⑮その男、強者なり
◇
「ほ、う?」
直後――先ほどまで俺の直ぐ横に居た男が、感嘆の声を上げる。
名も知らぬ痩身の男は此方に向き直り――二十メートルは先に居る俺達を直視した。
「驚いた! よく気が付いた物だ! 奇襲をかけ一気に終わりにするつもりだったが、いやはや、やはり世界は広い! まさか、私の隠密行動に気が付く者が居るとは! いや、愉快、愉快!」
黒髪をオールバックした髭の男は……正に拍手喝采と言った感じだ。
だが、俺は嬉しくも何ともない。
俺はただ、背筋に走る悪寒を噛み殺すだけで、精一杯だから。
こんな事……生まれて、初めて。
「ああ! 麗しき君よ! 参考までになぜ私に気付いたのか、聴かせて貰えれば更に興が乗るのだが?」
「……第六感、という事ではいけませんか?」
時間を稼ぐ為、無駄口に付き合う。
謎の男は、フムと頷く。
「いや、嘘はいけないな、麗しの君よ! 恐らくだが足音ではないか? 私はほかの群集とは異なり足音を鳴らさなかった! その異常性が君の危機感に火をつけたのでは?」
おまけに……決して痴愚でもない。
やつは正確に俺がなし得た洞察を、看破していた。
というか、この人ごみの中、あのテンションとか。やはり、どこか頭のネジが飛んでいる。
そう感じた時、スーツ姿だった男の服が、中世期じみた物に変わる。
片マントの男は、当然の様に黒い穴から一本の剣をとり出す。
「と、そうだな! 些かモブキャラが多すぎだ! 少し、整理させてもらおうか!」
「なっ?」
やつは、ソレを地面に突き立てる。
それだけで――この周囲から人の姿は完全に消失した。
「――結界ッ? この空間を、別空間で隔離したっ?」
「流石! そちらも似た様な業を使える者が居るだけの事はある! 飲み込みがはやいな!」
やつは、歌う様に告げる。
それを前に、俺は冴木星良と共に一歩後退する。
俺はここまで聴いて、まさかいう思いで両目を広げていた。
「……そんな事まで、知っている? まさか、あなたは、昨夜の事を――?」
「御明察だよ、麗しの君! 昨夜の君の活躍は私も実に興味深く観賞させてもらった! その歳でダージュ・ロウを倒すなど、そうない事だ! お蔭で私は――君に興味を持った訳だ!」
「は……?」
興味を、持たれた?
何時だって誰かに興味を持たれない様に振る舞っていた、この俺が?
よりによってこんな化物に、興味を持たれたと?
それは紛れもなく俺にとっては敗北と言える事実であり、目を被いたくなる現実だ。
たった一つのミスで、冷静さを欠いたあの軽率な行動の所為で、俺は終わりかねないと言うのか?
だが、俺の絶望はとどまる所を知らない。
男は今更ながら、大げさに一礼する。
「と、そういえば自己紹介がまだだったか!
私は『十八界理』が一人――『葬世界師』――ラメルド・ハウンズという者だ!
以後、お見知りおきを!」
「……『十八、界理』? 『葬世、界師』ですって――?」
よって、今度こそ神代帝の意識は、黒い絶望へと突き落された―――。
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