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ベーダーマン  作者: マカロニサラダ
30/37

30『頂魔皇』と帝

     ◇


 というか俺もだけど、最後に〝キラ☆〟って言えば何でも許されると思ってないか?

 そんなどうでも良い事を考えつつ、俺は眼前の少女に目を向ける。

 あの十四、五歳ぐらいの少女に、俺は剣呑な視線を注ぐ。


「……キロ・クレアブル? あんた、が?」

「はい、正確には、その分身ですが。十一年前、貴方と出逢ったのは、わたくしで間違いありません」


 黒い長髪をなびかせ、腕と足を組み、座した姿勢で宙に浮かぶ少女が告げる。

 自分はあの『皇中皇』――いや、『頂魔皇』の分身だと何の躊躇もなく言い切った。


「ええ。本来なら今頃わたくしは、刻羽さん達と戦いを繰り広げているところなんですがね。どうやらこの世界では、それどころではない様です。

 なのでそこら辺の話はまた別の世界で、という事になりますか」

「黒理さん達と……?」

「そう。十八禁ギリギリの戦いを、繰り広げている筈です」

「――意味がわからねえッ? 十八禁ギリギリの戦いってどんな方向性の戦いだっ?」


 てか、何このギャグ要員?

 今、このシリアスな展開に、必要ある?

 そう思っていたのだが、やつの雰囲気は一変する。


「にしても、シーアさんはミスを犯しまくっていますね? アパトルテさんの脅威ばかり強調しても、帝さんが不利になるだけでしょう? もっと帝さんにもプラスになる情報を提示しないと、〝本当にその通りになってしまいます〟よ? 

 尤も、それを口にしようとした途端、アパトルテさんは貴女を殺していたでしょうが」

「は、い? あなた、一体だれ? なんで、そんな事まで知っている……?」


 俺とは違い、シーアはまだ緊迫感を保っている。

 彼女は、見るからに萎縮していた。


「後、ベーダーマンとは、ずいぶん語呂が良い名前をつけましたね? やはり、それは正式名称だと、響きが悪くなるから?」

「……ええ。本当は〝インベーダーマン〟にしようと思ったのだけど。それだと余りに露骨だから、ベーダーマンにしたの」


 インベーダーマン?

 何だ、それは?

 それじゃあ、まるで俺の方が、侵略者みたいじゃないか?

 だが、確かにシーアはさっき言った。


〝この世界は――俺が中心になりかけている〟と。


 それは、つまり、そういう事……?


「では、場も温まったところで、そろそろ本題に入りますか。時間も、もう殆ど残されていませんし」

「本題、だと? 楔島の『皇中皇』が、俺達に何の用があるってんだ? おまえ、一体、何をするつもりで、こんな事、を?」

「ソレをこれからお話するところです。ではさしあたってはアパトルテさんとリード・グエルムについて。アパトルテさんが――『第二種知性体』だった事は既にご存じですね? この世界より、千個は上の次元の存在である事も?」

「……それは、知っている、けど」

「そう。ソレこそがこの世界の理。この世界は宇宙より上位の空間があり、それより更に上の空間が存在している。ならば更にその上の空間もあると容易に予想がつきます。

ですが果たしてソレは無限に続く物なのでしょうか? あるいはソノ最果てがあるのでは? アパトルテさんはソノ領域に足を踏み入れ、かの空間の力を引き出せるのではないか? 彼女はそう、この世でただ一人――〝プロトディメンション〟と呼ばれる始まりの地に至った存在なのでは―――?」


 訳がわからない事を、キロ・クレアブルはぬかす。

 意外だったのは、ソレを聴いてシーアが愕然とした事。


「……驚い、た。あなた、何者? 本当にこの世界の住人、なの?」 

「あたり、ですか。やはり、日ごろから思索は巡らせておくものですね」

「プ、プロトディメンション?」


 シーアとキロ・クレアブルは、しっかり意思疎通ができている。

 ただ一人、俺だけが、取り残されていた。


「そうですね。わかりやすく言えば、全ての空間の原型です。私達の世界は、元々かの世界から始まりを迎えた。その空間から分離に分離を重ね、今の状態に至った訳です。さながら、この星の大陸が元は一つだった様に。

 異なる点があるとすれば、一つだけ。

 原型空間は原型空間であるが為に――それ以下の空間に対し絶対命令権があるという事。原型空間を除く全ての空間には、被絶対命令権が刷り込まれている点でしょう。

 それも当然ですね。

 何せ全ての世界は――原型空間の手足の様な物なのですから」

「……絶対命令権?」


 要するに、それは、そういう事?

 現に俺の推理を、件の少女は肯定した。


「ええ。ソコに達した瞬間、アパトルテさんは本当の意味で無敵と化したのです。全ての空間に存在する者を、この絶対命令権で支配する事が叶うが為に。

 ならば――彼女とは何者か?

 そんな大それた力を身に着けたあの少女は、一体誰?

 答えは実にシンプルでしょう。

 彼女こそ今まで架空の存在とされてきた――『第一種知性体』の〝極限種〟です。

 全ての空間、全ての世界の頂きに立つ者。

 ソレこそが――アパトルテ・グランクラスの正体」

「な、に……?」


『第一種、知性体』?

 その〝極限種〟―――?


