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ベーダーマン  作者: マカロニサラダ
24/37

24シーアさんとお出かけ

     ◇


 俺が声を上げたのは、それから五分ほど経った頃。


「そうだなー。マジでヒマだし。本当にデートでもするか、シーア?」

「は、い?」

「だから、デート。このまま家に居ても、クサクサするだけだし。気分転換でもして、憂さを晴らそうぜ」


 主にストレスの余りついこの星の滅亡を願ってしまい、俺がソレを実行しない為にも。

 半ば真剣にそんな事を思いながら、シーアに目を向ける。


 彼女は露骨に眉をひそめた後、俺を睥睨した。


「それは、マスターとしての命令って事? 私に、アナタの気分転換につき合えってそう強制しているのかしら?」

「いえ、そんな訳ないじゃないですか、シーアさん。逆に私はお願いしている位なんですよ? なんなら、土下座してアナタの靴の裏とか舐めましょうか?」

「――なんでそんなに卑屈なのっ? アナタ、今、どんな精神状態なのよッ?」


 いや、正直危うい精神状態ではあるのだが。

 星良が恋しすぎて、マジで生きるのが辛い。

〝○○ちゃんが可愛すぎて生きるのが辛い〟という話は良く聞くが、まさかアレは本当だったとは!


「で、返事は? 俺の暇つぶしに付き合う気はある?」

「……ま、いいでしょう。私も何だか退屈だし」


 シーアは納得し、それからムっとした顔をする。


「但し、デートと言う表現は冴木さんに悪すぎるから、なし。アンタもね、ちゃんとそういう事、考慮しなさい。なので、ここは〝一緒にお出掛け〟という表現を採用する事にするわ」

「今思ったんだけど……シーアって意外とつまらない女だよな?」

「うるさいわね! 私をアンタみたいな、謎設定の塊と一緒にしないで! 私はアンタほど、色物キャラじゃないのよ!」


 それだけが私の、唯一の誇りだわとシーアさんは続ける。

 でも、ソレ、未だに正体がわからない人が言う台詞じゃありませんよ?


「ま、いいや。これ以上、話ていても埒が明かない。早速、出かけようぜ。その前に一つだけ疑問があるんだけど、シーアはその服のまま外出する気か?」

「つまり、私にも年相応の服を着ろと?」

「うん。流石にその二次元よりな服は不味かろう? 何かのコスプレだと思われて、その筋の人達からサインとか強請られるぜ、きっと」

「わかった……」


 ならばとばかりに、シーアは白いワンピース姿に変わる。

 服の色が黒から白にかわり、そのギャップを前に俺は素直に感嘆する。


「似合っている、似合っている。いや、この物語がギャルゲーじゃなくて良かった。仮にギャルゲーだとしたら、立ち絵のパターンが増えて、製作者さんの負担が増すところだったぜ」

「何言ってるのッ? なに意味不明な事、くっちゃべってるのよっ? 私にも、限界って物があるの! ツッコミ様のないボケが存在しているのよ! その辺り、ちゃんと理解しておいて!」


 それで、話は終わった。

 シーアの魂のツッコミを聴き届けた後――俺達二人はいよいよ外出する。


     ◇


 で、お出かけである。

 シーアさんと一緒にお出かけ。

 

 その前に、俺が知るシーア・クレアムルについてまとめてみよう。

 基本、俺は彼女の事を殆ど知らない。

 今も俺の腹に刺さっている剣のナビゲーションシステムらしいが、ソレも怪しい話だ。

 何せ、彼女は全く役に立っていない。

 俺にとってプラスになる様な説明は、今まで一度としてなかったのだから。


 その癖、自分を守る為の装備は充実していると言う。

 俺は使えないシールドを完備し、その力を以てラメルドの攻撃から身を守った。

 俺の命より自分の命を優先している節があり、常に己の身の安全を第一に考えている。

 

 いや、きっと普通の人もそうなのだろう。


 誰もが自分の命こそ最優先。そう考えると、シーアほど人間臭いヤツもほかに居ないと思う。

 星良は自分の命を擲つ危うさがあったが、シーアは真逆の性格と言っていい。

 

 きっと偶に俺に身を案じるのも、自分が死にたくないからだろう。


 俺が死ねば、シーアも死ぬ。


 この関係性がなければ、今頃彼女は俺を見捨てているのかも。

 そう感じる程にシーア・クレアムルとは、生き汚いしたたかさを持ち合わせている。

 星良と違い、シーアは俺の為に死ぬなんて事はないと言い切れる。

 それでも憎めない性格をしている彼女は、実際に俺の魔の手から何度もすり抜けている。

 本気で殺そうと思った事があるにもかかわらず、今日まで彼女は生き残ってきた。

 

