27ベーダーマン
◇
ワンサイドゲームが――始まりを告げる。
いや、その前に、俺は一つだけシーアに訊ねた。
「と、これは念の為の確認なのですがまさかアレは無人機という訳ではないですよね?」
「いえ、そうよ。アレには人が乗っていない。だから、人命を考慮する必要だけはないけど」
「わかりました。それだけ聴けば、十分です」
確認を終えた俺は、シーアを剣の柄に乗せながら右腕を突き出す。
「つっ?」
その瞬間、全長五キロメートル、総数二億五千万隻に及ぶ戦闘戦艦は主砲を放つ。
二メートルにも及ばない少女二人に向かって、一斉掃射を始める。
「まさ、か」
ついで、シーアはまるでありえない物を見る様な目で、俺を見た。
だが、事実だ。
かのエネルギーは俺の躰に届く度に、俺の右手に収束されていく。
刻一刻と、光の弾は肥大し続ける。
「フっ」
そして光弾が直系千キロメートルになった頃、俺はソレをあの船の一つ目がけて発射した。
「くッ?」
直後、もう一度シーアは驚愕の表情を浮かべる。
何故なら、その手ごたえは俺が期待した物とは違っていたから。
「成る程。思ったより、固い」
件の戦艦は、バリヤーらしき物を張り、今の一撃を事もなく防ぐ。
未だにかの艦隊は無傷で、二億五千万隻と言う圧倒的な数を誇っている。
「というか――なんだか、面倒になってきましたね」
故に俺は少し腕に力をこめ、十の一グーゴルプレックス乗光年×二億八千万規模の剣を二メートルにまで圧縮する。
ソレを振り上げ、ラメルドの時とは違い――かの剣の圧縮を完全開放した。
「うそ、でしょ……っ?」
それはシーア自身が言っていた事だというのに、彼女は自分の目を疑う。
それも、当然か。
俺がかの剣を振り下ろした途端、本当に宇宙は二億八千万個分、消滅したのだから。
ガラスの様に空間が砕け散り、俺は物理法則ごと全てを両断する。
神代帝は二億五千万隻にも及ぶ艦隊を――一撃で葬りさっていた。
「まさ、か。ただのニンゲンが、リード・グエルムに頼る事なくアノ艦隊を沈めた?」
「……りーど・ぐえるむ?」
聞きなれない単語を耳にし、眉をひそめる。
なんの事か訊こうとしたが、俺にはそんな時間的余裕さえ無かった。
恐らく『歪曲者』の手による物だろう。
破壊された宇宙が、自然に再生していく。
その最中、あろう事か俺達の前には――ヒト型の白い巨大ロボットが出現したのだ。
「つ……っ? ファミリア・フェレンスの機体ッ? いきなりそこまでするっ?」
「ファミリア・フェレンス? 何です、ソレ? もしやアレには人が乗っている?」
しかしソレがどういう事なのか俺は未だに気付かず、眉をひそめる。
今何が起こっているかわかったのは、直後の事。
「な――っ?」
「くっ! やはり、全ての都合は向こうに『優先』される、か!」
俺が剣を振り上げるより速く、全長二十メートル程のロボは俺の腹を蹴ろうとする。
バカげた事に物理法則を無視して、秒速百グーゴルプレックスキロで、蹴りを放つ。
ソレを、俺は手にした剣でどうにか防ぐ。
「それで尚、防御が可能ですってッ? 本当にアナタ、何者なのよ、帝っ?」
「それより、もう一度訊きます! アレには人が乗っているのですねッ?」
俺の問いに、シーアは頷く。
だとすれば、どうする?
このままその人物を殺せば、今度こそ本当に交渉は完全に決裂するだろう。
アレに乗っているのが彼か彼女かは知らないが、その仲間は決して俺を許すまい。
いや、ソレとは関係なく、俺が動く度に、何故か敵の攻撃が一瞬はやく決まる。
「これは、何かの術ッ? つまり、このロボに乗っている人物も、私達と似たような能力が使えるっ?」
「……かもしれないわね。今この■■は、帝が■■になりかけているから」
「は、い?」
ますます意味がわからん。
つーか、負ける気はしないが、このままじゃ勝てる気もしない。
それほどまでに、かの巨大ロボは理解不明だった。
「まさか――『優先』ッ? 常に向こうの都合が『優先』される能力っ?」
けれど、この問い掛けを、シーアは首を振って否定する。
「論理的にはそう。けど実際のところは――アレがニンゲンより上位の存在だからよ」
「ニンゲンより、上位の存在……?」
三億五千万回目の攻撃を防ぎながら、俺は顔を曇らせる。
その時、シーアは意を決した様に俺に視線をやった。
「そう、ね。ここまで来た以上……私も腹を括るしかないか。良いわ――やってやろうじゃない! 帝――何とかアレから百キロほど距離をとって!」
意味がわからない。
理解も不能。
ただ察し得る事は、シーアのナニカが変わったという事。
ならば、俺がやるべき事は決まっている。
「おおおおおおおおおおおお――!」
俺は今かけている術を全開にし、ソレを武器にあのロボの都合を一瞬だけ塗り替える。
俺の都合を優先させ、シーアの希望通り百キロほど間合いをとる。
「本当はもっと綺麗な形で渡したかったのだけど、仕方ないわね。余り驚かないでよ、帝」
「なに……?」
今更、何を驚くと言うのか?
そうは思った物の、これには少し驚愕した。
何故なら俺のすぐ後ろには全長二十メートル程の――黒くて髑髏の顔をしたロボットが出現したから。
「じゃあ、行ってみましょうか――ベーダーマン!」
「ベーダーマン……ですって?」
今、唐突に――シーアはその名を告げる。
俺とシーアは吸い込まれる様に、黒いロボの腹部にある搭乗口へと行き着いたのだ――。
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