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ベーダーマン  作者: マカロニサラダ
25/37

25ヒトはこれをデートと言うのでは?

 すみません。

 デート編を一気に解消したかったので、今回も少し長めです。

     ◇


「というか、そもそも帝って水着持っているの? 後、ちゃんと泳げるわけ?」


 プールにつくなり、シーアが基本的な事を訊いてくる。俺は当然の様に頷いた。


「一応、水着も持っていれば泳げもしますね。私は誰かさんと違い、運動神経抜群なので」

「……え? その誰かさんって、一体誰?」

「………」


 あれ、本気で訝しんでいる顔。

 どうやらシーアさんにはそういった自覚がないらしい。

 それとも、俺の誤解なのか?

 シーアは実のところ、運動音痴じゃない?

 そんな事を熟考しながら、更衣室で水着に着替えはじめる。

 

 すると、またもシーアさんが眉をひそめた。


「……は? 何でビキニタイプの水着? 帝って、男のヒトにやらしい目で見られるのが何より厭な筈だったんじゃないの? だっていうのに、何でそんな大胆な水着を選んだのよ?」

「はぁ。私も心底からそう思っているのですが、天の意思が働き、こうなりました」

「――天の意思って何よっ? この星には、一体どんな因果が存在しているのっ?」

「いえ、漫画でもよくあるじゃないですか。大人しい性格の子が、なぜかプールに来ると大胆なビキニを着ている事が。具体的な例を挙げるとコウです」

「いや、具体的な例は挙げなくて良いから! 色んな方面に迷惑がかかりそうだから、止めにしましょう!」

「そうですか? ま、とにかくそう言う事です。男嫌いの筈の私がビキニなのは、天の意思による采配なのです。これは何者にも変え難い絶対の法則なので、その辺りはご了承ください」

「………」


 俺が白のビキニを着ながら言い放つと、シーアさんはジメッとした半眼を向けてくる。

 それでも彼女は瞬時にして例の黒のビキニに服を変え、大きく伸びをした。


「ま、いいわ。私も丁度体を動かしたいと思っていたし、思う存分楽しむ事にしましょう。……というか、帝に対するツッコミ疲れが今頃蓄積し始めたわ」

「……いえ、私は星良にツッコミを入れていたあの日々が、凄く懐かしいのですが」

「だからまた黒いオーラがにじみ出ているって! 良いからさっさと行くわよ! これ以上暗いアンタなんて見てられないんだから!」


 快活な様子でシーアは俺の背中を押してくる。

 このシーアの勢いに促されながら、俺達は共に更衣室を後にしたのだ。


     ◇


 ついでプールへとやって来た俺とシーアは、その広さにまず驚く。

 東京ドーム以上の広さである其処は、普通にビーチバレー場とかも完備されていた。


「これは思いの外楽しめそうね。ひと泳ぎした後は、帝とビーチバレーでタイマンを張るのも面白そうだわ。今日こそ私の性能が如何に高レベルか、帝に思い知らせてやる」


 キシシと笑いながらシーアは早速準備運度を済ませ、プールに浸かる。

 視線だけで俺も速やかに来るよう促し、俺もこれに応じた。


「じゃあ、いよいよ勝負の時よ、帝。ルールは簡単。私と一緒に泳ぎ、どっちが先に五十メートル泳ぎきるか競争ね。負けた方は今日、家の掃除をするという事でどう?」

「え? そんな罰ゲームでいいんですか? 一生勝った方の奴隷になるとか、そういう条件でなくて本当にいい?」

「――だから一々発想が重たすぎるのよ、帝は! プールの競争で負けた方は奴隷とか、どんな人生を歩んでいればそういう事になるのっ?」


 いや、俺、これでも普通の人生を歩んでいるつもりだぜ?

