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ベーダーマン  作者: マカロニサラダ
21/37

21強がりと気遣い?

 今回も少し長めです。

     4


 それから、俺は彼女に向き直った。


「で――〝アレ〟は何だったんだ?」 


 あの日から数日経った頃、俺はシーアにそう訊ねる。

 俺の家のリビングでテレビを見ていたシーアは、何故か口ごもった。


「……アナタ、随分タフね? 私、帝はもう少しふさぎ込んでいると思ったのだけど?」

「ああ。こういう時に備え、メントレしているからな」

「その割には、三日間も無気力状態だった……あ、いえ、何でもない。それで何だったっけ? 〝アレ〟って一体なによ?」


 ……つーか、コイツ。ワザと惚けてないか?


「だから、星良を生き返らせた力と、『葬世界師』の業を防いだあの腕の事だよ。何時の間にか消えていたけど、間違いなく〝アレ〟はこの剣の力だろ?」


 だったら、この剣のナビゲーションシステムであるシーアが、知らない筈がない。

 俺の問いかけに、シーアはフムと頷き、笑顔を浮かべた。


「いえ、全くこれっぽっちも、私にはわからないわ☆」

「………」


 ギャルピースをしながら、ほざく。

 ……コイツ、マジで、産業廃棄物扱いでも良いから、どっかに棄てたくなってきた。

 それが改めて俺がヤツに対して抱いた感想だった。


「ちょっと待ってッ? 目が、帝の目があの頃に戻っている! 私にビームを放ったあの日の目にっ?」

「たった今、そういう気分になったからな。誰がそうさせているのかは、俺もわからんが」


 この脅しが効いたのか、シーアさんは改めて小首を傾げる。


「……え、えっと、多分少年漫画みたいなノリで、帝が未知の力を引き出したという感じじゃ?」


 いや、ここまでくれば、俺でなくとも察する物があるだろう。

 ソノ思いを、俺はただ口にする。


「オマエ……俺になにか隠してないか?」

「えっ、まさか! この私が、帝に隠し事なんて!」


 露骨に目を逸らしながら、ヤツは答える。

 ……子供でもわかる。

 明らかに、何か隠している様子だ、これ。

 なのに、俺はアノ時の事を、思い出してしまった。


〝――帝が泣かないから、私が代りに泣いてあげているからに決まっているでしょうが〟


 あの声が脳裏に反響し、気が付けば、俺の矛先は鈍っていた。


「……ま、良いや。わかった。なら、もう一度だけ見逃してやる。だが、次はないぞ? わかっているな、シーアさんや?」

「はい……? み、帝にしては追及が甘いわね? 一体どういう心境の変化よ? もしかして三日間も学校に行ってないから、頭のネジが緩んだ?」

「違う。学校に関しては今クラスを変えてもらう手続きを行っている最中。あの日の夜の内に玉恵さんや担任に電話で話してさ。連絡網を駆使して、この町の全町民や全級友に連絡したんだ。この町やクラスぐるみで、俺と星良がどんな仲だったか秘密にしてもらう様に。これ以上俺に関わると、思い出したくない過去を思い出しかねないから、という名目で。

 そんな訳だから、俺、明日から星良と別のクラスになるんだわ」

「そ、そこまでしたんだ? 私、偶に帝の行動力が恐ろしくなる時があるわ」

「それはそうと、オマエ、よく死ななかったな? あんな風に、戦艦のビームが乱射された中に居て」


 俺から二十メートルしか離れられない、シーアの事である。俺同様、死地に居たも同然だろう。

 だというのに、なぜ彼女は無事なのか?

 その答えは、実に単純だった。


「……ええ。もう必死にバリヤーを張り巡らせて、耐え抜いたから。……いえ、思い出しただけで、今でも嗤いがこみあげてくるわ」

「……バリヤー? でもオマエ、この剣に触れないとバリヤーは張れないんじゃ?」


 後、嗤いって何だ?


「あー、私も丁度レベルアップしたのよ、あの日の夕方に。だから、もう剣抜きでもバリヤーが使える様になった、みたいな? 後、帝の近くなら、瞬間移動も出来るようになったわ。実際、帝も見たでしょ? あの『葬世界師』とかいうやつとアナタの間に割って入った私の勇姿を」


 ……レベルアップだと?

