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ベーダーマン  作者: マカロニサラダ
1/37

①序章と謎の少女。

 本作は、ヴェルパス・サーガという大きな括りの一つです。

 ヴェルパス・サーガ第一弾を、どうぞお楽しみください。


     序章


 そして、その日――俺は死んだ。

 

 なんと言うか、もうこれでもかっていうくらい死んでいた。

 これで生きていたら、ニンゲンじゃねえよって位の勢いで死んでいた。

 

 何せ、こう背中から腹にかけて、バカでかいナニカが突き刺さっている訳だし。

 お蔭で俺は路上ながらうつぶせに倒れ、周囲の人々から奇異の目で見られた。


「は……?」


 奇異の……見られる?

 年端もいかない女子高生が、ナニカで躰を貫通されているというのに?

 串刺しにされた俺を、周囲の人々は心配もせず、変人を見る様に眺めていると? 


 そんな――バカな。


 幾ら平成の人は昭和の人に比べドライとはいえ、それは無い。

 せめて早急に救急車とか呼んでももらっても、罰は当たらないだろう。

 俺としては、そんな感じでしかない。


「……えっと。君、大丈夫?」

 

 そこで漸くサラリーマンと思しき男性こと――山田太郎(仮名)が声をかけてくる。

 俺は、最後の力をふりしぼって貌を上げた。


「いえ、駄目です。私は多分、死ぬでしょう。だから、コレは遺言だと思って聞いて下さい。姉さん。あんただけは例え死のうが――絶対に私がブッ殺す。私の両親にそう伝えて下さい。私がこう言っていたと伝えれば、多分、納得してくれるので。

 ああ、後、私の両親は共働きで月に二日ほどしか帰って来ないからご注意を。かなりの放任主義者なんですよ、私の親って。

 ええ。それなのに反抗期の時は――家の柱に『私、降臨!』って落書きした程度で済んだんだから、凄いと思いません?」


 そこまで早口で言い終わると、何故か山田太郎(仮名)は怪訝な瞳を俺に向けた。


「……いや、君、そんなに流暢に喋れるなら、何の問題も無いと思うけど?」

「………」


 言われてみれば、そうだ。

 俺は今、確実に死にかけている筈なのに、なぜこうも元気ハツラツなのか?

 逆に、腹にエナジーが漲っているのは何故だろう?


 そう考えていた時、件の山田太郎(仮名)が、俺の肩に手を乗せる。

 瞬間、俺の意識は更に覚醒し――超人的パワーに目覚めた。


「ぎゃああああああああああああぁぁぁぁ~~~~~~~!」


 同時に、我ながらわかりやすくも、トラウマが再燃する。

 ただ異性に触られただけで、俺は〝アノ時〟の記憶を思い出し、迅速に立ち上がる。

 そのまま脱兎の様な勢いで、後退した。


「あの。オジサン……今、凄く傷ついたんだけど……?」


 見れば、十メートルは離れた場所に、例のサラリーマンが立っていた。

 彼は自分で言っている様に、酷く哀しみに満ちた表情で俺を見ている。


 きっと女子高生に、首が無いゴキブリみたいな扱いを受けたのが良くなかったのかも。

 少なくとも、俺はそう納得した。


「いえ、安心して下さい。私、〝アアされた時〟は、誰にだってこういう態度をとるので。寧ろ石を握って頭部を殴打されなかった分、得したと思ってもらえれば幸いです」


 常の様に上品な仕草と微笑みで、断言する。

 これが効いたのかは不明だが、山田太郎(仮名)は曖昧な笑顔を浮かべた。


「……うん、わかった。じゃあ、オジサン、帰るね」


 件の親切なサラリーマンが去っていく。

 今どきにしては善良な人だったと感心しつつ、俺は自分の姿を顧みる。

〝いや、それ以前にお礼の一つも言えや〟という謎の幻聴を聞きながら、俺はソレを無視。

 ただ件の作業に埋没する。


「えっと、スカート、オーケー。セーラー服、オーケー。髪も乱れてないし、お肌も艶々」

 問題があるとすれば服についた土と、後もう一つ。

「………」


 小首を傾げながら、俺は近くにあったパン屋の窓に己の全身を映す。

 やっぱり、刺さっていた。俺の背中には巨大なナニカが、貫通している。


 その光景を見ながら、二、三度まばたきしつつ、もう一度首を傾げた。


「……ああ。やっぱ私、死んでいます」

 

 そう。

 俺こと――神代帝は、自分の最期をもう一度自覚する。

 縦二十センチ、横三メートルはある巨大な剣に串刺しにされた、自分の姿を確認したから。


     1


 では、ここで話を纏めてみよう。


 アレは、つい五分ほど前の事だ。俺は何時も通り、帰宅部らしくさっさと下校した。

 その途中、財布を漁っていると、一円玉が地面に落ちてしまった。

 それを拾うためしゃがみこんだ途端――背中から腹にかけて途轍もない衝撃を受けたのだ。


 お蔭で俺の躰は地面に叩きつけられ、前述の通り、腹這いに倒れる事になった。


「……というか、何? このメカぽさ? 超科学? これは、超科学の産物なの……?」


 窓ガラスに映った自分の姿を見ながら、疑問符を並べる。

 俺の躰を貫いている巨大な黒い剣を、ただ観察する。

 刃の長さが二メートル程もある、規格外の長刀を無様に見つめ続けた。

 だって、ほら、柄(?)の部分が何故か回転しているし。

 こう柄(?)に取り付けられた二つのリングが、それぞれ逆回転でグルグルゆっくり回っているのだ。

 イメージ的には変則的ドリルみたいな感じ?

