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日蝕の日  作者: 川霧 悠
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第四話 新しい家族、神の獣

 時間というものはあっという間に過ぎてしまうと、つくづく思う。


 今日だってそうだ。朝からずっと病院で、もっと暇になるかと思いきや、考え事をするだけで一瞬で過ぎていった。そのせいで昨日父さんが置いて行ってくれた本を読む時間さえなかった。


 正午を回ると父さんとお医者さんがやってきた。特に何かをしたというわけではなく、血圧や体温を測り、簡単な受け答えをするだけで解放された。どうやら意識を失っている間に全て調べていたようだ。


 お医者さん曰く「過度な運動は控えるように」とのことだった。




「そう言えば一昨日の狐ってどうなったの?あれから引き取ったみたいだけど」


「ああ、そうだったな。もう元気すぎるくらいだよ。早くも馴染んでるみたいだったから安心して良いと思うよ」


「そっか、よかった」


 その返しに多少の違和感は感じたものの、一先ずほっとした。


 暫く歩くと、いつもの我が家が見えてくる。何の変哲もない一軒家だが、家というものはどこか落ち着くような雰囲気を纏っている。


 父さんがインターホンを鳴らしてから鍵を開ける。少し物音がしたが、隣の家からだろう。というか家からだったら恐怖でしかない。誰もいないはずの家から物音?泥棒が入っているわけでもあるまいし。


 そして、案の定……と言っていいのかは分からないが、その期待は裏切られることとなった。


「ただいま」


「おかえりー」


 父さんの言葉に、誰かが答えた。


 僕は一瞬異常なことに気付かなくて、中に入ってしまった。


「あ、おか…………綾、斗……?」


「えっと…………誰?」


 その声の主を見て、僕は一瞬何重もの意味で固まる。


 誰もいないはずの家に人がいたからか、見ず知らずの少女が目に映ったからか、はたまた父さんがそれが当然かのように振る舞ったからか、全てかもしれない。でも、僕が固まった一番の理由はそれではない。


 その少女を表すのなら、獣人という言葉が近いだろうか。




 少女には、狐のような耳と尻尾がついていた。




 固まる僕を余所眼に、父さんが少女に何かを耳打ちしていた。少女は急にはっとした顔になると、こちらを向きなおしてこう言った。


「初めまして、稲荷紅華です。よろしく、綾斗」


「あ、ああ、うん。こちらこそ」


 動揺しながらも辛うじてそう返すと、父さんをリビングの隅に引っ張って行って問いただす。


「あれ誰?というかなんなのあの耳とか。絶対人間じゃないでしょ⁉」


 疑問符や疑問感嘆符がひしめき合う言葉しか出てこない。


「お、落ち着け、はあ、こんなことなら昨日一緒に話しておくべきだったな……。ほら、妖魔は負の感情が固まって生まれたものだろう?逆に正の感情は普通に固まることはない。動物の体に蓄積されていって、それがある程度たまるとあんな風に神獣となるんだ。

 そして、綾斗が一昨日拾ってきたのはあの子だ」


 ――つまり、どういうことだ?


 神獣?何それ美味しいの?と、とぼけることが出来たらどれほど楽だっただろうか。ほんとうに、巻き込まれ体質とはよく言ったものだ。僕としては不本意なのだが……。


「でも、この子どうするの?戸籍もないだろうし、それにどう見ても普通の人間じゃないし」


「ああ、それなら大丈夫だ。普通の人にはあれは見えない。それに戸籍なら、ほら」


 そう言って父さんが取り出したのは一枚の紙切れだった。よく見ると、いろいろと個人情報が書かれていて、名前のところは稲荷紅華となっている。


「まさかこれって……」


「ああ、戸籍抄本だ。と言ってもちょっと頼み込んで作ってもらった偽装の、だけどな」


「うそでしょ……」


 いつの間にか父さんは犯罪を犯してしまっていたようだ。というか誰にどうやって頼み込めばこんなことが出来るのだろうか。今更ながら父さんがどんな人なのかが分からなくなってくる。


 と、一人蚊帳の外になっていた紅華が「ここどうすればいいの」と父さんを取って行った。何の書類を書いているんだろうか。少し興味がないでもなかったが、何でもいいかと思い特に追及はしなかった。


 聞いてみると、紅華はあの山――高陽山に住んでいたようだ。怪我はちょっとへまをしたとしか言わなかった。


 少し、避けられているような気もした。

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