 そこはかとなく、ご都合的なヤツである。

 ソノ一方でシーアのバリヤーが無ければ、星良の躰も消し飛んでいただろう。

 そう言った意味では、俺としてもこのレベルアップは歓迎しなければなるまい。


 その時シーアが、全く関係ない事を言い始めた。


「にしても、良く考えたら、偉そうな名前よね、〝神代帝〟って。つまるところ〝神代の皇〟って意味でしょ?」

「その御意見には俺も賛成だが、それが何か?」

「うん。名前で思い出したのよ。あのラメルドってやつが言っていた〝鹿摩帝寧〟ってヒトの事を。それって、誰? 帝の親戚か何か?」 


 中々耳ざといヤツである。

 まさか一度しか挙がらなかった、その名前を憶えているなんて。


「いや、ぜんぜん関係ない。俺と鹿摩帝寧は、全くの他人だ。何せかの『覇皇』は、鴨鹿町の町長だったヒトだから」

「鴨鹿町って、例の黒理ってヒトが町保をやっている?」


 シーアの問いに、俺は今日も今日とて返答する。

 本当に最近の俺は、ただの説明キャラになり果てている。


「ああ。鹿摩帝寧は、四つあった鴨鹿町の一派閥を治めていた人物だ。何でもキロ・クレアブルに匹敵する能力者で、一度に数億もの宇宙を消す事が出来たとか」

「……数億もの宇宙を消す事が、出来た? ソレは、何かのギャグではなく……?」

「残念ながら本当だ。何せ帝寧皇は、一グーゴルプレックス分の一まで自己を薄めた状態で、全宇宙のエネルギーを操作出来たらしいから。なら、宇宙位は消せるだろ」

「一グーゴルプレックスってつまり10の10000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000乗って事………?」 


 そう驚愕した後、シーアは尚も続けた。


「要するにその皇様は、そこまで自分の存在を薄めた状態で、全宇宙のエネルギーを自分の物に変えた……? ……そんな事があり得ると?」

「らしいな。オマエじゃないが、実に嗤える話だ」


 すると、シーアは尤もな質問を口にする。


「ちょっと待って。じゃあ、なんでそんな出鱈目なヒトが、何もしない訳? それだけの力があれば、キロ・クレアブルだって倒せる筈じゃない……?」

「あー、それは無理。だってそのヒト、既に死んでいるから」

「し、死んでいる? な、何で? ……老死でもしたとか?」

「いや、普通に殺されただけ。鴨鹿町の町長の一人で、バソリー皇ってヒトに」

「前言っていた――謎の皇様ッ? というか、その皇様何者よっ? なんでそんな目茶苦茶なヒト、殺せるの――っ?」

「知らん。きっと彼女も、帝寧皇と同格の使い手なんだろ」


 俺が普通に言い切ると、シーアは本当に思いもかけない事を言い始める。


「……だから、一体何なの、この星のニンゲンは? いえ、そう言えば、帝の能力も周囲の力場を操作する系よね? そして、アナタは自分が何者かわからないと言った。それってつまり――神代帝は鹿摩帝寧の生まれ変わりって事なんじゃない――?」

「………」


 荒唐無稽ながら斬新ともいえるこの推理を前に――流石の俺も虚を衝かれる。

 けれど、その一方で、俺は淡々と首を横に振った。


「いや、それは無い。何せ、帝寧皇が死んだのは、一年前の事だ。俺がこうなったのは五歳の頃だから、その可能性は零だな」

「……五歳の頃? なら、こういうのはどう? アナタ、あの日、この世界には『死界』という物があるって言っていたわよね? 今はもう終わった世界があると。だったら、帝寧さんの『死界』の情報が何かの手違いでアナタに混ざったとしたら?」

「は……?」

「帝が、帝寧さんの意識と能力を引き継いだとしたら、全ての辻褄は合うんじゃない?」

「それ、は」

「その証拠に、帝も帝寧さんも名前に〝帝〟がついている。偶然にしては、出来すぎじゃない……?」

「あ……そういえば」


 思わず唖然とすると、シーアは完全に呆れた様な視線を向けてきた。


「って……今まで気付かなかったの?」

「うん。俺、男にはほんと興味ないからさー」

「……ああ、そうですか。今のは、実に帝らしいご意見だわ。因みに、その帝寧さんってどんなヒトだったの?」

「んん? 何でも、お妾さんが二桁ほど居たとか」

「――この女の敵が!」

「なぜ俺を殴るッ?」


 シーアさんに、グーで顔面を殴打される!