 ただ変質者に襲われそうにはなったけど。

 意中の女子には、存在自体忘れられているけど。


「……だから、その時点で十分重いっていうの。いいから行くわよ。あ、それともちろん〈体概具装〉や〈外気功〉とかいう強化業はなしね。ぶっちゃけアレらは反則すぎる」


 言うが早いか、開始の合図も口にせず、シーアは泳ぎ始める。

 俺はソレを追う形となりクロールで水泳を開始。

 ここに神代帝対シーア・クレアムルの第一ラウンドは――始まりを告げたのだ。


《というか――思ったよりやりますね?》

《あったりまえよ。何せ私は、この星の情報をインストールされているんだから。泳ぎ方だって、クロールからバタフライまで何でもオーケーよ! いえ、コウできるようになったのは最近の事なんだけど》


 そういえばシーアがやって来た日、そんな事を言っていたかも。

〝自分はこの星の平均データを、全て把握している〟と。


 事実、バタフライで泳ぐシーアのフォームは完璧だった。

 まるでオリンピックの金メダリストその物の泳ぎ方だ。


 つまり、今の彼女の性能は平均値どころではないという事。

 その分速度も速く、これは優に日本代表クラスと言って良い。


 故に――負ける。

 一般人である俺が――金メダリスト級であるシーアに勝てる筈がない。

 ソレは絶対の法則であり――覆し様のない実力差だ。


 いや、本当にその筈だった。


「何ですって――っ?」

 けれど、追いつく。

 俺は割と簡単にシーアに追いつき、やがて普通に追い越していた。


《そういえば、前に星良が言っていた質問にまだ答えていませんでしたね。私と星良にはなぜ運動能力に差があるのか? ステータスだけで言えばそれほど差はない筈なのに、なぜ私の方が星良より上か? それは実に単純な話です。単に私は肉体を鍛える事で、全ての能力を底上げしているだけなのだから》


 そう。その為の朝練である。

 俺が『重』の概念を纏いながら走り込みをしているのは、自力を向上させる為。

〈体概具装〉に頼らず、生身の状態で超常的な力を得る為である。


 よって今では〈体概具装〉抜きでも、俺の身体能力は生身の人間を遥かに上回る。

 十キロメートルも二秒未満で走り切る自信がある。


 この自信に裏打ちされた俺の運動能力は、だからシーアのソレを凌駕した。

 気が付けば俺はプールの端にタッチし、シーアは顔をしかめながらソノ様を見届ける。


 それから彼女は、こう告げたのだ。


「――って、大人げない! 普通こういう勝負は、彼女に花をもたせる物でしょうっ? なのに何本気になっているのよ、この男は!」

「………」


 そうだったのか。

 シーアは俺の彼女だったのか。

 今、初めて知った。

 後、俺は断じて男ではない。

 少なくとも躰の方は。


「成る程。そういう趣旨でしたか。確かに星良が相手だとしたら、私も本気になる筈ありませんね。そう考えると、実に説得力がある言い分です」


 シーアが俺の彼女、という設定を除けば。

 いや、違うよ?

 シーアは断じて俺の彼女という訳じゃないから。


 俺がそう思っているとはつゆ程も知らず、シーアは目を怒らせる。


「わかれば良いのよ、わかれば。と言う訳で帝は今から体重の一億倍の『重』を纏って行動なさい。それ位が丁度いいハンデだわ」

「――いや、流石に一億倍は死にますよっ? 普通にぺちゃんこになります! 前から思っていたんですが、実はアナタ私に殺意とか抱いていますっ?」

「――え? 今頃気付いたの?」

「………」

 

 事もなくシーアは微笑む。

 その悪戯気な微笑に圧倒された俺は――ただ黙然とするほかなかった。


     ◇


 それから、俺達はプールでのデートを満喫した。

 何度か競泳した後は、先の提案通り一対一の変則ビーチバレーを嗜む。

 ハンデがある俺とシーアの実力は拮抗していて、中々のせめぎ合いとなった。

 俺がアタックしたボールをシーアは受け止めて打ち上げ、そのままアタックする。

 それを俺も受け止めて打ち上げ、アタックする訳だが、その繰り返しが二時間も続いた。

 やがてシーアはタイムを要求し、上品に微笑みながらこう言い出す。


「オホホホ。ちょっと花摘みに行ってきますわ」

「………」


 あれって、もしかして俺の真似だろうか?

