よって、両者は同時に、紅蓮の炎に包まれる。
摂氏にして五百グーゴルプレックスプレックス度に及ぶ灼熱が、両者を襲う。
グーゴルプレックスプレックス。
ソレは十の一グーゴルプレックス乗。
つまり十の十の十の百乗乗乗を指す。
それだけの業火を前に、帝の肌と肺は焼け焦げ、呼吸さえ停止させる。
「やはり、少しは効果があったらしいわね。だったら、こういうのはどう?」
「なッッッ?」
一つ上位の空間に至ったアパトルテと帝は、両者共に更なる業火を受ける。
アパトルテは、またもその次元の全空間をも爆破した。
「……ぎっっっっ!」
再び二人は、言語を絶する高熱に包まれる。
先ほどの、十億の五千グーゴルプレックスプレクス乗以上の熱量に晒される。
「がぁッッッッ!」
後はもう、その繰り返しだった。
アパトルテは、帝が生存している事を確かめる度に今自分達がいる全空間を発火する。
その度に爆発の威力は増すが、それでも帝がまだ生きていると知れば爆破を続行する。
更に上位の空間を爆発させ――ベーダーマンは紅蓮の炎に包まれる。
この、既に戦闘とは呼べない自爆行為を前に、帝はただ歯を食いしばった。
「……なんて事をしやがるっ! あいつ、俺達の宇宙も消しやがったッッッッ! それより上位の空間にも、知性体は居るだろうにっ! 俺を殺す為だけに、そいつらも巻き添えにしたぁ――ッ!」
だが帝同様、肉体的ダメージを受け続けているシーアは首を振ってソレを否定する。
「……いえ、帝達の宇宙はベーダーマンがシールドを張って何とか消滅は免れている! ほかの次元の宇宙に関しても、リード・グエルムが全データをスキャン済み! だから私達さえ無事なら、後で知性体ごと再生する事も可能よ!」
「本当、かっ?」
なら、それなら、尚の事、負けられないではない、か。
その為、既に死に体にも等しい帝は、まだ戦闘意欲を捨てない。
「冗談でしょう?」
一方、ここまでやってなお戦意を失わない帝に対し、アパトルテは初めて脅威を覚える。
今や両者のダメージ率は零対百にも等しい。
爆死する運命を消去できるアパトルテは、だからアノ灼熱世界でも無傷で済む。
けれど、帝は逐一ダメージを受け続けている。
彼女の『収束』を以てしても、ノーダメージとはいかない。
それで尚、アパトルテは今、帝が笑みを浮かべていると感じとる。
「しかたない、か」
故に、彼女はこの時になって――漸く切り札を使う事にした。
「あまり、使いたくはなかったのだけど」
「――はッッッ?」
神代帝はその光景を見て、今度こそ、絶望と言う物を知る。
アパトルテの背後を見れば、全長一光年程の巨大な空間らしき物が浮かんでいる。
そこまでは良い。
そこまではまだ、許せる範囲の非常識だ。
だが、問題は、その空間が発しているエネルギー量。
ソレは正に――神代帝の理解を遥かに超えていた。
「ええ。この私に――プロトディメンションまで使わせるなんて本当に笑えるわ」
「なんだ、とっっっ?」
かくして、一方的な蹂躙劇は、今幕を開けたのだ。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
マカロニサラダは皆様の、評価をお待ちしています。