 まだ容疑段階でこの扱いは酷すぎですよ!

 中国兵だって、ここまではしません!


 しかも、彼女はまたガラッと話題を変えてくる。


「と、帝を殴った事で思い出したんだけど。そういえば、アナタ、例の変質者に賠償金を払うために町保に入ったんですってね?」

「だな。十歳の頃に無理いって入れてもらった。このとき口を利いてくれたのが、噂を聞きつけ白波町までやってきた黒理さん達って訳。〝自分達でも出来るんだから、神代さんに出来ない筈がない〟って感じで。でなきゃ、とてもじゃないけど町保に入るのは無理だったと思う」

「………」


 俺が遠い目をしていると、シーアさんは謎の沈黙を見せる。

 それから暫くして、彼女はまた疑問を投げかけてきた。


「……えっと、帝にはご両親に頼るという発想はなかったの?」

「それはあったさ。現に十歳になるまで、件の賠償金は俺の親が払っていた訳だし」

「いえ、そこはせめて成人になるまで待ってもらうとか。

 ……そうよ。帝は何でも、一人で背負い込みすぎる。ヒトがヒトの世界で生きていくなら、ヒトに頼る事は必須なの。他人を必要としない世界があるとすれば、それはアナタの周りに誰も居なくなった時。無人島にでも漂着して、誰とも関わらなくなった時よ。

 それ以外は、頼り、頼られるというのが真っ当な社会のあり方だと私は思う」

 

 何故か悲痛な面持ちで、シーアは項垂れる。

 その意味がよくわからない俺は、眉をひそめた。

 だというのに、俺は一つの回答に辿りつく。


「というか、あの時、俺の間合いが甘くなったのってオマエの所為だろ? オマエはあの時、後方に下がって、ラメルドから遠ざかった。その所為で、オマエから二十メートル以上離れられない俺もアレ以上踏み込めなかった。だから、俺はラメルドを両断できなかったんじゃないか?」

「だとしたら?」


 まるで挑む様にシーアは訊ねてくる。俺はただ思った事を口にした。


「いや、それこそオマエが言っていた他人を頼るって事かなと思って。……そうだな。だとしたら助かった。シーアが居なかったら、俺は筋違いの八つ当たりを最悪の形でかましていた。死んでいなかった星良の仇を、最低の手段でとっていたと思う。だから――ありがとう」

「は、い……?」


 何故かシーアが意外な物を見る様に、眼を広げる。

 それから彼女はソッポを向く。


「……アナタ、少し、変わった」

「は? そうか?」

「ええ。前ほど下品じゃなくなった。こういうのも、成長って言うのかしら?」


 が、このシーアさんの御意見を、俺は間髪入れず否定する。


「まさか。俺は成長なんてしない。何時だって神代帝は同じ所をグルグル回り続けるだけで前に進む事なんてない。ああ、成長なんてクソ食らえだ。俺は何一つ変わったりしてないよ」

「何でそこまで、頑なに否定する訳ッ? 帝の過去に、一体なにがっ?」

「それより、これからどうするか? 今日一日、ヒマな訳だけど」


 その割には、しっかり制服姿な俺であった。

 もう三百六十五日、制服姿な俺であった。

 だって、制服姿って楽なんだもん。キラ☆


「なんか完全復活した感が強いわね……帝ってば。それなら、こういうのはどう? 今から、鴨鹿町に行くというのは?」

「……鴨鹿町に? それって、黒理さんが言っていた〝俺の力について調べたい〟って話?」

「あー、その〝帝の力〟ってヤツなんだけど。帝が手にしてたあの剣ね、仮に完全解放していたら宇宙は――最低二億八千万個は消滅していたわよ」

「……え? ソレはギャグとかじゃなく?」

「ええ、ギャグではなく。だとしたら、こうは考えられないかしら? 帝寧さんの生まれ変わりである帝は、今こそ彼の遺志を継ぐというのは? 鴨鹿町の町保と連携して楔島に乗り込みキロ・クレアブルを討つというのはどう?」


 シーアのこの前向きな提案を前に俺は真顔となり、それから――決断した。


 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 漸く半分以上進みました。

 今後もどうぞご期待ください。

 マカロニサラダは皆様の、評価をお待ちしています。

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