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ベーダーマン  作者: マカロニサラダ
20/37

⑳激闘の後日談その二・そしてハッピーエンドへ

     ◇


 俺達が白波町に戻ってきたのは、あれから一秒も経たない頃。

 俺は星良を背負いながら、この町唯一の教会である彼女の実家に向かう。


「……星、良? どうしたの――星良っ?」


 俺達の姿を見た途端、星良のお母さん、冴木玉恵さんが狼狽する。

 彼女の気持ちが痛いほどわかる俺は、だからぎこちなく笑って星良の無事を知らせた。


「大丈夫です。見たところ、どこも傷は負っていません。今はただ、気を失っているだけで」

「一体なにがあったの、帝ちゃん……?」

「あ、えっと、その前に星良を休ませてあげて良いですか?」

「……そ、そうね。そうだったわ。私ったら、そんな事にも気付かないなんて」


 俺と玉恵さんは、二階にある星良の部屋に向かう。

 それから星良をベッドに寝かせた後、俺は堂々とホラを拭く。

『葬世界師』なる男に襲われ、そこを黒理刻羽さん達に救われたと説明する。

 玉恵さんは正に寝耳に水と言った面持ちだったが、彼女は安堵の溜息を漏らした。


「いえ、とにかく二人とも、無事で良かったわ。生憎、主人と海斗は留守なんだけど、さっさとあの二人にも帰ってきてもらわないと」

「それじゃあ星良さんも疲れているでしょうし、私も今日はお暇しますね。明日また、改めて星良さんのお見舞いに伺ってもよろしいでしょうか?」


 が、そこまで言いかけた時――その星良が目を覚ます。

 彼女は数秒ほど天井を眺めた後、身を起こして玉恵さんに向き直る。


「……お母、さん?」

「そうよ……私よ、星良。……ああ、本当に、良かった!」


 玉恵さんが、星良を抱擁する。

 なら、尚更俺は邪魔だ。

 この家族水入らずを邪魔するのは、どう考えても間違っている。


 そう思って、俺は星良と目を合わし、笑顔を浮かべた。


「それじゃ、今日のところは失礼しますね、星良。また、明日」


 だが、彼女はキョトンとする。


「……えっと。あなたは、誰だっけ?」

「え……?」


 そして、真顔で発せられた星良の言葉を聞いて、俺は悪寒の様な物を覚えていた。


「せい、ら……?」

「ん? あれ? 晴嵐の制服着ているって事は、私と同じ学校の生徒だよね? でも、あなたみたいに目立つ容姿の子なんて、居たかな? もしかして、転校生か何か?」

「……あ、あ」


 そこまで聴いて、俺は全てを察した。


「って、何言っているの、星良ッ? この子はっ……!」


 が、俺は手をあげ、玉恵さんを制止する。


「ええ。貴女が貧血か何かで倒れていたから、ここまで連れてきたんです。生徒手帳に、貴女の家の住所まで明記されていて、本当に良かった」


 俺は玉恵さんに耳打ちした後、一礼してから部屋を出る。

 そのまま俺は、数分程、その場に佇んだ。


《って、何だって冴木さんをあのままにして、出てっちゃうのよっ? あんなのはきっと一時的な記憶の混乱でしょッ?》


 シーアがそう訴える中、俺は自分でも驚くほど冷静だった。


《……いや、それはないよ。多分、星良は本当に俺の事だけ忘れている。きっとそれが彼女を生き返らせる条件だったんだ。そうだ。何でもそう都合よくいく訳がない。これが引き換え、これが、代償だ》


 なのに、俺は思わず一度だけ俯く。


《それでも、こっちが丸儲けの取引だ。俺と関わらなければ、星良はもう危険な目に合う事もない。彼女の安全は、保障されたも同然だ。そうだ。憧れを恋心と勘違いしていたのは、俺の方だ。俺はきっと、冴木星良の様な少女になりたかったんだ。神代帝は、彼女の様な女性になりたかっただけなんだよ》


 心からそう思いながら、俺は一度だけ、天を仰ぐ。

 なのに、何故か俺の視界はぼやけていた。

 

 唯一の心残りは、もう二度と星良との約束が果たされない事。

 きっと明日も星良と笑い合えていた筈なのに、そんな日はもう一生訪れない事だろう。


 その事を、心底、悔みながら、それでも俺はただ願う様に告げていた。


《だから――これで良い》


 こうして、神代帝の初恋は、これ以上ないハッピーエンドを迎えたのだ―――。


 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 マカロニサラダは皆様の、評価をお待ちしています。


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