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第六話 それはまるで磁石のように






「てことで最初の話に戻るけどさ、互いに適切な距離感を保つことにしよう」


「やだ」


「ちょっと距離を取るだけだって。くっつき過ぎるのはあれだけど、それ以外は今まで通りでいいから」


「やーだー」


「さしあたりは別々の部屋で寝るようにするくらいだって…………スズ、こっちに引っ越してきてからまだ一回も自分の部屋で夜寝てないだろ」


「いぃ〜やぁ〜だぁ〜〜〜」



リョウの意見など知ったものではない。


スズはリョウのベッドで大きなぬいぐるみを抱き、足をバタつかせながら子供のように抗議している。



ーーバタバタっ……ちらっ……



「お〜ね〜が〜い〜〜〜」



ーーバタバタバタっ……ちらっ……



駄々を捏ねてはリョウの様子をチラチラと伺うスズ。


されどリョウは死んだ目を返すのみで、一向にスズの意見を許可する気配はない。


となれば……



「裁判官! 弁護人の異議申し立てを申請します!」



許可を得るため別アプローチからの攻略が始めるのは必然であった。



「……どうぞ」


「まず初めに、こちらをご覧ください」


「ん、これって」



スズが自信満々に差し出してきたスマホに映っていたのは……



「そうです、スズがリョウにぃのために作った朝ごはん及び夜ご飯のメニューのメモです。この通りリョウにぃのためを思って、栄養素まで事細かに考えております! ……何か言うことは?」


「……とても美味しかったです、感謝してます」


「次にこちら!」



スズが大きな身ぶりで仰ぐように指したのは……



「リョウにぃが適当に洗っては部屋干しして、そのまま放置していた洗濯物の数々。この通り暖かな日差しで乾かして綺麗にきちんと折り畳まれております」


「……ですね」


「シワだらけでくたびれていたシャツもこの通り、アイロンがけまでしてピッシリと! 今リョウにぃが着ている白シャツもその一つであります! ……何か言うことは?」


「……おかげで気持ちがとても晴れやかでしてた。めちゃくちゃ感謝してます」


「さらにさらにこちら!」



極めつけといった様子で自信満々なスズが、ツー……と人差し指でフローリングの隅をなぞる。


そしてその指先をリョウに見せてドヤーッと。



「ホコリ一つも残しておりません。完の璧に掃除を隅々まで行き届かせております!」


「……ほんとだ。気づかなかった」


「部屋の掃除はもちろんのこと、本棚、クローゼット、押入れ全てに渡って整理整頓を完了させております!」


「ここまでスズの家事が万能レベルだったなんて……」


「自分で言うのも恥ずかしいけど、もはや匠の為せる技、プロ並の仕事と言っても過言ではないのでしょうか!」


「それは……確かにそうかも」



熱く自分の意見を主張し切った後に、発せられたリョウの肯定にスズはニヤリと不敵に笑う。



「リョウにぃ、今認めたね?」


「え? 何を?」



何を認めたのかまるで分からないリョウ。


だがスズはお構いなしに続ける。



「スズの家事が、プロの仕事並だと認めたね?」


「うん、認めたけど……それが?」



その様子は、まさに相手を丸め込む弁護人のそれで。



「じゃあさ、仕事には当然報酬が用意されるべきだよね?」


「………………あ……」



気づいた時には既に遅し。


その先の展開を想像し、リョウは自分が袋小路に陥ったことを瞬時に理解した。



「ちょいストップ! 報酬なら別にちゃんとしたものを用意するからそれで……」


「もう遅いよリョウにぃ! この手は使いたくなかったけど、リョウにぃがその気ならスズはそれ相応の武器で対抗するんだから!」



リョウが待ったをかけても、スズの勢いはブレーキが壊れた暴走列車のように止まることを知らない。


かくして放たれた言葉は。



「スズはこの三日間働いた報酬の対価として、リョウにぃとの同衾を要求します!!!」



完全勝利を確信しながら、声高らかに宣言されたスズの言葉にリョウは……



「…………同衾じゃなくてせめて添い寝って言ってくれ」



どう考えても安過ぎる報酬に頭を悩ませた。


どうして労働の対価に求める報酬がリョウと一緒に寝ることなのか。


いっそ少しお高いブランド品でもねだってくれた方が安心するのに……


けれどぶつくさと文句を言いながらも、結局はニコニコ顔のスズの表情に押し切られて同衾(添い寝)を承諾するのだった。


なぜ離れようとすると距離が縮まるのか、……不思議だ(脳死)。







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