 

 更にヘンなのは、誰もその事に気付いていない点である。

 今正にヴラド三世に処刑されたポイ俺の有様を、誰一人不思議に思っていない事だろう。


 つまり――考えられる可能性は、二つ。

 一、俺の頭がおかしくなった。

 二、それともコレは〝俺達〟にしか見えない。

 単純に考えれば、そのどちらかでしかない。


「ま……良いでしょう。このまま帰れば、どちらなのかは直ぐにわかります」


 そう納得して、俺はこの場を後にした。

 時にして――五月十日の事である。



 で。二十分ほどかけ、俺は自分の町に帰還する。

 いや、ここは格好よく〝生還〟と表現したいところだが、問題はそこではなかった。


「あら、帝ちゃん、お帰りなさい。今日も早いのね。運動神経良いんだから、部活でも入ればいいのに。オホホホ」

「ええ。ただいま、佐藤さん。でも私、一応、例の集団の候補生だから……」

「あら、そうだったわね。何時もお勤めご苦労様。オホホホホ」


 会話は、それで終わった。

 どうもこの町のニンゲンでさえ、俺の異変には気付いていない様だ。

 だとすれば、一で確定か? 常日頃から多大なストレス下にある俺の頭、遂に狂った?

 でも……何で急に?


 確かに、俺の学校生活はかなりの緊張状態にある。

 少しでもヘマを踏めば、その時点で俺は社会的に抹殺されるだろう。

 こう、俺の事は誰も知らないブラジル辺りで、再起する必要に迫られる。


 けどニンゲンとは不思議な生き物で、時間さえかければそういう環境でさえ慣れてしまう物なのだ。


 お蔭で高校に入学してから一年ほど経った今では、ほぼ問題は無い。

 懸念があるとすれば、偶に円形脱毛症を患う位だ。


「……なのに、今になって、何故?」


 問題は、コレは他人に相談できる類の話ではない、という事。

 俺にしか見えない物が見えているという事は、そういう事だろう。


 こう、霊感が強いヒトが、幽霊が見えると主張するのと同じだ。どう足掻こうが、見えている事を第三者に証明できない以上、結果は決まっている。何と説明しようと、俺の頭が疑われるだけに違いない。


 なら、答えは一つだ。


「ですね。もう気にするのは止めにしましょう。私は何も見ていません。見ていませんよ」


 誰に聞かれるかわからないので、〝余所行き口調〟で独りごちる。

 上品にひたすら美しく、俺は自分に言いきかせた。 

 と、その時、俺の直ぐ横を、仲が良さそうな姉弟が通り過ぎる。

〝俺達にもそんな時代があったなー〟と地面に唾を吐きそうになりながら、俺は我が家のドアを開けていた。



 それから、俺は思いっきり脱力する。


「はぁーあ。今日もお疲れ、っと」


 二階にある自室に戻ってきた俺はベッドに腰掛け、一息つく。

 肺に溜まった酸素を吐き出し、ついでにゲロも吐きそうになってベッドに横たわる。

 面白おかしいのは、例の大剣(?)が全く邪魔にならない点。

 やはりこれは霊的なナニカなのか、壁や床に触れてもその部分は透過してしまう。


 今もベッドをすり抜け、多分、一階の天井辺りに柄(?)の部分が飛び出ている。

 気にしないと決意した物の、正直、この状態はやはりヘドが出そうだ。

 更に、俺は自ら追い討ちをかける様に、近くにあった手鏡を手に取る。


「……うっわ。何時もの事だけど、何、この美人?」


 其処に映った自分の姿を見て、俺はそんな自惚れを口にした。


 でも、事実だ。


 現実にはほぼ居ないと断言できる、白い長髪は我ながら美しい。

 瞳の色は氷の様なアイスブルーで、やたら目力がある。

 髪に相克するほど白い肌は、間違いなく女性の物で、何の言い訳もできない。

 その整いすぎた貌立は、美貌の中にあって尚、美貌と言えるだろう。

 女子ばかり集まる女子高に通っている俺が言うのだから、間違いない。


 実際、俺は今まで自分以上の美人という物を、見た事がなかった。

 あの姉でさえ、俺の足元にも及ばないと断言できる程に。


「……あー。元はと言えば、それが全ての発端、か」


 手鏡を元あった場所に戻して、俺は天井を眺める。

 もう貌も思い出せなくなった姉の事を考え、またゲロを吐きそうになる。


 その時――俺はついにソノ光景を目撃した。


「は……?」

 

 ソレは、余りにバカげた話だ。常軌を逸していると言って良い。

 いや、俺も今まで、真っ当な世界で生きてきたとは言えない。

 けど、その俺でさえこの異常は、とても容認できる物ではなかった。

 その理由は、一つ。


「……はぁ。漸く物質化完了か。全くこのポンコツは私の性能に追いついていないのだから、始末が悪い――」


 俺の直ぐ目の前には、ツリ目で金色の髪をした、見知らぬ少女が立っていたから。


 しかも、全裸で。


 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございました。

 マカロニサラダは皆様の、評価をお待ちしています。

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