「待て。それじゃあ……あの少女は、本当の意味で、俺達の支配者? 彼女が死ねと命じれば俺達は死ぬしかない?」


 しかし、キロ・クレアブルは首を横に振る。


「いえ、いま話したのは、飽くまで机上の空論です。本当は、もっと話は入り組んでいるのでしょう。その証拠にアパトルテさんは――リード・グエルムなる物を開発した」


 俺の腹に刺さった剣を指しながら、黒い少女は微笑む。

 俺は、呆然としながら件の剣を眺めた。


「そう。恐らく彼女一個人の能力だと、原型空間の力は手に余るのでしょう。その能力を全て発揮しえない。故に、彼女は自分の願いを果たすべく、その補助を目的とした装置をつくり出した。ソレがいま帝さんと融合状態にある――リード・グエルム。恐らく、アパトルテさん達の言葉で――〝万能なる鍵〟という意味の剣です」


 それは何気ない説明だったけど――シーアは唖然として受け止める。


「だ、だから、あなた、一体何者なのっ? なんで、そんな事まで知っているッ?」

「ええ。本来なら、アパトルテさんがリード・グエルムと融合する筈だった。プロトディメンションから引き出す力を向上させ、目的を果たす筈でした。多分ベーダーマンは、リード・グエルムの力をフルに発揮できるよう開発された機体でしょう。本当なら、帝さんではなく、アパトルテ・グランクラスの専用機になる筈だった物です。

 ですが――その計画は途中で頓挫してしまった。シーアさんが、アパトルテさんの本性に気付き、そのドス黒さに恐れ戦いたが為に。

 だから彼女と融合する筈だったあの日、シーアさんはアパトルテさんから逃げ出した」


 喜々としてキロは続け、やはりシーアは愕然とする。


「それも、正解よ。……成る程。帝がビビる訳だわ。このヒト……ちょっと頭がおかしい」

「褒め言葉として、受け取っておきます。で、その貴女はもう必死に逃げた。逃げて、逃げて、逃げまくり、この最果てとも言える下位世界まで逃げ切った」


 シーアが、余りに遠い目をする。

 まるでソレは、数億光年先の宇宙を眺める様な表情だ。


「……そう。その果てに私は偶然、帝に行き着いた。あの日、私は帝の躰を貫いて、彼女と融合したの」


 けれど、キロ・クレアブルはソレを笑顔で否定する。


「いえ、偶然ではありません。わたくしの能力は、『確率論の操作』ですから。ソノ力を使って、『宇宙の外から来た物体は、皆、帝さんに到達する』よう操作したのです」

「はっ……?」


 シーアと一緒に、呆けた声を漏らす。

 俺の脳裏には、ある疑問が過ったから。


「……待て。だったら、何で俺だったんだ? わざわざ俺を選ばなくても、あんた自らこの剣の主になれば済む筈じゃないのか?」

「それは、追々お話します。今重要なのは、帝さんもまたプロトディメンションの力を引き出せるという事。世界で唯一、アパトルテさんに匹敵する能力を持っているという事ですね。貴方はまず、その事を、深く実感しなくてはならない――」

「それはつまり……俺だけが、アパトルテと戦えると言う事?」

「ええ。本来なら上位の存在であるアパトルテさん達を、三次元化させているのも、ソノ剣のお蔭。あの姿が帝さんにとって、彼女等のイメージその物だからです。その為――あの『第二種』の創造物である宇宙戦艦も、あんなベタな形になった。『第二種』が乗った機体も、帝さんの想像の限界点でその姿は押しとどまった。

 アパトルテさんも同じです。貴方は基本、自分と対等以上の存在は全てニンゲンに見えるのでしょう。

 そう言った理由から、帝さんは自分より上位の存在さえ自分の常識で貶めてきたのです」

「じゃ、じゃあ、俺が男嫌いなのをシーアが危ぶんだのは……このままだとマジでヤバかったから?」

「はい。あのまま放っておけば、何れ本当に男性と言う物は根絶していた。世界の常識は全て貴方の願望に書き換えられ、想像を絶する世界になり変わっていた。それが、今の神代帝の状態。この世界の中心になりつつある、少女の実情です。

 世界はそういう存在を――きっと神と呼ぶのでしょうね」

「な、に……?」


 ……マジ、か?

 そんなバカ話を聴いているだけで躰が震えている小者な俺は、今そんな状態――?


 けど、そこまで聴いて閃く物があった。


 あの戦いの後、蘇生した星良は、なぜ俺の事を忘れていたのか? 

 それはきっと……俺自身が無意識にそう望んだから。

 俺の傍に居れば、きっと同じ事を繰り返す事になる。

 俺はソレを危ぶんで、星良を遠ざけた。

 自分の周囲から引き離す事で、俺は星良を守ろうとしたのだと思う。


「で――ここからが本筋なのですが」


 が、この暴言を聴いて、俺は素直に仰天する。


「――は、い? 今の話、本筋じゃなかったのッ? シーアといい、あんたといい、どんだけ前振りが長いんだよっ?」

「いえ、そこら辺は安心して下さい。前振りより本筋の方が、やや短いので」

「………」


 どんな話の構成だ?

 そう文句を言い掛けた時だった。


「はい。単に貴方の正体を教える時が来た――というだけの話ですから」

「なっ?」


 俺が――その真相に向き合う事になったのは。

 故に、神代帝は、やはり絶句せざるを得なかったのだ――。


 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 マカロニサラダは皆様の、評価をお待ちしています。

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