28最悪の脅威
◇
シーア曰く――ソレはベーダーマンという名の機体。
この意味をなしていない名称を前に、俺は眉をひそめた。
「リード・グエルム、接続完了! 行けるわ、帝――!」
今は、理解が全く追いつかない。
敵の正体どころか、自分が今乗っているロボが何なのかも謎だ。
それでも俺は、ただ一つの疑問を口にする。
「……というか、こういうロボには普通、宇宙服がつきものなのでは?」
うん。生存率を、少しでも高める為に。
「いえ、宇宙空間でも普段着で乗りこなすのが粋なのよ、この業界では!」
……コイツ、さては何かのロボットアニメでも見たな。
これは、その影響に違いない。
そう分析する俺を余所に、件の白い機体は俺の――いや、ベーダーマンの前に突如現れる。
「いえ、違うっ? 私達の方が強制的に、あのロボの前へ瞬間移動させられたッ?」
この事実に喜悦しながら、俺はやつのガンから発射されたエネルギー右手でを弾き飛ばす。
「で、こうなった事で、私は何か変わったのでしょうかッ? それともただ、大きさが向こうと同等になっただけっ?」
後退しながら、訊いてみる。
シーアの答えは、明白だった。
「ええ。今、リード・グエルムを限定起動させた。これでアナタと彼女の差は無くなったわ。というより帝のステータスはこの瞬間――一グーゴルプレックス倍に膨れ上がった」
「冗談でしょ……?」
つまり、更に、外気功の対象宇宙、一グーゴルプレックス倍追加?
いや、それはもうこの宇宙だけではとどまらない。
だから、彼女は告げた。
《化け、物!》
初めて白いロボから、そんな声が届く。
けれどその女性は決して戦意は捨てず、その術を起動する。
「〈精神昇華〉ッ?」
それは――『挿入』と呼ばれる能力。
己が敵の、過去、現在、未来に自分の攻撃を送り込み逃げ場という物を無くさせる力。
現に、白いロボからは、光の弾が雨の様に照射される。
数兆個にも及ぶソレは、一撃で宇宙を一つ消滅させるだろう。
この全ての時間軸も含めた全方位攻撃を前に、俺は目を開いてただ呼吸を止める。
「な、にっ?」
けれど、ファミリア・フェレンスは、見た。
過去や未来に送り込んだ自分の業さえ、俺の躰に収束されていく様を。
それも、当たり前の話だ。
「そう。万物はソノ能力を発生する時、必ず何らかのエネルギーを発する。ならば、そのエネルギー自体を自由にコントロールできればどうなるか? 答えは、実に明白でした」
ソレはある『覇皇』が、無敵の力を求めた末に身につけた力。
不世出の天才が発想し、身に付けるに至った――一種の極限領域。
「故に――これでお終い」
俺はそのロボが内包するエネルギーをコントロールし、無理やり発火させる。
かのロボの動力源を強引に起爆させ、粉々に砕いていく。
よって件の白いロボは、内側から爆破を開始した――。
「ぐッ、つ!」
だが撃墜の直前、白い脱出ポッドが明後日の方角へ飛び出し、空間転移する。
俺はソレを見送り、シーアは疑問をなげかけた。
「……これも、帝の予定通りって事?」
「ええ。彼女を逃がす為に、足から徐々にあの機体を破壊していった訳ですから」
以上の様に、僅か三分間に及ぶ俺達の戦いは――一応の決着をみたのだ。
◇
で、それからどうしたかと言えば、全くひねりという物はなかった。
「……というかチートも良いところだわ。何よ、あのふざけた能力? 本当にリード・グエルム、必要あった?」
例の白いロボを倒した途端、俺達は通常空間に引き戻される。
同時にベーダーマンを消失させ、地球に帰還する。
我が家に戻り玄関前で暫く索敵し、周囲を警戒するがまだ敵影は無い。
ならばとばかりに、俺は踵を返して自宅内に戻った。
「そのリード・グエルムというのは……やはりこの剣の正式名称ですよね? 要するに、アナタはコレが何だか、やはり知っている?」
けれど、シーアは露骨に話題を変える。
「そういえばー、前に〝ワード〟は三つ使えるって言っていたわよね? でも帝が使っているのは『収束』と『蓄積』だけ。もう一つの枠がある筈なのだけどそれはどうしたのー?」
「……そんな枠、とっくに『収束』の概念を強化するため放棄しました。つまり、私が使える能力は『収束』と『蓄積』だけです」
「……フーン。〝ワード〟のストックを捨てると、自分が持つ特定の〝ワード〟を強化できるんだ? じゃあ〝ワード〟自体を捨てた時は、やっぱりそれ相応の力が得られる?」
だが、そこまでだった。
俺達が自宅に帰ってリビングに続く扉を開いた瞬間、俺とシーアは思わず絶句する。
「ああ、やっと戻ってきた?」
「な――っ?」
見れば、和服を重ね着した、十七、八歳位の少女がソファーに座っている。
紅茶用のカップを上品に使い、お茶を口に含み、俺達に視線を向ける。
ソレは紛れもなく――先のプールで俺に話かけてきた少女だった。
……いや、意味がわからない。理解不能。
一つ言える事があるとすれば、それは次元が違う、という事。
さっきの白いロボの乗り手も桁違いの力を持っていたが――アレは全くの別物だ。
あの女性とは違う生き物だと一目でわかる位――ソレは常軌を逸していた。
故に、俺はシーアの腕を掴んで壁際まで後退する。
シーアが絶叫したのは、その時だ。
「――アパトルテ・グランクラス! まさか、貴女自ら出てくるなんてッ!」
「アパ、トルテ? それってさっきシーアさんが言っていた、危険人物……?」
後一回呼吸しようとしただけで、自分が粉砕されるところを幻視しながら訊ねる。
シーアの息遣いは見るからに荒くなり、それでも彼女は健気に俺の問いに答えた。
「帝……前に言っていたわよね? 宇宙の中心で、銀河をグルグル回転させている存在が居るって。恐らくソレは、『第三種知性体』と呼ばれる者よ」
「……『第三種、知性体』?」
「そう。人間は『第五種知性体』に位置するから、それより二つ上位の知性体って事ね。彼等の特徴はその身に『死界』の宇宙を数百億個程内包し、自身の力に転化している事。例えば、帝が二億八千万個もの宇宙を、味方に出来る様に」
「つ、つまり、アレは、その『第三種知性体』……?」
だとしたら、絶望的だ。
恐らく能力処理速度の時点で、俺は彼女に完敗するだろう。
そう理解した時、俺は初めて自分が今、恐怖のあまり呼吸していない事に気付く。
だが、違った。
俺の考えは、全くの的外れだった。
何故ならシーアは――真顔で言い切ったから。
「ええ。そうだと良かったのだけどね。でも残念ながら、それは違うわ。
……アレはそう――『第■種知性体』の〝極限種〟よ」
「……は?」
お蔭で、俺の中からは今度こそ理解と言う物が消え失せる。
神代帝は――ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
マカロニサラダは皆様の、評価をお待ちしています。




