22全く関係ない話
◇
「そうだな。じゃあ、今から俺とデートでもするか、シーア? これから街に繰り出して二人きりの時間を満喫しようぜ」
「……はぁっ? なに言ってるのアンタッ? なんで、話がそんな方向にっ?」
心底、意味不明と言った体で、シーアは此方に身を乗り出してくる。
俺は、首が無いウジ虫を見る様な目で彼女を見た。
「いや、今のは冗談のつもりだったんだけど」
「冗談ッ? 冗談ですってっ? アンタ、ただの冗談で人の事、これほどドキっとさせたっていうのッ? いい加減、ブッ殺すわよっ?」
「………」
……それはコッチの台詞だ。
一体なんど、消し飛ばしてやろうと思った事か。
「というか、今はそういう話をしている時じゃないでしょ! 如何にして、キロ・クレアブルを倒すか相談しているところじゃない! それを、アンタってば!」
プンプンしながらシーアさんは腕を組み、またソッポを向く。
なら、俺は些か残念で、この上なく残酷な事実をハッキリ口にするしかない。
「いや、ソレ、たぶん無理だから。今の俺でも、キロ・クレアブルは倒せない」
「え……?」
「ああ。根拠は無い。根拠は無いけど俺の勘がそう言っている。今の俺でも、あの女は倒せないって。いや、もしかしたらシーアの言う通りかもしれない。俺は本当に、鹿摩帝寧の生まれ変わりなのかも。だから『死界』でキロと会った事がある帝寧皇の記憶が、俺にそう言わせているんだろう。〝まだ鹿摩帝寧に届かない今の神代帝では、キロ・クレアブルには勝てない〟って。もし根拠をあげるなら、そんなところだな」
この説明じゃ不服か、とシーアの顔を覗き込む。
彼女は、ムーと目を怒らせた。
「……わかったわよ。その件に関しては、一先ず諦める。私も、死にたくはないしね」
「だったな。そういうところは、俺と真逆だ。俺は一度だって自分の命が一番大事と思った事がないけど、シーアは違う。オマエは常に、自分が如何にして生き残るかを計算している。それは俺にはないしたたかさだ。正直、羨ましいよ」
「うっさいわねー。何か、褒められている気がしないんだけど?」
「だな。余り褒めてはいないから。寧ろ、プライドが低くて生き汚いって罵っている位だし」
「ますますうるさい! もういいから、帝は暫く黙って!」
なら、黙ります。
でも、そう考えるとますます謎である。だからこそ意味不明なのだ。
なんで、件のバリヤーはシーアしか守れないのか?
俺が死ねばシーアも死ぬなら、普通、俺もバリヤーが使える筈だ。
つまりそれは、俺にはバリヤーなんて必要ない、ナニカがあるって事ではないのか?
バリヤーなど不必要なナニカを、この黒い剣は兼ね備えているのでは?
そう考える一方で、今は答えを出すのは止めておく。
剣についての話は、さっき一応の決着をみた。
また蒸し返しても、仕方あるまい。
今はシーアが自主的に報告してくるのを、待つだけだ。
以上の様に結論し、俺は今になって漸くソファーに座った。
「そう言えば前から謎だったのだけど、この町の外の世界との兼ね合いって、どうなっているの?」
と、俺に黙れと言ったシーアは、自分から俺に疑問を投げかけてくる。
なんて勝手なヤツだ。
「外の世界って、普通の人間社会の事?」
「そ。普通の人達は、アナタ達の事に気付いている?」
「ああ。少なくとも、お偉いさんのお偉いさんは知っている」
「それって、もしかして皇族近辺の人達?」
相変わらず、シーアはこういう事には勘が働く。
俺は頷く事で、彼女の推理を肯定した。
「正解。何でも『異端者』の村ってのは数百年ほど前、そこかしらに点在する様になってさ。そのコミュニティーをつくりあげた開祖が、橋間遠麒ってヒトなんだわ。その頃は村に結界を張っていれば、人間に見つかる事もなかったんだけどな。近年、航空機とかが開発されてからは、そうはいかなくなった訳。流石に空から見れば、一目瞭然だし。
そんな訳で、当時から町長だった帝寧皇達がこの国のお偉いさんと話し合ってさ。人と『異端者』は、お互いに干渉し合うのは止めようって事になったんだ。
いや、これがまた徹底していて、例の大戦の時でさえ何もしなかったっていうんだから、ドライだよな」
「成る程。じゃあ、この国の政治家は、その事を口止めされている?」
「ああ。政治家になって、まず初めに言われる事は、どこそこにある町々には手を出すなって事。その話自体、生涯秘密にしろって言われる。当然守らなかった人も居たらしいけど、その時は俺達もその人に干渉したらしいぜ。こう、自衛権を行使する意味でも」
「……つまり、その人の記憶を消したり、弄ったりした?」
「だな。幸いそう言った能力者はごまんと居るからさ。今の所、誰かを殺したという話は聞いてない。いや、皮肉な話だよ。ヒトが人を殺すより、人が人を殺すケースの方がずっと多いって言うんだから」
ここまで話たところで、シーアは何故か目を細めて俺を凝視する。
「じゃあ――こっからが本題なんだけど」
「……え? 今の関係ない話だったの? その割には前振り、余りに長くない?」
「勝手に話を長くしたのは、帝の方でしょうが。ま、確かに、本題とは全く関係ない話題ではあったのだけど」
「ああ」
そこまで話が進んだ所で、俺は彼女が何を訊きたいのか、わかってしまう。
ただの直感だったけど、確信めいたものが胸裏に過ぎっていた。
「それは――俺がなぜこうなったか?」
「……だから、なんでこういう時に限って、帝は勘が良いのよ?」
多分、数日前のシーアなら、もっと気軽に訊いてきただろう。
けど、今の彼女はあの頃とはちょっと違っていて、俺の闇に触れてきている。
その経験が、俺に対する警戒心を持たせたのだろう。
少なくとも神代帝はそう解釈しながら、何時かの様に天を仰いだ。
「つまらない話だぜ?」
「ええ。それでも、聴かせて」
そしてシーア・クレアムルは――やはり挑む様に告げたのだ。
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