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ベーダーマン  作者: マカロニサラダ
3/37

③〝爆弾人間〟誕生?

     ◇


 にしても……成る程。やつが早々に、俺が女装男子だと勘ぐったのは、だからか。

 確かに彼女の主張通りあの姿が俺の理想の存在だとすれば、ああ推理するのは自然だ。

 あの少女が女性である以上、俺は同性愛者か実は男なのかと疑って然るべきだろう。


 即ち――俺はやはり、彼女に向け人差し指を突きつけるしかない。


「だ、だから待ってって! てか、あなた、幾らなんでも頭のネジ緩すぎよ! そ、そうよ! 私を殺したら、一生その剣が何なのかわからなくなるわ! ついで言えば、その剣は危険な物かもしれない! だっていうのに、放置して良いのッ? それでぜったい後悔しないと言えるっ?」


 ……成る程。やはり、そう来るか。

 あるていど予想していたが、こう言われてしまえば、確かに俺はただ真顔になるしかない。


「危険な物、ですか。例えば、ソレはどの程度?」

「えーと。……それはわからないけど、多分、あなたはほぼ間違いなく危ない目にあうみたいな?」


 自分の身が、危うくなる。

 普通の人間にとっては、それだけで一大事だろう。

 だが、俺としては立場上、自分の身の心配だけをする訳にはいかない。

 もし俺が居るだけでこの町、ひいてはこの国が危うくなるとすれば、答えは一つだ。


「はぁー。わかりました。ではあなたの主張を、少なからず認める事にしましょう。あなたはこれよりこの剣が一体なんなのか、全力を以て解明して下さい。全てはそれからという事で」

「それって、事と次第によっては私を殺すって意味……?」


 どうやらこの娘、やはり頭の回転は悪くない様だ。

 俺の含みのある表現を、的確に見抜いてくる。


 その一方で、俺は首を横に振った。


「いいえ。仮に私があなたを殺す事があるとすれば、それは私が生きていては都合が悪い時だけ。私が生きているだけで、この国が無くなるなんて事態になった場合だけです。

私はそう解釈しているのですが、何か誤りはありますか?」


 ここまで言うと、彼女は何故かクスリと笑う。


「そ。あなた、中々の正義の味方って事なのね? でも、その見方は正しいわ。あなたも察している通り、マスターであるあなたが死ねば私も死ぬ。つまり、時と場合によってはこの国を守る為に自殺しようとしているあなたの道ずれになる訳か、私は」

「遺憾ながら、そう言った感じです」

「フム」


 件の少女は、謎の納得を見せる。

 彼女の決断は、早かった。


「良いわ。私もその条件で構わない。でも、仮にその剣が何の害もない物だとしたら? その時は私の事、どうするの?」

「それも時と場合によりますが、身の安全は保障します。

私のもとから離れ、然るべき場所に保護してもらうという形になるでしょう」

「ま、そうなるわよね。けど、先に言っておくわ」

「はい?」

「実は私、マスターから二十メートル以上、離れられないのよね。

 だから、その案は物理的に言って呑めないと思う」

「ソレは……本当に?」

「ええ、何なら試しても――って、はいっ?」


 が、俺は皆まで言わせる事なく彼女の腕を掴んで、窓を開け、やつの体を外に放り投げた。

 途端、秒速二百メートルで少女の体はフッ飛ぶ。


「ふああああああぁぁぁ―――っ?」

「あ、本当ですね」


 確かに、目算で大体二十メートルの所で彼女の体は停止する。

 そのまま少女は、地面に落下した。

 このままでは、きっと地上に叩きつけられ、お陀仏だ。

 それは困るので、俺はその前に窓から飛び出て、やつの体をダイビングキャッチする。

 それから何事もなかったかの様に、家に帰って自室に戻った。


「って、なんて事するのよ、このアンポンタンッ? あなた、本当に人間っ? 実は悪魔との混血児じゃないのッ?」

「まさか。というより、非常識の塊であるあなたにそんな罵声を浴びせられるなんて、心外です」


 お姫様抱っこしていた彼女を、床に下ろす。

 以上の通り少女はいたくご立腹の様だ。


「そういえば、さっきの話の答え、まだ聴かせてもらっていなかったわね」


 現に、未だ名も知らぬ少女は、ニヤリと邪悪に笑う。


「あなた、同性愛者? それとも、女装男子? 一体どっちなの?」


 その体のまま、いま一番話題に挙げたくない事をやつは訊いてくる。

 殺される事は無いとわかった時点で、的確に俺のウィークポイントを衝いてきやがった。


 お蔭で、俺はもう一度物思いに拭ける。


「ま、いいか。この場合、疑いを持たれた時点でバレたも同然だ。いいぜ――教えるよ」

「………」


 突然口調と態度が変わった俺に対し――彼女は見るからに警戒を強めていた。


     ◇


 その前に、少し俺達の事を話しておこう。

 既に察しているかもしれないが、俺は普通の人間じゃない。

 いや、俺だけでなく実はこの町の住人全てが、人とは少し違った生物だったりする。

 だとすれば、何なのか?


