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日蝕の日  作者: 川霧 悠
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第七話 それでも、抗わなければならない

 慌てて意識を再起動させる。しばらく見惚れていたいものだが、生憎そんなに余裕がある状況でもない。


 急いで状況確認を図る。直ぐに誰なのかは分かったが、それが幸いなのか不幸なのかは分からない。


 その人影は公園の入り口に立っていた。


「紅華!」


 紅華がここにいるということは助けが来たということ、と考えたかったがそれにしては早すぎる。その上他に人影は見当たらない。


 紅華を逃がさないといけないのに、ここに来たら本末転倒だ。


「早く逃げろ‼逃げて助けを呼んでくれ‼」


 それで紅華が逃げてくれればと叫ぶ。肺は限界に近いが、それでも振り絞るように叫ぶ。


 すると、紅華は息を吸い込むような動作をした後、僕と同じくらい大きな声で叫んだ。


「嫌だ‼」


 急に飛んで来た拒絶に絶句する。なんとか言いくるめようと言葉を紡ごうとするが、それより先に次の言葉が飛んでくる。


「そりゃあ私も死にたくないし痛いのも嫌だよ。それにあの妖魔も怖いし、本当は人を呼びに行った方がいいのかもしれない。でも、綾斗だって‼綾斗だって怖いでしょ。それなのに放っておくなんてしたくない。それに、嫌だよ。綾斗だけに任せて知らないふりをして、それで綾斗が大けがをしたり死んじゃったりしたら‼いつもいつもそうやって‼おいて行かれる方の気持ちも知りもしないで‼つらいなら私にもちょうだいよ、そのつらさを‼そんなに一人で背負って、そんなに一人で背負いたいなら力ずくでも奪うから‼」


「いや、僕はそんなつもりなんかじゃ……」


「だったら私も一緒に背負ったって良いでしょ?それか私なんかじゃ力不足?さっきも死にかけてたくせに‼」


 叫ぶようなその言葉から感じたのはやさしさだった。もちろん怒らせて発破をかけようとしていることはわかっている。こんなのじゃ思惑外れもいいところだ。


 でも、勇気づけられたのも確かだ。さっきはあんなに逃げ腰だったのに、そんな姿を見せられたらもう立ち向かうしかないじゃないか。


「……分かった。だけど、死ぬかもしれないぞ?」


「そんなことは分かってるよ。でも、そんなことより置いてけぼりを食らう方が嫌かな」


「そっか、じゃあ……」


 炎によるダメージから回復しつつある妖魔を見据える。


「反撃開始だな」


「うん‼」


 角の鞭による攻撃が飛んでくるのをほとんど反射で避ける。騒音でかき消されないように声を張り上げる。


「どんな攻撃が出来る?」


「さっきのやつみたいなのしか。あれで精一杯」


「そうか……」


 見たところ毛皮らしきものが燃えただけで内部まではあまりダメージが入っていないようだ。


 これは難しいかな。……いや、弱気になってたらその時点で負けだな。これではいけないと気を取り直す。


 その間にも角の鞭は飛んできていて、僕たちは防御しか出来ていない。それもそのはずだろう。攻撃手段があまりにもなさすぎるのだ。紅華もさっきのを連発できるようではないし……いや、もしかしたら行けるかもしれない。このままではいずれ負けるだけだ。仕掛ける価値はあると思う。


「紅華、さっきの奴お願いしてもいい?」


「うん、でもあと一回で限界だと思う」


「それでいい。じゃあ三、二、一で頼む」


 悠長にしている時間などなく、もう次の攻撃は迫ってきている。


「三‼」


 角を避けながら、妖魔の反対側のほうに駆け回る。


「二‼」


 後ろからの攻撃に対応できずに吹き飛ばされた。正直かなり痛いが、今は我慢するしかない。それに、もう目的の場所には着いた。


「一‼」


 ジャングルジムがあった場所。無残にも破壊されてしまっているがそれでいい。その残骸の中でも特にとがっているものを手に取る。


「〇‼」


 再度視界が紅く染まる。あれほど激しかった角による攻撃は止み、その角は炎を振り払うことにのみ使われている。つまり、今はノーマークだ。


 ジャングルジムの残骸を手に取ったまま走り出す。視界は炎で無いも同然だ。肌を焼くような感覚は不思議と無く、燃え盛る中でも息はできる。


 残骸を振りかざす。失敗などはできない。もしそうなったら待っているのは死だろう。


「はぁぁぁぁあああああ‼」


 首の付け根の中心部、そこにある妖気の流れが集中している石。そこを狙って刺された残骸は、体重により深く沈みこんだ。


「足りない……」


 あと少し、あと少しだけなのに、その石の寸前で残骸は止まっていた。


 妖魔がこの世のものとは思えないような叫び声を上げる。既にこちらに向かって放たれた角の鞭を避ける方法は今の僕にあるはずもなかった。


「かはっ……」


 物凄い衝撃が襲ってくる。とっさにガードに使った左腕は完全に折れただろう。僕の体はきれいに吹き飛んでいただろう。すぐに地面叩きつけられ肺の中の空気を一瞬にして奪われる。


 もう立ち上がることすらできない。いや、生きているだけでも幸運なのだろう。


 晴れた視界の中、紅華が走ってきている。出来るだけ注意を僕からそらそうとしてくれているが、あまり効果もないようだ。


 妖魔がこちらへと近づいてくる。僕を食べる気か?鹿なのに。


 妖魔がその前足を振りかざす。せめて恐怖は感じたくないので、目をつむる。


 死にたくはないが、今は本当に何のしようもない。体は命令を受け付けない始末だ。


 ……遅いな。


 恐る恐る、恐怖しながらも目を開けていく。


「いやはや、電車まで騒音が響いてきたので来てみたら。まさか親友がこんなに情けないことになっているとはな。まあ、間に合って何よりというべきか?綾斗」


 薄めの視界に映ったのは、手に持った札のようなもので妖魔の攻撃を止める庵の姿だった。


「助けるなら……もっと…早く…」


 それから、僕の意識は暗転した。

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