29宇宙の真理
◇
「『第■種知性体』の〝極限種〟? すみません。全く意味がわからないのですが?」
第三者が居る為、家の中でも〝余所行き口調〟で訊ねる。
シーアは見るからに、絶望的な顔をした。
「フム。どうやら、彼女はもう限界みたい。ではそこから先は私がお話するわ、神代帝さん」
……笑顔を浮かべた少女が声を上げただけで、俺の意識は黒く塗り潰されそうになる。
ソレを必死に耐えながら、何とかシーアだけは守ろうと、俺は彼女の前に立つ。
「私の事を、知っているんですね……?」
「ええ。リード・グエルムを発動させる前はまだつけ入る隙があったから。結果、貴女は並みの存在ではない事がわかった。そこで話を戻すのだけど、帝さんはこの宇宙が何かご存じ?」
「宇宙は……宇宙なのでは? ソレ以上の意味は、無いと思います、けど?」
「そう? では――『第二種知性体』とは一体何者なのかしら?」
「まさ、か」
俺は、遂に眩暈さえ覚える。
それだけの推理を、俺は思い描いてしまったから。
「多分、当たり。この宇宙と呼ばれる物はね、元は一個の知性体だったの。その知性体が別の知性体と争い、その戦いに敗れた結果、宇宙は今の状態になった。ソフトを失ったハードが、またソフトを再構築するべく起動している状態が今の形。つまりは、そういう事よ?」
「……要するに、この宇宙そのものが――『第二種知性体』……?」
「ええ。だから、自我を失ったこの宇宙は、再び知性の芽を生みだす必要に迫られた。人が人として生まれてきたのは、その為。自然発生で生まれる知性体の限界が、人間という物なの。でも、その人間も自然発生では決して生まれない、人工知能と呼ばれる存在を生みだした時点で、滅亡する。その人工知能――即ち『第四種知性体』が人になり代わり、人を超えた知性を有する事になる。その『第四種』が更なる進化を遂げ、やがて到達する事になるのが『第三種知性体』ね。この宇宙と融合する事が可能となった――唯一無二の存在よ」
「じゃ、じゃあ、私達ニンゲンは、近い将来、終わりを迎える?」
「ええ。何れ滅びゆく運命にある。最善の滅びを迎える為、存在する物。つまりは、それこそが人間と呼ばれる要素だから。
でも――その一方でこの宇宙の自我は我が強いらしくてね。嘗ての自分だった物以外、受け入れようとしないの。
だから貴女達が『歪曲者』と呼ぶ彼女も、この宇宙と融合できない。してしまえば、宇宙は停止し、『死界』と呼ばれる物になってしまうから。それが――貴女達の世界の理」
「………」
なんだ、ソレは?
ソレでは本当に、救いなんて物はまるでないじゃないか。
世界にとっては最善でも、結局滅びてしまう俺達にはそんな理屈など関係ないのだから。
「で、余談はここまでにして『第二種』について話を戻すのだけど、本来『第二種』とは――上位空間知性種の事を指すわ。いわゆる、この宇宙の外の住人という事になるわね」
「……上位空間知性種? この宇宙の、外の存在……?」
「そう。つまるところ、その存在レベルは、文字通り次元が違う。この宇宙と言う名の群体を一撃で消滅させる事が出来る存在が、ごまんといる。かくいう私も、元はその一人だった。いえ――正確には少し違うかしら? 何しろこの世界より上位の存在は、皆『第二種』という事になってしまうから。私が生まれたのはこの次元より――更に千個は上の次元だというのに」
「はぁぁぁ――っ?」
この世界より、千個は上位の存在?
ソレが、アパトルテ・グランクラスという少女の正体――?
けれど、あろう事か、シーアは首を横に振る。
「……いえ、違うわ。アレは、そんな生易しい存在じゃない。アレは――ただの殺戮者よ」
「殺戮、者?」
「ええ。アレの目的は〝私達の世界から、全ての争いごとを消す事〟よ。彼女は何時しかそんな事を考える様になった。でも――その為には力が必要だったの。何者にも負けない絶対無敵と言える力が。その為に彼女は同胞を片っ端から殺し、自分に吸収して、力を増していった。彼女なりに争いごとを無くす手段を考えた末、彼女は自分の手を赤く染める事にした。結果、彼女は、遂にソコに行き着いたの。
あの――始まりの場所へ」
「ええ、そう。では、そろそろ、本題に入りましょうか。私が誰で、帝さんが今どんな状態にあるのか。ソレを説明して、この話は終わりにしましょう」
「え――?」
が、彼女がそこまで言い掛けた時、異変が起きる。
俺とシーアの躰は突如として別の場所に転移し、何処かの上空に飛ばされたのだ。
「と、やっとですが、何とか割り込めましたね。やっほーな感じですよ! さすが、『歪曲者』の力もバックアップされているだけの事はあります!」
「あ」
俺は、神代帝は、遂に、ソコへと至る。
俺の原点とも言うべきその場所に、やっと辿り着いたのだ。
いま俺の目の前には、十一年前――〝俺をこうした〟あの羽根女が居たから。
「ヤッピー! ひさしぶりですね、帝さん! キロ・クレアブルちゃん――いま漸くの登場です! キラ☆」
「………」
このアレな宣言を聴いて、俺は思わず、色んな意味で頭が痛くなった。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
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