 つまりはそう言う事で――俺の目から見るとシーアは決して悪いヤツではないのだ。

 その反面、実のところ敵なのか味方なのか未だにわからない。

 彼女とは色々あったが、もしかすると俺達人類の敵という可能性だって零じゃない。


 この腹に刺さった剣が何なのかは、不明だ。

 だがその出自によってはシーアこそ人類の大敵であり、ラスボスという事だってあり得る。


 この剣が何者によってつくられ、どうして俺の腹に刺さったのかは謎である。

 けど実はシーアが全ての黒幕という話だってあるかも。

 そう考えると、まだシーアに気を許すのは早計と言える。

 彼女はこの剣が何なのか知る為の手がかりだが、それがプラスになるとは限らないから。

 もしかすれば、思いもかけない秘密があって、ソレはこの星を滅ぼしかねないのだ。


「………」


 いや、我ながら些か飛躍しすぎか?

 幾らなんでも、一つの惑星が消えて無くなるなんて事はありえない?

 案外俺の考えすぎで、実はたいした代物ではないのかもしれない、この剣は。

 間違いなく地球の技術でつくられた物ではないだろうが、それほど破壊的な物ではないかも。


 楽観的に考えればそうなのだが、実情はわからない。


 俺の悩みどころはそこで、俺はシーアとどうつき合えばいいのか、迷っていた。


「って、さっきからなに黙り込んでいるのよ、帝は? もしかして体調でも崩した?」


 シーアが怪訝な表情を向けてくる。

 彼女と共に街へとやって来た俺は、曖昧な表情で首を横に振る。


「いえ、何でもありません。ただ、改めてアナタって何者なんだろうと思っただけで」

「……は? まさか帝、私が何かよからぬ事でも考えているとか思っている? 例えば、この星を征服する為にやって来た先遣部隊とか考えているんじゃないでしょうね?」

「……アハハハ。実はそんな可能性もあるかなと思いましたが、アナタの口から聞いて気が変わりました。

 だって、そんな重要任務を任せられるほど大物じゃないでしょう、シーアさんって」


 俺が断言すると、シーアは明らかにヘソを曲げた。


「……要するに帝の中の私は、小物だと言いたい訳ね? 本当にいい度胸をしているわ。この私にそんな口がきけるなんて。アパトルテあたりが聴いたら、どう思うかしら?」

「……あぱとるてって、誰です? シーアさんのお友達?」

「………」


 と、シーアは何故か黙ってしまう。

 それから暫くして、彼女は漸く口を開いた。


「……いえ、もしそう名乗る奴が現れたら、逃げなさい。脇目もふらず、逃げの一手よ。ま、さすがの彼女でも、この星にまで目は行き届かないと思うけど」

「……はぁ。良くはわかりませんけど、要するに危険人物なんですね、ソノ人?」


 が、やはりシーアは明確な回答は避ける。

 今まで見た事がないような複雑な表情で、ただ彼方を見ていた。


 そこで、俺は今日街に繰り出した趣旨を思い出す。

 俺はシーアと込み入った話をする為に、こんな所まで来た訳ではないのだ。

 今日は何も考えず――シーアと遊び歩く。

 例え彼女がラスボスだとしても、今はそうではないと信じたい。

 シーアが流してくれたあの涙に酬いる為にも、今日は彼女を楽しませるのが俺の役目の筈だ。


 気持ちをそう切り替えて、俺はさっそく目的地に向け歩を進めた。


「そう言えば、私達っていま何処に向かっているの? 先ずは映画でも見て、気分を盛り上げる気?」

「いえ。ここは一つ運動でもして、陰鬱な気分を発散させましょう。この先に屋内プールがありまして。ちょうど其処のチケットが余っているんですよ」


 俺が言い切ると、見るからにシーアは渋い顔をする。


「――え? また水着ネタ? それ数日前もしたわよね?」

「そうですね。仮にこの物語がギャルゲーなら、製作者は手抜きの誹りを免れないでしょう。背景をお風呂場から、プールに変えただけですから。イベントシーンでも入れれば話は別ですが」

「――だから、意味がわからないのよ! なんでさっきからそんなにギャルゲーにこだわる訳っ? 帝、そっち方面に興味があるのっ?」


 シーアさんのツッコミを前にして、俺は首を振る。


「いえ、まさか。幾ら私の心が男でも、そういった方向のゲームはした事がありません。……二次元の女子より、星良の方が魅力的でしたからね。その星良とは二度と親しくお話とか出来ない訳ですが……」

「――躰から黒いオーラが発散されているっ? いいから落ち着いてちょうだい、帝! わかったから! プールで溜まったストレスを発散する方向で話を進めて良いから! 今は冴木さんの事はちょっと忘れましょう――っ?」


 俺のヤバゲな様子に危機感を抱いたのか、シーアはなだめる様に了解の意を示す。

 これに乗っかる形で、俺は重い足取りながらそのプールに向かったのだ。


 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 マカロニサラダは皆様の、評価をお待ちしています。


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