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第十三話 天啓を得てしまった理想のブラコン






「子供は……まだ作っちゃダメだよ」


「ふぇ?」



スズは風ちゃんの訳の分からないセリフと、何故か涙ぐんでいる様子に一瞬時が止まる。


……とりあえず、残り一口だったコロッケを口にぽーいっと放り込んだ。



「えと……ごちそうさま」



しっかりと手を合わせて間食を終え、紙くずを肉屋のおばちゃんに手渡した。


そして少しおかしな様子の風ちゃんに、頭に?を浮かべながら向き直る。



「風ちゃん、風ちゃん、子供ってなんの話?」


「だってぇ……スズがぁ……スズがぁ…………うわーん!」


「えぇ……どうしちゃったの?」



困った。


これは一月に一回くらいのペースであるある情緒不安定バージョンの風ちゃんだ。


このままの風ちゃんでは、ちっとも会話が成り立たない。


なのでスズはいつもみたいに、



「よしよし、大丈夫だよ〜。落ち着いてからでいいから、ゆっくり話してね〜」



ひっくひっく、ポロポロと涙を流す風ちゃんを、スズは包み込むように優しくあやした。






「ひっく……ぐすっ……」


「風ちゃん、落ち着いた?」


「……うん」



風ちゃんはスズが差し出したハンカチで涙を拭き、鼻をスンとすする。



「すん…………今日のスズは、なんだか母性に溢れてる気がする」


「母性? ママみたいってこと?」


「そう、ママみたいで……子供がいて…………うぅっ」


「あわわ……また泣き出しちゃった」



またもなぜか瞳を潤わせ始めた風ちゃんにスズはオロオロと、そしてなぜ泣いているのか話を聞くまで待つことしかできない。



「風ちゃんどうしたの〜? なんで泣くの?」


「だって……」


「うん」


「スズがぁ……」


「うんうん」



スズに相槌を打たれながら、風ちゃんは力強く叫んだ。



「スズが! 知らない大人の男性と寝ちゃったんだもん!」


「風ちゃん!?」



肉屋のおばちゃん、その隣の八百屋のおじちゃん、そのまたさらに隣の魚屋のお爺ちゃん、そして近くにいた通行人が一斉に目をギョッと剥いた。


ここは人通りの多い商店街。


また二人がいつも通学路として使っていることから、いわば顔見知りが集まる場所である。


なので巷では美少女で有名なスズの突飛なニュースに、周りの人たちが反応してしまうのも仕方のないことであった。


これには流石のスズも戸惑いを隠せ……



「知らない男の人じゃないよ! お兄ちゃんだよ!」



……ないことはなかったらしい。


これは重要とばかりに、ズレた訂正を真顔でしている。


そんな親友の様子に風ちゃんは、



「うわぁーん! まだお兄ちゃん呼びプレイしてるぅ!」


「風ちゃんっ!?」



夕日に涙を煌めかせながら、どうしようもない現実から逃げるように駆け出した。








「ごめん、もう一回言って……」


「うん、リョウにぃは血の繋がったスズのお兄ちゃんだよ」


「もう一回」


「リョウにぃはスズのちゃんとしたお兄ちゃんなんだって」


「……ほんとに?」


「ほんとに」


「プレイじゃなくて?」


「えっと……プレイってなに?」


「いやっ……」



風ちゃんが駆け出していった後、同じく文化部系であまり運動をしていないはずなのに、いやに運動神経が高いスズによってあっさりと捕まっていた。


そして近くの公園で、スズの『お兄ちゃん』について延々と言い聞かされて今に至る。


スズの言う『お兄ちゃん』が彼氏でもなんでもなく、リアルブラザーだということをやっと理解した風ちゃんはと言えば、



(ぬぁあああああーーーーー!!!!!)



心の中でもんどり打っていた。


恥ずかしい。


あまりにも恥ずかしすぎる勘違いだ。


スズに彼氏ができて大人の階段をのぼったと勘違いして気まで失ったのだ。


自分の心と発想が、スズと比べて恐ろしいくらいに汚れていることをとてつもなく実感させられる。



「ていうか! なんでスズは十も年上のお兄ちゃんと一緒のベッドで寝てるのよ!」



なので半ば逆ギレ気味に話の矛先を変えた。



「え? 兄妹だったら普通のことだよ?」


「いやいや、全然普通じゃないから!」



食い気味に否定してくる風ちゃんにスズは少しムッと、



「仲の良い兄妹だったら普通だもん!」


「いやいやいやいや……」



子供の頃ならともかく、良い年頃の兄妹が同じベッドで寝ることを普通だと主張する親友に脳の理解が追いつかない。



「い〜い、風ちゃん? 朝はハグで起こして、いってらっしゃいとおかえりは玄関前で、ご飯はなるべく三食手作りしてあげて、お風呂では背中を流すし、寝る前はベッタリと甘える。おはようからおやすみまで独り占めするのが理想の妹の務めなんだよ!」


「いやいやいやいやいやいや……」



そこからさらに追い討ちをかけられ、風ちゃんの頭の中は『いやいや』で埋め尽くされようとしている。


むしろ自分の感覚がおかしいのでは? と感じ始めるほどだ。



「……あのさ、スズにとってお兄ちゃんってなんなの?」


「世界の全てだよ」


「っふー……」



風ちゃんはこめかみをグリグリと押さえ、もう一度強く押さえ、さらにさらに念入りに押さえる。



「全て?」


「全て」


「お兄ちゃんが?」


「お兄ちゃん=世界だよ」



あまりに余りある親友のブラコン発言に、もはや思考回路の崩壊が止まらない。



「……何が、鈴をそこまでさせてるの?」



なので、風ちゃんはそう質問するしかなかった。





「だって、ここまでしないと、またお兄ちゃんがどこかに行っちゃいそうで」





しかして返ってきた親友のリアクションは、少しばかりの憂慮に満ちたもので。



「あ……」



スズと風ちゃんの、遠い昔の記憶を想起させた。



「もしかして、鈴のアクセサリーの……お兄ちゃん?」


「……うん」



それは随分昔、まだ二人が小学生だった頃の話だ。


いつも首に鈴のネックレスをぶら下げているスズに、風ちゃんは話を聞いたことがあった。


スズの両親が亡くなって、そして離れ離れになって家族じゃなくなってしまった、歳の離れた兄がいると。


その鈴はまだ二人が家族だった頃に、お兄ちゃんがスズにプレゼントしたもので、鈴を鳴らせばいつだってお兄ちゃんが自分の下に駆けつけてくれたと。



その鈴をブレスレットにして、今でも宝物のように身につけていることを、風ちゃんは知っている。


スズが花守家の養子になってからは、鈴を鳴らしてもお兄ちゃんが来なくなってしまったことも、知っていた。



「とにかくっ、スズは名実ともにリョウにぃの妹になりたいの! またちゃんとした家族になりたいの!」



握り拳を作って力説するスズ。


長年の想いが降り積もって、タガが外れてしまったブラコンを前に、一体どう対処したら良いのか、正解がまるで分からない。


なので。



「ならもういっそのこと、お兄ちゃんと結婚すればいいじゃない」



呆れ気味に、投げやり気味に、そしてお兄ちゃんと再会できて良かったねという思いも込めて、冗談まじりにそう答えたのだが。



「それだぁあああああ!!!!!」


「へ?」



まるで天啓を得たかのような、まさかのリアクションを返してきたスズに、風ちゃんはもう間抜けな顔を晒すしかなかった。






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