表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ベーダーマン  作者: マカロニサラダ
2/37

②殺意と抗弁

     ◇


 というか、幾らなんでもこの状況で、俺が落ち着きすぎだと思った貴方は実に鋭い。

 だが、俺は別に、精神的に鈍感という訳ではない。

 異常な事には異常だとちゃんと反応できる、普通の感性を有している。

 だというのに、なぜ俺がこうまで冷静なのかと言うと、もちろん理由がある。


 俺自身がある種――異常な存在だからだろう。


 そんな訳で、俺は言葉を失いながらも、此方に背を向けているあの少女を観察する。

 俺の事など気にも留めず、全身が映る姿見で自分の事を確認している、あの少女を。

 年齢は、俺と同じ位。背も俺と変わらぬ程で、百六十センチはあるだろう。

 その彼女と言えば、俺とは逆に、えらくご満悦な様子だ。


 全裸なのに。


「……フム。でも、容姿は中々の物だわ。どうやら趣味が良いマスターを引き当てたようね。これって、結構ラッキーじゃん」

 

 が、それも束の間の事。そこで、彼女は漸く姿見の端に映る俺に気付く。


「えっ? はぁッ?」


 裸を見られている少女は、当然の様に恐慌する。

 それから此方を振り向いて、彼女は言い切った。


「私より美人! 私より美人! 私より美人! 私より美人! 私より美人が居る!」

「――そっちっ? 真っ先に気にしたの、そっちっ?」


 全裸である、自分の事ではなく? 

 俺に、全裸を見られた事ではなく?


「……いや、待て。取り敢えず、服を着ろ。あ、いえ、着て下さい。お願いしますから」

「………」


 土下座した。

 ベッドの上で土下座して、俺は彼女に頼み込んだ。

 ついで、俺はクローゼットを指さす。


「服は、あそこにある奴だったら、どれでも着ていいので」

「はぁ」


 名も知れぬ少女(てか、痴女)は気のない生返事を漏らす。

 ただ棒立ちしながら、彼女は首を傾げた。


「というか、服ならこの通り自由自在に作り出せるから、気にしないで」

「――なんとっ?」


 次の瞬間、少女はミニスカ黒ドレスを身に纏う。

 頭の両端で髪を結び、いわゆるツインテールで髪を纏める。

 まるでライトノベルの美少女キャラじみたそのセンスに、俺は半ば呆然とした。

 痴女から不審者にジョブチェンジした少女を前に、俺は何とか冷静になろうと努める。


「……えっと、それであなた、誰です?」

「んん? 何か、さっきと態度が違うわね。先刻はもっと、男の人みたいに雑な感じじゃなかった、あなた?」


 ……意外に鋭かった。

 俺のミスを、あの不審者は見逃していなかった。

〝服を着ろ〟というアノ男口調を。


 ならば、俺がするべき事は一つだろう。


「で、誰なんですか?」

「あひっ?」


 俺は笑顔で――人差し指から光線を放つ。

 それは躊躇する事なくあの不審者に向かうが、ソレをやつは紙一重で避けた。


「いやいやいや! ちょっと待って! 死ぬから、多分、それを食らったら私死ぬから今はクールダウン!」

「いえ、意味が全くわかりません」

「ひゃあぁッ?」


 笑顔で――第二射を発射する。

 ニガニガしくも、それさえあの不審者は回避した。


「だからストーップ! ストップよ、マイマスター! 私にも少しは時間的猶予をプリーズみたいなッ?」

「………」


 何だ、このそこはかとないポンコツ感は?

 聡いと感じた俺の直感は、間違いか?

 故に俺はフムと思案した後、彼女の要求を呑む。


「わかりました。では、後五秒以内に答えて下さい。五、四――」

「だから待ってってば! 第一、何で普通の人間がそんな事出来るのッ? 指からビームとかありえないわよね、常識的にはッ? あなたは常に全裸で生活している、全身真っ白な宇宙人か何かッ?」


 いや、非常識の権化である、あんたに言われたくないし。

 そうは思いつつも、俺は脱力しながら彼女を見た。


「成る程。どうやら、答える気は無いようですね? では――そろそろ死にますか?」

「は……っ?」


 この町全ての光粒子と熱エネルギーを『収束』する。

 それは、直径一メートル程の玉へと圧縮された。


「あわぁッ、あわわわわぁぁ~~~!」


 件の少女に向かって、それを発射しようとする俺。

 この絶対的緊張感を前に、少女は更にポンコツ化する。

 だというのに、やつは見事に俺の弱点を指摘した。


「わ、わかった! あなた、実は女装癖がある男性でしょう――っ?」


 そして、二度目のミス。

 そこは笑顔で術の行使を続けるところだったのに、俺は一瞬硬直してしまったのだ。


 それでも、俺は真顔で惚けてみせる。


「まさか。何を言っているんですか、あなたは? 私を男性だと誤解するヒトなんて、絶対いないと断言できますよ?」

「確かに、普通に考えればそうね。今でも認めがたいけど、あなたは私をも上回る美貌の持ち主。そんな美少女が実は男とか、絶対思いたくない。でも――はたして私がこうしても、そう言い切れる?」