 もしそうなら傷つくなー。

 俺、あそこまで露骨じゃないし。

 

 と、シーアがトイレに行くのと同時に、俺にも異変が起こる。

 唐突に、背後から声をかけられたのだ。


「なかなか可愛い彼女ね。パッと見、実にお似合いなカップルだわ」

「………」


 それは茜色の長髪を背中に流した、十代半ばの少女だ。

 髪の色に合わせた色をしたビキニを着て、腰にパレオを巻いたその少女は微笑を浮かべる。


「……彼女って、あの金髪ツインテールの子の事ですか? 何と言うか、それってとんでもない暴論ですね」

「そう? 私としては、実に仲が良さそうに見えたけど。ま、当人が否定するならそこまでの話かしら?」


 言いつつその長身の少女は踵を返す。

 というか、良く見たら俺と同じ位の美少女様だ、彼女は。

 やはり世の中は広いなと感心していると、シーアが戻ってくる。

 どうも遊び疲れたらしい彼女は、設置されたベンチに座り一息ついていた。


 俺もそれに便乗し、ベンチに座る。

 するとシーアは、何の前置きもなく、こう切り出した。


「というか帝――いいかげん猫被るの止めない?」

「は、い?」

「いえ、今ふとそう思ったのよ。帝がストレス溜めている最大の理由は、その猫被りにあるんじゃないかって。実際、帝もそうする事でプレッシャーを感じているみたいだし。もう楽になってもいいじゃないかと思ったの」

「………」


 一体どういう心境なのか、シーアは心配そうな視線を俺に送る。

 なら、俺はその誤りを正すほかない。


「いえ、それは誤解です。私は別の自分になり切る事で、プレッシャーを軽減しているのだから。こうやって女子を演じていれば、私の正体に誰も気づかないだろうし」

「だから、それが思い違いだっていうの。私が思うに、別に普段の帝でもアナタが男だなんて誰も気づかない筈よ。それ位の言葉づかいの子なんて、割とザラにいるし」


 シーアは普通に言い切るが、俺は露骨に疑いの目を向けた。


「え、まさか。あんな男口調の女子なんて、私、見た事がありません」

「そう? それは帝がお嬢様学校に通っているからね。普通の女子高なら〝アホじゃねえ?〟とか〝ヤバくねえ?〟なんて普通に使っているわよ。後、夏はスカートをビラビラ扇いで下半身を少しでも涼しくしようと躍起になっている」

「………」


 マジか? 普通の女子高って、そんなに男臭いのか?


「ええ。何せ男子の目を気にする必要がないから。女性らしさとか平気で放棄して、男性化しつつあるわね、真っ当な女子高の女子は。少なくとも私が得た情報ではそう。ま、無理強いはしないわ。帝には帝の考え方があるんだろうし。それでも、少しは私の意見も参考にしてもらえれば嬉しいかな」

「………」


 言いつつ、シーアはまたも微笑む。

 内心それに何故か胸を締め付けられながら――それでも俺は素知らぬ貌で彼女を見た。


     ◇


 それから俺とシーアは、プールを出た。

 四時間ほどもプールを満喫したので、お腹が空いたからだ。


「そうですね。それでは、ここはオシャレにパンケーキでも食べに行きましょうか?」


 俺が提案すると、シーアは迷う事なく食いついてくる。


「――パンケーキ! 良いわね! 帝が作る料理も美味しいけど、パンケーキにはパンケーキにしかない魅力を感じる! という訳で、さっそく食べに行きましょう!」


 ここに来て、シーアのテンションが上がりまくる。

 俺は失笑しながら、先に西の方角へと歩を向けたシーアを追う。


 その時――俺達二人は同時に驚きの声を上げたのだ。


「アレ……?」

「うわ!」


 俺は首を傾げ、シーアは顔をしかめる。

 多分、その理由は一つだろう。


 何故って――空を見上げてみれば其処は数億にも及ぶ円盤らしき物で一杯だったから。


 そう。驚くなかれ。

 ああして色々な設定を並び立てたのだが、実はソレとか、ほぼこの話には関係ないと知らされる事になる。

 この物語はこの時点で、完全に明後日の方角に向かい、一変したのだ―――。


 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 マカロニサラダは皆様の、評価をお待ちしています。

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