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ベーダーマン  作者: マカロニサラダ
19/37

⑲激戦の後日談その一

     ◇


 目前にはあの金髪の少女が、シーア・クレアムルが居る。

 故に、俺は思わず息を呑む。

 俺は懇願する様に、彼女に告げていた。


「……なんで、とめる? 退け、シーア。頼むから、今は、邪魔しないでくれ」


 いや、俺が彼女の体を押しのけ、あの男に止めを刺した方が遥かにはやい。

 そう決意した時、彼女が意味不明な事を口にする。


「いえ。もう、何もする必要はないわ。これ以上は、彼女が――冴木さんが、悲しむだけよ」

「は……?」


 ……星良が、悲しむ?

 悲しむ?

 何を言っている、シーアは?

 だって、星良は、もう事切れている。


「いや……違う?」


 まさか、そういう事……?


「つ――っ!」


 僅かでもそう感じた途端、俺は何の躊躇もなく敵に背を向け、彼方へと走る。

 星良が横たわるあの場所目がけて、猪突した。


「……ああ……ああ」


 理由なんて、知らない。

 そんな事は、どうでもいい。

 だって、俺の耳には確かにその音が聴こえていたのだから。


「生き、ている。……生きて、いる」


〈体概具装〉で聴覚を『強化』し、確認する。

 星良の心臓が、ちゃんと脈打っている事を。

 俺はその場にへたり込み、四つ這いで星良へ近づき、彼女の躰を抱きかかえる。

 今度こそ貌をくしゃくしゃにして涙し、俺の思考はその時点で真っ白になっていた。


「……ああ。星良っ、星良っ、星良っ、星良っ、星良っ、星良っ、星良っ、星良っ、星良!」


 けど、それも束の間の事。

 あろう事か手負いの『葬世界師』を背負ってきたシーアが、俺に追いついてくる。


「って、重い、重い、重い、このヒト見かけよりずっと重い! というか不味いわよ帝! このヒトが気を失ったからか、例の結界とやらが解けている! こんなところ、警察屋さんに見られたら、なんて言われるか!」

「……だな。ここは一先ず退散だ」


 星良を抱き上げた俺は、片膝を着いてシーア達を柄に乗せる。

 人気のない路地裏まで駆け出し、一気にビルの屋上まで跳躍して身を隠す。


 そのまま俺は、鞄からある物を取り出していた。


「……携帯? 何? 白波町に連絡するの?」

「いや、違う。白波町じゃ、都合が悪すぎる。このレベルの『異端者』を相手に、俺がどう勝ったか追及されたら、それこそ面倒だろ? だから、ここは別の場所を頼る」

「面倒って、ま、そっか。……強すぎる力は、周囲から疎まれる物だもんね。こんなのを倒したなんて言えば、帝は今よりもっと普通に生活できなくなるかも」

「ああ。軽く、始終監視される事態にはなるだろう。ソレを避ける為にも、ちょっとした事実の捏造をする必要がある。機種や番号が変わってなければ、繋がる筈だけど」


 だが、幾らなんでも、無理がある?

 あのヒトと最後に会ったのは、もう六年も前の事だ。

 果たして携帯が通じるか否か?


 そう思い、携帯の操作を終える。

 ついで、ありがたくも、俺の携帯からは呼び出し音が鳴り響く。


『はい、黒理ですが?』

「……良かった。私です。神代帝!」


 俺は鴨鹿町の住人たる――黒理刻羽クリコクハとのコンタクトに成功していた。


     ◇


 それから、話は一気に進んだ。


「正直、驚きました。まさかこのレベルの『異端者』を私達以外のニンゲンが倒せるなんて」


 ……つーか、それは俺の台詞だ。

 電話で大まかな事を話してから、まだ一秒たってねえぞ?

 だというのに、黒理刻羽は当たり前の様に、地面にへたり込む俺の目の前に居た。


「………」


 というか――強い。

 子供の頃、初めて会った時も強いと思ったが、今は次元が違う。

 もしかしてこのヒト、『葬世界師』より遥かに強くねえ? 


 そんな事を思いつつ、俺は黒いドレスを纏い、黒い髪を背中まで流した少女を見上げる。

 てか、子供の頃は気付かなかったけど、このヒト、俺と同じくらい美人なのでは?


「とにかく、事情はわかりました。この彼は飽くまで私達、鴨鹿町の町保が倒した。そういう事にして欲しい、という訳ですね?」

「はい。そうしてもらえれば、幸いです。主に、私的に」


 黒理さんは長い黒髪を揺らしながら、フムと頷く。


「了解です。但し条件が。近い内に、貴女の力について調べても良いでしょうか? 勿論モルモット的な意味ではなく」


 ……本当ですか?

 貌は笑顔だけど、何か目はそう言っていない様な気がするんですけど?


 しかし、俺に選択の余地は無い。


「オーケーです。今日の事を秘密にしてくれるなら、私も協力は惜しみません」

 

 それで、話はついた。

 黒理さんは微笑みながら、もう一度首肯する。


「それと、本来なら私が言える事ではありませんが、本当に良く頑張ってくれましたね」


 ほんの僅かな間だけ、彼女は俺の躰を抱き寄せる。

 この余りに大胆な行動を前に、俺は一瞬、言葉を失う。


「では、また近日中にお会いしましょう。さようなら、神代さん。六年前結んだあの縁がこんな形で実った事を、私は心から感謝しています」


 俺が動揺している間に、黒理刻羽は『葬世界師』を肩に担いでこの場を後にする。

 ソレをやはり無言で見送りながら――俺は大きく息を吐き出した。


 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 マカロニサラダは皆様の、評価をお待ちしています。

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