 端的に言えば、ちょっとした超能力者の集まり、と言ったところだろう。

 

 といっても無条件で手を触れずに、物を動かすなんて事は出来ない。

 俺達はただ、特定の概念に縛られた存在である。

 例えば俺が――『収束』や『蓄積』という概念を、能力として使える様に。


「ああ。話せば長くなるんだわ、これが。だから、その辺りは追々、説明するよ。ここではまず、俺やそのご近所さん達が、普通じゃないってわかっていればいいから。

つーか、ポテチ食べる?」

「はぁ」


 胡坐をかき、頬杖をつきながら、気怠そうに告げる。

 さっきまでの上品な所作からは、余りにも遠いところに今の俺はいた。

 この態度のギャップを未だ受け入れられないのか、やつは眉をひそめる。


「……って事は、もしかしてあなた、中身は男って事?

本当は男なのに、誰かの呪いを受け女の子にされたって事なの?」


 やはりこの娘、中々良い勘している。

 そう思いながらも、俺は首を横に振っていた。


「いや、違うよ。俺は――元から女だった」

「は、い?」

「でも――中身は男だって事はあっている。そう。実は俺も自分が何なのかわからねえんだ」

「……なん、ですって?」


 俺の言い分を前に、彼女は更に不審がる。だが俺はソレ以上語らず、話をはぐらかす。


「ま、その辺りも追々な。どうせすぐには直らねえんだろ、この剣?」


 遂には頭を右腕で支えて横になり、ケツを掻きながら問い掛ける。

 彼女は余りに遠い目をして、頷いた。


「……そうね。

 というより、なんだかとんでもないヒトをマスターに引き当てたみたいだわ、私」

「んん? てか、そのマスターっての、まず止めねえ? 俺、他人にかしこまれるのって苦手なんだよね。ほら、俺って根っから謙虚だからさ。ゲハハハハ……!」

「わかった。……じゃあ、なんて呼べばいいのかしら? そういえば私、あなたの名前さえ訊いてなかったわ」

「んん?」


 そういえば、そうだった。

 遭遇してから既に二十分は経つのに、俺達はまだそんな基本的な事さえ知らないのだ。


「なら、俺の事は、神代でも、帝でもいいぜ。で、そっちはなんて呼べばいい?」

「じゃあ、それがマスターとしての、あなたの二つ目の仕事よ」

「あ? つまりおまえは名前が無いって事か? 見かけをつくるのも俺の仕事なら、名前をつけるのも俺の仕事だと?」


 どうやらこの推理は当っているらしく、彼女は徐に頷く。

 なんだか、ロールプレイングゲームみたいな話になってきた。

 こう、冒頭で主人公の名前付ける、アレ。


「だな。それなら、ここでギャグの一つも入れるべきだろう」


 例えば――〝爆弾人間①号〟とか。

 ああ、なんて立派な名前なんだ。


「大却下! 何なのその人権を根底から無視した、危険思想真っ青な名前は! あなた、実はただのバカっ?」

「んん? やっぱ気に入らなかったか。でも安心して良いぜ。俺、クラスメイトから〝神代さんならきっとセンスが良い名前をつけてくれると思うの〟とか言われて。よく子犬だの、子猫だのの名前をつけているからさ。ゲハハハハ……!」

「それって、〝余所行き〟のあなたの事よね……? あの上品だった……今となっては懐かしすぎる、あの頃のあなたの事でしょ?」

「わかりました。では、ご要望にお応えして」


 ならばとばかりに、俺はもう一度、所作を整える。

 スカートの乱れを直し、正座をして彼女と向き合う。


「ですが、これだけは覚えていて下さい。私、家族以外のヒトに、ああいうラフな姿を見せた事はないんです。今まで家族以外で、気を許せる人なんて一人も居なかった。そう言った意味では、あなたはとても特別な人だと言えるでしょう」

「……ああ。そう、なんだ?」


 すると、彼女は何故か感涙しているかのような表情を見せた。


「なので私の秘密がバレた場合、例えどの様な状況でもあなたがバラしたとみなします。

 その時は、勿論、わかっていますね?」

「――感動して、損した!」


 と、何故か心底から悔む様に、彼女は言い切る。

 それに首を傾げながら、俺は頭を働かせた。


「では、〝シーア・クレアムル〟というのはどうでしょう?

 これは、ある偉大なる『皇』の母君にあたる方の名前をもじった物なのですが?」


 俺が提案すると、彼女は暫く考え込み、漸く決断する。


「……シーア、ね。確かにあなたにしては、まともな名前だわ」

「はい。但し、割と不幸なヒトだったみたいですけど。こう、魔女裁判にかけられたり、当時としては差別の対象になっていた死刑執行人と結婚したりして」

「あ、そう。でも、良いわ。これ以上、悪くなっても困るし。私の事はシーアで結構よ」


 それで、話は決まった。

 顔をしかめる彼女に対し、俺は失笑しながら手をさし出す。


「では――シーアさん。これからしばらくの間、宜しくお願いしますね」

「……ええ。私としては手早く終わらせたいところだけど、どうか宜しく――帝」


 神代帝とシーア・クレアムルが、互いの手を握り合う。


 こうして契約は成立し――俺と彼女の先の見えない日々は始まりを告げたのだ。



 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 マカロニサラダは皆様の、評価をお待ちしています。

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