 此方に近寄って来た彼女が、俺の胸に手を伸ばす。


「ほら、やっぱりオッパイがある。って――あるのっ?」

「………」


 セーラー服越しに、俺が十六年かけて育てた胸を揉みやがる。

 金も払わず揉みやがった。


「で、ナニカ言い残す事は?」

「あわわぁあぁぁっっ~~! あわわわぁあぁっっ~~!」


 お蔭で俺は更にヒートアップし、術の施行を継続する。

 容赦なく我が最終闘法を、目の前の大敵目がけて放とうとする。


 けど、その前にやつはもう一度口を開いた。


「――え、えっと、そう! 今、そんな業を使ったら、この部屋は大変な事になる、みたいなっ?」

「ああ」

 

 そうだった。つい気分がハイになってしまったが、そこはやつの言う通りである。

 この状況でこんな業を使えば、俺の部屋は間違いなく崩壊する。

 現に、さっき二発レーザー放っただけで、部屋の置物とか焦げているし。


 クマのぬいぐるみ(オス設定)の股間部分から、モクモク煙が上がっている。


「そうですね。確かに、これは私の早計だった様です。落ち着いて話を聴く気になったので、どうかあなたも安心して下さい」

「ほ、本当に本当の本当……?」

「勿論です。生憎、不審者が居るので、この場を離れてお茶も用意出来ませんが、どうかくつろいで」

「あの……その不審者ってやっぱり私の事なのよね?」


 しかし俺は答えず、ただ可憐な笑みを浮かべ続ける。

 慈悲深くも彼女の為に座布団を用意し、席を勧めた。


「……はぁ。なら、遠慮なく」


 座布団に正座した彼女を前にし、俺も床に正座する。

 文字通り、俺とやつは膝と膝をつき合わせたのだ。


「じゃあ遠慮なくついでに訊いておくけど、マスターのその姿ってありえなくない?」

「……ありえない、とは?」

「いえ、今どきの女子高生は、もっと攻めているって事。膝上二十五センチのミニスカートとかが、普通なんじゃないの?」 


 いや、そんなのはもう、アニメや漫画だけの産物だ。

 今は、割と長めなのが主流となっている。

 短くても、膝上七センチ位?


「でも、確かにそうですね。我が校でも膝下六センチを維持しているのは、私位ですし」

「はぁ。後、それ白タイツよね? 幾らなんでも、防御力高すぎない? 露出部分が頭と手しかないって、戦前の女学生じゃないんだから」


 しかし、そのご意見はスルー。

 俺は話題を変えようとする。

 だというのに、それでもやつはお喋りを続けた。


「それに、ここ、刑務所か何か? 部屋にベッドと鏡とクマのヌイグルミしかないって、ある意味ホラーよ?」

「……ほっといて下さい」


 このツッコミに対し、俺はやはり笑顔で対応する。


 つーか、何だよ、さっきから続くこの女子力チェック? 

 もしかして俺、ケンカ売られている?

 俺がどれほどのガールパワーを誇っているか、試されているのか?

 そんな些事にかかずらっている暇など、今の俺にはないというのに。


「いえ、本題に入りましょう。あなたはやはり、この黒い剣(?)に関係がある方なのですよね?」

「………」


 すると、彼女は謎の沈黙を見せる。

 それからやつは、何故か恐る恐る右手を挙げた。


「ええ……それは間違いないわ。私はその剣が起動した事で発生した、ナビゲーションシステムみたいな物だから」

「ナビゲーションシステム? じゃあ、あなたはやはりこの剣の事を知っている?」


 笑みを浮かべた彼女の答えは、以下の通り。


「いえ、それがシステムに不具合が起こっていて。正体まではわからないみたいな――?」

「………」


 なので、俺はもう一度、微笑みながら、彼女に向かって人差し指を突きつけた。


「ちょっと待って! 本当に本当なので! だから、時間を、時間をちょうだい! 何とかシステムを修復して、それが何なのか解明してみせるから……!」

「……はぁ」


 この場合、果たしてどうした物か?

 やつの言葉を、信じる?

 信じるに足る、根拠も担保もない人間(?)の言葉を?

 そう思いを巡らせていると、やつはもう一度手を挙げる。


「け、けど、一つだけ確かな事があるのよ。それは、私はその剣の所有者が理想とする異性となって、具現するという事。つまり私はあなたが想像する限り、最高の容姿を持って生まれてきたという事なの。

 ……でも、その私は、なんだって女性として具現したのかしら? あなたは間違いなく女性で、それなら私は男性として具現する筈。なのに、私はこうして女性として誕生した。それはつまりあなたはアッチの趣味の持ち主か、それとも実は男性という事になるのだけど。一体どういう事……?」

「あー」


 この追求を前に――俺はやはりこの少女を■すしかないと決意していた。


 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございました。

 マカロニサラダは皆様の、評価をお待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